50.迷宮潜り
偶然なのかどうなのか。
迷宮そばの冒険者ギルドでコルハンに会った。今日は六階層に行くという。
「俺たちにとっちゃいつもの安心安全な道だよ。どうだ。一緒に行くか? 一気に六階まで一緒に行ってもいいし、それか今日行く予定だったところは……三階か。三階で分かれるのもありだ」
そんなありがたいお誘い乗るしかない。
「ただ、走り抜けるぞ? 着いてこられるかだ」
「行く!! いいよね、クロウ」
「こちらはありがたい限りだが」
「あんたらの腕は知らないが、途中で分かれるならきちんと二人で対応できるところで分かれろよ? 六階まで一緒に行くなら最長三日かかる。食料と水は?」
「大丈夫。十分ある!」
というわけで、急遽予定変更だ。
クロウが渋っていたのはもう一つ理由があった。しっかり地図を覚えているのが三階までだからだ。
でも、私とクロウは〈伝達〉の魔導具がある。これはつがいの魔物の魔石を使った二つで一つの魔導具だ。これがあればなんとなく相手のいる場所もわかった。
しかも、走っているうちに来た方向がわからなくなるのが迷宮の常だが、私はなぜか正確に方角がわかった。常にある方向を感じられる。この世界にも東西南北のような方角が存在していて、その一方向を肌で感じることができるのだ。だから、道に迷わない。
ミハナダの迷宮にも三つ門があった。氾濫が起きたときのためのものだ。今はそれが開かれている。私は、受付にタグを渡した。
ギルド員は私たちを見てにこりと笑う。
「ようこそミハナダの迷宮へ」
干潮が一番魔物が弱くなるとわかっているから、冒険者が入る時間は決まっているのかと思いきや、そうでもないらしい。潜る深さによって、相手をする魔物との相性によって、冒険者は一階へ入る時間を決める。
「六階くらいじゃ強くなろうがなるまいが変わらん。困るのは出てくる時間が合わないと旨い飯屋がやっていないくらいだ」
「迷宮からやっと出てきてご飯なしは嫌だな」
そんな軽口を叩きながら、門を三つくぐって地下へ降りていく。首から提げた明かりが道を照らした。
「私が〈探知〉する」
「走りながらだぞ? 大丈夫か?」
「心配なら補佐してたらいいよ。ほら、私はまじない師だから、今回は呪符を使う気もないし、それくらいはね」
コルハンの他に二人が剣士、そのうちの一人は盾持ちだ。もう一人はまじない師だが、まじないを補助として使うタイプなので、火や氷、風の呪符を駆使するわけではないようだ。
宣言通り一階は走って通り抜けるようだ。それも結構な速さで走る。普段の範囲では〈探知〉して何かいるのがわかっても距離が詰まってしまう。
なので探索範囲を広げる。進もうとしている方向は頭の中に地図を思い描けばわかるので、そこから魔物が移動してくるルートを考えて方向性を持たせた探索にした。
「この先に中型三体」
「ピルドかな。俺がやろう」
先頭を行く男がさらにスピードを上げた。中型は人の子どもくらいのものから、大型は大人の人と同じくらいの背を持つものを指した。
ピルドは子どもくらいの大きさで、手足の長いサルのような生き物だ。毒は使わずそれほど難易度も高くないと地図の余白に書いてにあった。
足が速く、斥候のように動くのがアザール。もう一人、かなり大きな盾を担いでいるのがモトラ。そして中型の盾と剣を持つのがコルハンだ。小さな剣と呪符を使うのがテマク。みんながっちりした体型で、いつもこうやって走り抜けるのかまったく息を切らせていない。髪や肌色はこのあたりの人たちと同じだ。
この土地に生まれ、この土地のミハナダに潜って暮らしているのだろう。
宣言通りアザールが三匹とも始末した。
だが、さらに追加が迫ってる。
「クロウ、同じの追加二匹」
私が告げると、倒したピルドから魔石を取っていた彼らを置いてクロウが先へ向かう。私も正確な位置を教えるために後を追った。暗闇の中で、瞳が明かりに反射する。
「一匹が三歩後ろ」
一応告げるが、クロウもわかっていたのだろう。特に問題なく始末する。魔石の位置は私が知っているので手早く解体した。
紫色のビー玉くらいの大きさだ。
「一階層でこの大きさが手に入るのはすごいね」
後ろから追いかけてきた四人に話しかけると、そうだろうと頷いていた。
「ミハナダのいいところはそれだ。冒険者になりたても、一階層でなんとかやっていける」
「一階層なら怪我をしたらすぐ引き返せばいいしな」
コルハンがクロウの倒したピルドの切り口を見て口笛を吹く。
「しっかり刃の通るところに剣を入れているな」
そこからも〈探知〉で敵の位置を伝えて進み、あっという間に三階まできた。少しひらけた場所で休憩となる。
「しかしよくついてこられるな」
大きな盾を担いで、息も切らせていないモトラにそんな風に言われてもまったく褒められたようには聞こえない。
さすがにつど戦闘になるとはいえ、三時間近く走り続けて息が上がってしまった。こっそり〈身体強化〉の呪符を使ったのを、まじない師のテマクに見られた。
「四階からは走らない。もう少し慎重に行かないとダメだからな。〈探知〉はテマクが。カナンも確認して大きさを覚えておけ。魔力は?」
「まだまだ全然、問題なし」
「かなり多いんだな」
「それもあるけど、魔導具の質がいい」
「へえ。大金を使ったのか」
「〈探知〉の質で戦闘の質が変わるからね」
先に大きさから種類をしっておくだけでこちらの被害が減るのだ。
私の言葉に四人が頷く。
「魔導具に金を割けるのはいいことだ」
「クロウの腕もいい。本当に銅級か?」
「カナンにいたっては鉄級だろ? 探索の能力はかなり高いぞ」
褒められて悪い気はしない。でも手の内を明かしすぎる必要もない。ここにいるのは約束の一ヶ月だけだ。
「二人で狩りだから、確実に安全を取るような形でやってた。もうそろそろ級を上げるつもりではいたよ」
「危険は冒さない狩りの仕方だったからな。正直級を上げないで困ることがなかった」
「確かに、銀級には招集がかかったりするからな」
都市に危機が訪れたとき、強制的に協力するよう要請するあれだ。
「どうする? このあとは基本歩きだし、せっかくだから行くか? 二人の動きなら問題と思うぞ」
私がちらりとクロウを見ると、薄暗い中で頷く姿が見えた。
「骨の素材があるんだよね?」
「おう、かなり質のいいものだ。墨が骨なんだろう?」
「そうなの。獲物は山分け?」
「カナンがどれだけ働くかによる」
「うーん……初見の魔物相手にこの人数でまじない師がどう動けと。剣の腕は自衛程度」
「〈火球〉なら俺たちと、クロウたちで二対一。〈氷結〉なら一対一」
それはかなりよい条件だ。
「〈氷結〉なら二十枚ある」
「マジか!」
「やったな!」
「羨ましい!」
アザールとモトラが喜びに声を上げ、テマクが口を結んでじとっとこちらを見てきた。
「連れてきて正解だったぜ。正直どこまで動けるかわからないから聞かなかったが、〈氷結〉があるなら大儲けになる可能性が出てきた」
コルハンも嬉しそうだ。
彼らがそれだけ喜ぶということは、氷が効く魔物がそれなりの数いるのだろう。
六階の地図を思い出す。魔物は絵入りで書いてあるものと、言葉だけで特徴を書いてあるものがあった。もちろん書いていないものもある。
六階は行き止まりが多く、あちこちに木が生えている階だった。
「もしかして、ウィラントってやつ?」
「お、よく知ってるな」
「名前だけ」
たしか群れると書いてあったはずだ。
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ミハナダの迷宮潜り始まりました。
カナンは怖いと好奇心が混在している感じ。
今週は明日も更新します。




