47.ミハナダの神殿
魔物の癖や、倒す手順を色々と教えてもらった。正直とても助かった。ギルド職員の紹介は当たり外れが多いと聞くのだが、今回の酒場は大当たりだ。
翌日は紙屋だ。これもいくつか候補を教えてもらったが、こればかりは運で、私とはあまり相性が合わない店ばかりだった。
まず、店内に入ったときの匂いでわかる。
クロツルバミで相性のよかったスワランの紙屋はいい匂いがしたのだ。
だいたい匂いが気に入る店は私の魔力によく馴染むことが多い。すべてがそうとはいかないが、そういった指針で探す方がはやそうだ。
午前中はクロウも一緒に紙屋探しであちこち歩いた。
その途中、露店で買い食いもした。ミハナダの食べ物もなかなか口に合う。クロツルバミより海鮮が多くなり、バリエーションも増えてなかなかよい。
「食にうるさいカナンが満足できたならそれでいい」
「ええっ? 私、別にそこまでこだわりはないよ」
「舌が肥えているだろう。クロツルバミで二度と行かない、二度と注文しないという物は、確かに他より一段味が落ちていた」
きっと、故郷のせいだ。日本の美味しいご飯たちのせいだ。私のせいじゃない。
クロウにそんな風に思われているとは思いもよらなかった。
一度宿屋に戻ったところで不機嫌そうなトゥルランがいた。
「冒険者は、本当に目を離すとすぐいなくなる」
「早く起きろって言ったり、起きたら起きたで文句言われるの!?」
はあ、と大きくため息をつかれる。
そんなことを言われても。休息は昨日取った。今日は動き出して明日は迷宮だ。
「服屋と、図書館に参りますよ」
そういえばそんな話もした。
本は財産だ。紙を作る技術はあっても製本は高くつく。印刷機などはない世界だ。すべて手書きで一つ一つが貴重だった。
「神殿で管理させていますが、元々領主が集めた物を寄付したという形で財産としないようにしているだけです。神殿であなたが読む許可はすぐ出ました」
「資産隠しだね」
ギロリとトゥルランに睨まれた。
「半分は今の伯爵が揃えたものです。私の記憶にするために」
「確かに、知識を得るなら本が手っ取り早い」
「希少性はそこまでではないものもありますが、本になっているという希少さはあります。花は各地で様々な経験をしています。私がロアーナ様のおそばに仕えることを許されているのは、父の集めたこの本の功績が大きい」
ある程度の知識を蓄えているから、燃料として他から集めてこなくてもある程度燃えるということか。嫌な話だ。
「先に服を。このあたりの価格帯なら街の中に溶け込めて、それなりの生地です」
案内されたのは露店でなく店舗。オーダーメイドではないが、多少のサイズ変更は承るといった感じだった。
「生地も薄めの物が多いですので迷宮では使えません。迷宮はまた気温が違います」
「聞いた。十度は低いって。ローブを羽織っていて暑いとは感じないって」
店主がトゥルランの姿に驚きながらも私やクロウに合いそうな服をいくつか並べる。
「女性はこの腰紐でセンスを見せるんですよ。お嬢さんはとても可愛らしい顔立ちだから、こちらの花の留め具もいいかもしれないね」
そういって店主が並べたのは幼い少女が身につけたら確かに可愛らしいものばかりだった。
ふんわりとしたワンピースには多少の刺繍がついている。少し料金が上がった。そして気づかなかったが下に膝下くらいまでの細身のパンツを穿くのだそうだ。色は生成りが多い。
「肌の色が白いから、色味が合った方がいいのでは?」
トゥルランが横から口を出してくる。
「半袖が落ち着かない」
肘のすぐ上くらいまで袖があるのだが、腕を外気に晒すことがない気温の場所にずっと住んでいたのでなんだかそわそわしてしまった。慣れは怖い。
「手袋が……ああ、傷があるのですね」
「うーん」
花型の痣が。ランタンの魔女の証があるので手袋は取れない。
それならばこれを、とトゥルランは濃い色の軽羽織を持ってきた。トゥルランたちがしている銀糸の透けるローブとはまた違って透けておらず、かといって生地は薄く軽いので暑くない。
「女性が日焼け疲れにならぬよう着る物です。年配の女性が着ていることが多いのですが……」
「うん、これいいね。ありがとう、これにする」
冒険者も街中では手袋を外している。腕が見えると私の黒い手袋が目立っていたのだ。話題に出してもらいたくはないから、こうやって少しでもごまかせるのは嬉しかった。
肩から腕を覆って、丈は腰くらいなので邪魔にもならない。
クロウも涼しげな服に替わっている。
「二着準備してくれ」
トゥルランが店主に言い、もちろん支払いはあちら持ちだ。
「宿屋に届けてもらいますか?」
「拡張鞄だから平気」
着ない服と着ていた服を突っ込むと、トゥルランは感心していた。
「ずいぶんと性能のいい」
これはランタンで作ったものだ。追求されても困るので買い物は終わったとばかりに外に出る。彼は知っているが周りにいる人間は私をランタンの魔女だと知らないのだ。
誰がなんと言おうとこのまま隠し通すつもりだった。
「次は神殿です。彼も一緒ですか?」
「クロウ、どうする?」
本を読むのは退屈かもしれない。
私は知識を増やすという目的があった。さらにもう一つ、探せるのなら探したいものがある。
「今日は一緒に行くが、次はわからない」
「そうだね、今日は軽く見よう。明日は朝から準備して迷宮に行くしね」
午後からが干潮で魔物の力が弱まるとはいえ、その前から入るつもりだった。
ミハナダの神殿は海の近くだった。この世界は一神教だ。創造神ヨクがこの世界を作ったそうだ。しかし今までいくつかの神殿を見たが、どうもなんだか不自然に思えるのだ。
元の世界でもシンメトリーは好まれた。左右対称に作られた美しい整った建造物をいくつも知っている。その上でアンバランスで完成しない、わざと未完のままにする文化があることも。
だが、この世界はどちらかというとどこも完璧にバランスのとれた建物ばかりなのだ。特に大がかりな物はシンメトリーが好まれている。
なのに、神殿はバランスの悪い配置が見られることが多い。
ヨク神の大きな彫像が台座に置かれており、その対となる位置に街の象徴になるような彫像がある。この街は海と花なので、魚が躍るように縦に波をまとい、花を散らした彫像があった。
だがそれでも、魚の彫像は大きなヨク神の彫像よりずっと小さく、バランスが悪い。
これならば、中央に一つ、ヨク神の彫像を置く方が美しいのではないかと常々思うのだ。
「花と海、それがこの街です」
私が見上げたまま立ち止まるので、先に進んでいた神官が振り返りそう説明してくれた。
ヨク神は常に軽く目を伏せ、直立した姿であることが多い。服装はギリシャ神話のような、布を身体に巻き付けたようなもので、ひだの表現が素晴らしい。そして常に両手を握っている。
その手にはいったい何があるのだろう。
私が別の世界の様々な神を知っており、こういった偶像崇拝の文化も知っている。そしてその場合、手やポーズにそれぞれ意味がある。
ヨク神は人と変わらない姿をしていて、手が二つあるのだ。
なぜ、両手とも同じポーズなのだろう。
そんなことをずっと考えていた。
ランタンは神が作った物だと言われている。いわば聖遺物だ。
そんな物を持っているから、私はずっと、この神のことが気になってしかたなかった。
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今週も水木と更新します。
外が暑くて暑くて、風が吹いても熱風でとんでもないことになってますね。
皆様もお気をつけください。




