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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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39/39

39.逆恨み

 そばにあった気配は二つの人型。冒険者のもの。真後ろを来ていた二人組が一度違う方向に行って、再び合流するところだった。


 はじけ飛んだ〈反射〉に、慌てて剣を抜き振り返ったところに二撃目を食らう。剣は鞘から抜けきっていない。受けたのは、クロウの剣だ。


 チッと闇の中から舌打ちが聞こえる。


 明かりは首に掛かるような形になっていた。相手は明かりを持っていないので、姿が全部見えない。こちらの明かりで腰から下だけが浮かび上がっていた。

 クロウが左手で私の首根っこを掴んで後ろへ放り投げた。もと居た場所にはもう一人の剣が突き刺さる。


 すぐさま私は呪符(トゥル)をとりだし、魔力を込める。

 あからさまな殺意と確実に息の根を止める行動に、手加減はいらない。握りしめた呪符が弾けるとともに、斬撃がクロウの向こう側の闇を狙う。


 しかし効果を現す前にかき消えた。

 〈反射〉持ちだ。ただ、そこまで出来のいいものじゃなかった。〈反射〉は名前の通りはじき返す。呪符のできがよければよいほど、その威力も大きい。私の〈反射〉は相手の剣をはじき返し、相手の体勢を崩したが、相手のそれは消えただけだ。


 すぐさまもう一度呪符を握りしめ攻撃を仕掛けるが、今度は避けた。

 とにかく、せめて一対一にしなくては、クロウが危ない。一人はもうわかっている。その実力も素晴らしいことがわかっている。今、クロウが相手をしているのは、フルムだ。

 クロウの首にかかった明かりが一度相手の顔を照らした。


「牢屋に入っていると聞いた」

 剣を押し戻しながらクロウが怒鳴る。

 しかし彼はそれに応えずさらに剣を振りかぶる。


 ローレンに〈防護〉の呪符をと声を掛けようとして気づく。いない。この先へ逃げたのだろうか。姿が見えない。〈探知〉にも引っかからない。


 いつの間にと思うがまあ、いい。気にしなくていいのは楽だ。


 私は次々と後ろの男に攻撃を加えていた。私の呪符は性能がいい。発動したい方向へ思うように飛ぶ。後ろへ後ろへと誘導し、あと少しで後ろの分かれ道へというところでフルムが声を飛ばした。


「下がるな! 攻めろ。近接には強くない」

 今度はこちらが舌打ちをする番だった。もう少し向こうへ行けば通路のさらに向こうの冒険者にも見えたかもしれないのに。


 拡張鞄から罠を捕りだし、フルムの後ろ、もう一人がこちらに向かう手前に投げた。例のサファレに使ったものだ。

 私のタイミングが絶妙で、男は罠をまんまと踏み抜いた。その上を通ったら風の針が足を貫く。


「うがあああ」


 足を抱えて転げ回る男は戦力にならないだろう。あとはフルムだ。何度も一緒に護衛をしたから知っている。彼は強い。

 クロウが傷つく前にランタンを使うべきか悩んだ。


 と、奥から何人も人型が近づいてきた。それは大挙して押し寄せてきている。十人単位でまとまっていて、冒険者には思えなかった。そのようにまとまって移動する冒険者は今の時期はいないだろう。もっと攻略が進み、最深到達記録を伸ばすために行くときは、二十人以上で徒党を組むことはある。


 何が来る、これ以上状況が悪くなるのならば姿を見せる前にと左手に意識を向けたとき、声がした。


「カナン!」

 〈照明〉の魔導具に照らされ、数十名の騎士を従えやってくる。


 次期領主が、前を騎士に走らせることもなく先頭を切ってやってくるなど、有り得ない。


「スルシュ。そこに罠がある。避けろ!」

 注意喚起をすると、彼の隣にいた騎士が、己の鞘で罠を道の隅へ追いやる。触れてはいけない部分がわかっているのだろう。鞘が穴だらけになることはなかった。すぐ後ろの騎士が地面に転がっている男を取り押さえた。


 私とスルシュのやりとりに一瞬気をとられたフルムは、クロウに剣を弾かれ、二人の間に距離ができた。


「フルム。そこまでだ。もう無駄なことはするな」

 スルシュの言葉に奥歯を噛みしめこちらを睨みつけていた。


「クロウ、怪我は?」

「大丈夫だよ。カナンも平気そうだな」

「うん」

 ようやく、大きく息を吐くことができた。魔物相手の方がまだマシだ。


「すまない、カナン。二人の姿が牢にないと気づいて、ここに辿り着くのに時間がかかった」

 笑顔で駆け寄ってくるスルシュに、どこかズレていると改めて思った。

 次期当主が騎士を引き連れ冒険者のためにすることではない。部下に命じ、逃亡者を捕らえさせればいいのに。本当に、大丈夫なのかとなんだか気が抜ける。


 正直、一緒に来た騎士たちもまた気が緩んでいたのだろう。

 クロウすら、この薄暗い迷宮内で、こんな風に屈託なく笑うスルシュに口元を緩めていた。

『気をつけろ』

 ヒジキの声が脳裏に響く。


 一瞬の隙を突かれた。緩んだ空気の隙間の隙間。


 フルムのブーツに仕込んであった短剣が真っ直ぐスルシュを狙って投げられたとき、咄嗟に動けたのは私だけだった。スルシュを突き飛ばすようにして、この身をナイフの軌道にさらす。その上で、私は被害を最小限にと身体をひねった。


「カナン!」

 私に駆け寄るクロウと、潰されるように取り押さえられたフルム。そして驚きに目を丸くしているスルシュ。


 スルシュはいつも驚いている。


 そう、思っていたのだが。


「カナン!」

 ガバッと、ローブがかぶせられた。


「クロウ!?」

 何を? と疑問がいっぱいになるが、布の中でチリチリと痛み出した自分の身体を見下ろしてああ、とため息をついた。

 

 今回の迷宮はどうにも暑い。気温が二度ほど高かったので、早々にローブを脱いでいた。人も多いし、魔物に当たる率も少ない。気を抜いていたのは確かだ。

 ギリギリで避けたと思ったが、胸当ての革を切り裂けるほどのナイフだったようだ。私の秘密の解体用ナイフぐらい切れ味がいい。

 革でできた胸当てを切り裂き、シャツを切り裂き、肌を切り裂いた。痛みを感じないほど見事なものだった。ズレた胸当てと、シャツと、そして現れるさらし。最近押さえるのも大変になってきた胸が晒される。

 なんとも位置が悪い。


「クロウ、止血しないとだめだ、これ」

「〈治癒〉を使え」

 ローブをかけたままの状態でそう言われた。胸元の真っ直ぐ入った赤い線からは確かに血が溢れてきているが、〈治癒〉を使うほど緊急ではない。


「もったいない」

「使いなさい」

 珍しく厳しい有無を言わせぬクロウの声に、ごそごそと〈治癒〉の呪符をとりだし貼り付ける。これは逆らわない方がいいときの声だ。

 

 ついでにシャツも引っ張り出して替えることにした。さらしは巻きにくいから諦めよう。血だらけだが、ないよりはましだ。シャツに赤い染みが浮き上がるので見栄えが悪いとローブも被る。


 見られたのは一瞬。かなり上の方だったがこれでよくわかっただろう。

 着替え終わって、クロウのローブを脱ぎ去った私は、スルシュを真っ直ぐ見て肩をすくめる。


「まあつまりそういうこと。従者は無理」

 彼が求めていたのは話し相手になって友人のようにこの先も自分を支えてくれる、年下の同性の従者だ。




 色々と後始末がありだいぶ遅れたが、私たちは朝早く街を発った。

 誰にも知らせてなかったのに、門にはスルシュと、ハリルがいた。


「ハリル! 無事だったんだね」

「ああ、なんとか」

 とはいえまだ顔色が悪いし頬も痩けている。身体を門の柱に預けているところを見ると怪我をし、完治はしていないのだろう。

 もちろん他に何人か騎士もいる。


「カナン、俺のせいで出ていくことになるんだろう」

 私とハリルの再会を邪魔するスルシュを軽く睨み付ける。


「なんでスルシュのせいなんだ。関係ないって言ったよな?」

「けど、あのとき俺をかばったせいで、隠してたその、バレて……」

 また的外れなことを言っている。本当に大丈夫なのだろうか。


「あのさあ、私たちはその前からもうここを出て行くっていってるよね?」

 スルシュだけでなく騎士たちにも見られたし、なんなら騒ぎを聞きつけた冒険者たちにも知られた。するとあっという間に話は広がる。あのクロウの相棒が小僧でなく小娘だったと、一瞬にしてクロツルバミに広がった。

 まあ、そろそろさらしも限界だったし、どこかで切り替える羽目にはなったと思うが、このように話題になるバレ方は避けたかったのは本心だ。


 マーニャは気づいていたそうだ。声は少し低めに出していたら声変わり前の子どもだと誤認される。しかし、「私が何度あんたを抱きしめたと思う」と言われた。体系はごまかせなかったようだ。一週間くらい留守にして帰ってくると、いつも大げさに抱きしめて出迎えてくれてはいたが、完璧にだませていると思っていたので少し悔しい。

 


「迷宮が変わったから狩りのスタイルが合わない。街を出て余所へ行くって言ったはず」

 スルシュのせいじゃない。

 いや、迷宮混乱(ラビレントカラシュム)が起こるような事態になった根本の原因はお家騒動で、そういった意味でスルシュのせいではあった。

 スルシュが無事生還し、フルムたちの悪事を暴いたから騎士に睨まれた。


 騎士全員から恨まれてはいなかったのが幸いだ。あのときスルシュが迷宮に率いてきたのは、第一夫人の息のかかっていない騎士たちだったらしい。牢に入っていたフルムと、あの年若の青年元騎士には〈追尾〉の魔導具がつけられていたそうだ。本人たちも知らぬ間に、牢に入れ、沙汰を待っている間に悪さをしないようにと。


 協力者を得て、二人は逆恨みも甚だしくせめて私とクロウを始末しようと動いたらしい。それも、第一夫人から命じられて、だそうだ。役立たずがと罵られ、しっぽ切りをされたくないなら少しは貢献しろと、牢を抜け出せるよう手配されたという。

 第一夫人はスルシュの周りに人が集まってくるのを避けたかったそうだ。優秀なまじない師である私や、冒険者の中でも実力のあるクロウが周りをうろつくのを恐れた。


 ちなみにローレンも一枚噛んでいる。私たちを迷宮に誘い出し、どさくさに紛れて始末しようという話になっていたらしい。どうりで襲われたらあっという間に姿を消したはずだ。

 あんな人の多いところでどうするつもりだったんだろう。遺体が迷宮に吸収される前に発見されてしまうのに。


 それでもスルシュのせいだけではないのだ。

 私たちは衆目を集めすぎた。

 不用意に目立ちすぎてはいけないのに。


「カナン、俺は別にカナンを従者に求めたのは男だからとかそういったことは関係なくて……」

「だけど、スルシュに必要なのは相談のできる、今後一緒に歩んでいけるやつだ」

 これが女性だと少し面倒になる。

 いや、普通に雇われてなら問題ないが、今回の場合スルシュが求めて私を望んだと言われるだろう。本人たちにその気がなくとも、面倒な話になってしまう。


「お前にはハリルがいるだろう。もう迷宮に入ろうなんて阿呆なことは考えるな。箔をつけるなんて馬鹿らしい」


 それじゃあ、と手を振る。

 この世界でも別れの挨拶は手を振る。


「スルシュがいい領主になるころに、また来るかもね」

 私が言うと、スルシュが頷いた。


「カナンとクロウが来たくてたまらないくらい栄えた街にする」

 後ろでハリルが穏やかに笑っていた。



 私とクロウはまた、放浪の旅に出る。


   第一章 了

これにて、第一章 クロツルバミの章はおしまいです。

お付き合いありがとうございました。

第二章を書き終えたらまた更新します。

基本三か月くらいはかかると思うのでブックマークをしていただけると助かります。


くぎりもよいところで、もしよかったら評価もお願いします!!

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― 新着の感想 ―
一章、興味深く読ませて頂きました。 鈴埜さんの、お風呂に対する並々ならぬ執着を感じる事が出来ましたwまあ確かに、冒険者が活躍する世界観でお風呂に入るのは大変ですよね。 ブックマークして、2章再開を首を…
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