51.熟練の冒険者たち
四階からは今までとは違ってもう少し慎重に進んだ。それでも移動は速い。テマクの〈探知〉は上手い。しかも慣れているので短い指示で三人がきちんと動いた。リーダーはコルハンだが先頭を行くのはアザールで、テマクが注意を呼びかけ、モトラが相手の初撃を盾で受けることが多かった。
「その盾って、普通のじゃないよね?」
「ああ。魔導具だな。特別製だ」
歩きながら小さな声で尋ねる。物に呪符と同じような紋様をつけると魔導具とまとめて呼ばれる。紋様の付け方が特別で、また呪符と同じものを描いただけでは効果が発揮されない。
まったく別の紋様が必要になる。魔導具専用の紋様だ。
「盾で攻撃を受けると、一瞬相手の動きが止まる気がする」
クロウの言葉にモトラが笑う。
「よく見ている。〈固定〉の効果がある。その隙にコルハンやアザールが攻撃をする。彼らにとって一瞬がとても大切だ」
「〈固定〉か……」
「クロウが盾を持つなら〈反射〉を組み込む方がよさそう」
「そういった盾もよく見かける。腕のいい魔導具師の作品を、多少高くても買うべきだな。カナンは魔導具は作らないのか?」
「まじないの方しか教わってないんだ」
まじない師と魔導具師は分野が違う。たまに両方扱える人はいるが、中途半端になりがちだ。
拡張鞄はヒジキに作ってもらった。〈拡張〉の鞄を作る材料を揃える方が面倒だったのだ。
広い四階を通り過ぎて五階へ。魔物も強くなり、少しずつ戦闘に時間がかかるし、コルハンがクロウを積極的に使いだした。司令塔がいる戦いの方法に慣れないクロウは、最初はぎこちなかったが段々と動きもよくなっていった。
私は六階まで出番がないようで、戦闘になったら剣は抜くがあくまで邪魔にならないよう立ち回る。
そしてとうとう、下り道にやってきた。
「六階の地図は持っているか?」
「いや、持ってはいない」
「地図は覚えてるから大丈夫」
「カナンが覚えているのか。六階の地図は独特だったろ? 全部で十ヶ所。丸い広場があったはずだ」
「うん。中央に丸があった」
「そうだ、あれが木だ。カナンはできうる限り遠くから〈氷結〉を木に撃つ。すると、ウィラントが冷気で動きがぐっと鈍くなるんだ。ウィラントは毒牙を持っている。一応解毒剤はあるが、〈氷結〉をすればほとんど動かなくなるから、首を刎ねていけばいい。素材取りはあとでまとめてだ。とにかく冷気を浴びせたらこちらのもの。外したら逃げるぞ」
群れるとあっただけで絵などは添えられていなかった。しかし、毒牙で多少は予測できたはずだ。多分私の脳が答えにたどり着くのを拒否していたのだ。
「気持ち悪いぃぃぃ……」
「そう言うなって。あれは金貨の塊だ。金だ。そう思え」
私の後ろでコルハンたちが小さく笑っている。
群れて木にいる、牙のあるもの。
それはヘビだ。ヘビが枝を這っている。さらにその仲間の上を這う。びっくりするほどたくさんのヘビが木にまとわりついていた。
探知範囲ぎりぎりまで行って〈氷結〉を放つよう言われたが、拒否した。私の呪符は性能がいい。命中率もいいのだ。あんなもののそばに寄りたくはない。無理を言って、かなり遠くから木を狙っていた。
「あいつらの感知範囲はかなり狭い。その代わり、縄張りに入った瞬間群れで襲ってくる」
今もヘビはにょろにょろずるずると木の枝にまとわりついて蠢いていた。長さは一メートルほど。太さは私の腕くらいだ。
今日は六階に人がいないようで、私たちが独占している。
「ウィラントの牙は高額買い取りだ。さあ、やれ、カナン」
握りしめた呪符に魔力を込める。手の中がすっと冷えて、突き出した呪符から氷の塊が真っ直ぐ、木に向かって発射された。しっかり命中し、あたりに冷気の靄が広がる。
「行くぞ!」
クロウと四人が駆け出しウィラントに向かった。
聞いていた通り、ウィラントの動きは本当に鈍い。クロウたちが縄張り内に入っても、飛びかかっては来ずにのろのろと移動をしている。一応威嚇はしていた。が、体温が急激に下がりどうしようもなくなっていたのだろう。
木はそれほど高くない。枝ごと切り落として首を刎ね、跳ねた頭をこちらに投げてくる。
「嫌だってえ」
「いいからとっとと袋に入れろ。牙には触るなよ」
赤い血が滴るそれを、イヤイヤながらに用意しておいた革袋に放り込む。
ゴミ拾い用トングのようなものが欲しい。
「よし、冷気の効果が切れてきた。引くぞ」
そうやって、全部の木を順番に回る。この階はそれ以外の魔物は出ないそうだ。
「大量だ。しばらく遊んで暮らせるぞ」
「呪符代は別だからねっ!」
「おう、経費を引いた額を一対一で山分けだ」
蛇の始末がかなり面倒らしい。
たしかに、木の上から落ちてきて噛みつかれた日には酷い目に遭う。木の真下に行って蛇を捕るのは難しいだろう。相手を動けなくさせてからやりたい放題する方が効率がいい。
縄張り範囲外にいれば襲われることがないと、長時間の睡眠をとることになった。乾燥させた肉やパンを食べて腹を満たしてから、交代で眠る。休憩をとりはしたが、ずっと動きっぱなしで私は眠気に襲われていたので先に休むことになった。
ローブにくるまり、丸まって眠る。本当は枕が欲しい。
眠ったと思ったら起こされて交代だ。
起きていたのはコルハンとテマクだった。
眠る三人の邪魔にならないように膝を抱えて黙っているつもりが、あちらがそうはさせてくれない。三人の寝息が規則的になった頃、テマクが話し始めた。
「カナンは紙屋巡りはしたか?」
「オススメしてもらったところはある程度みたけど、どれも合わない。また探さないと。この牙も墨にしてもらおうと思うから、墨屋もあたらないといけない」
「墨屋なら紹介できるぞ。俺の行きつけがいくつかある。墨はまあ、どこでも基本の腕がよければ大丈夫だろう」
「ありがとう。お願いしようかな」
墨は素材の質と私の魔力を使うだけだ。紙ほど相性は重要ではない。
「紙屋はなかなかいい匂いのところがなくて」
「匂い?」
コルハンが首を傾げた。
「わかる! 相性がいいところは匂いが違う」
テマクは同じまじない師として私の言葉にうなずけるのだろう。
「紙屋が多い通りを案内しようか」
「それは嬉しいかも」
地元の冒険者の紹介は助かる。
今泊まっている宿の居心地の話や、今度開催される祭の見所などを聞いているうちにあっという間に時間が過ぎる。三時間ほどしてクロウたちを起こすと、今度は出口に向かって登るのだ。
「帰りも、五階四階はゆっくり気をつけて行くが、三階は走るぞ」
ウィラント狩りがかなり手早く済んだので二日間の行程になった。普段のヘビ狩りは、仮眠をとりつつ一日がかりになるらしい。
〈氷結〉のない狩り方はとにかく時間がかかるという。
「楽な狩りをさせてもらったな」
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ミハナダに居つけたら金がたまったのにと悔しい思いをするカナンでした。
来週はまた水曜日から更新します。




