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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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37.新しい戒律

 酒場に残したスルシュのことが多少は気になりながらも、私たちは宿にとって返す。何なら今から出てもいいぐらいだが、さすがに行く方面を考えなければならないし、道中の準備もしなければならない。


 迷宮をちょっと覗いてみようなどといった気は、すっかり失せていた。


「クロウはまだ見てみたい?」

「いや、やめておこう。騎士の目が気になった」

「そうだね」

 このあたりの村と町、主要な都市の地図を部屋のテーブルへ広げ、どこへ向かうか悩む。


 向かう方向は二つ。山越えか、海かだ。


「港町のシウォールで船に乗ってこちらへ行けばまた次の迷宮都市がある」

「そこは、十階層くらいまでかなりぬるいって話だったね。実入りもイマイチ。その先、一ヶ月くらいゆっくり行ったところにある迷宮の方が合ってるかも。それでもまあ……、街の雰囲気もあるかな」

「港町は気に入っていただろう?」

「新鮮な魚が食べられるからね」

 肉は好きだが、魚も食べたくなる。食が豊かだった過去はなかなかに捨てられない。


「海周りでいくつか街を移動してもいいだろう。そこで少し金を稼ぎながら」

「いざとなれば、〈治癒〉の呪符(トゥル)も売れる」

「それは最終手段だ。ああやってこの街で〈治癒〉が使えることが広まるのも俺は嫌だった」

 突然のクロウの台詞に、私はきょとんとして彼を見返した。


「カナンは……まだ若いからそうやって自慢したがるのはわかるが、己の使える手札はひけらかさない方がいい。確かにいざとなればランタンがある。だが、カナンが傷ついたりするのはあまり見たくない」

「傷つくって……」

「誘拐されるときに、痛い思いはして欲しくないんだ」

 どうも感覚がずれていて困る。


「カナンはまだ子どもだ。ひょいと簡単に抱えられてしまう。一瞬の隙に連れ去られてしまったらと考えてしまう。もう少し慎重に、身の回りに気をつけてくれ。ここはカナンが魔女だと誰も知らない。日中の大通りも決して安全な場所ではない」

 真剣なクロウの青い目に、色々と思うことはあったが飲み込んで頷く。


 心配しているのはわかった。

 不安なのもわかる。


 〈治癒〉の呪符は私の売りだと思っていたが、クロウはそう感じていなかった。まじない師として舐められないようにしたいという思いでやってきたことが、彼の不安を誘っていたようだった。


「次のところでは〈治癒〉の話はしない」

「……まだ、強く見せる必要はない。侮られているくらいの方が安全だ」

「うん」


 明日朝から買い込むものを確認し合い、早めに就寝した。



 宿を引き払い、店が開いたら買い込みすぐさま移動するつもりだったのだが、予定外の来客が食堂にいた。


「おはよう、クロウさん、カナン君」

 ワラン商会のローレンだ。軽装ではあるが旅の出で立ちで私たちを待ち構えていた。


「おはようございます」

「おはよう、ローレンさん」

 フルムの件で顔を合わせ難くなっていた人の登場に、私は内心眉をひそめた。


「お二人とも戒律(ルール)はもちろんご存じですよね! 私もワクワクしております。そこでお願いがありまして……」

 これは聞く前からろくでもないお願いだということがわかる。


 食堂にはまだ誰も降りてきていない。柵ができあがり、入るとしても昼過ぎからだろう。

 仕方なしに席の一つに着く。


「玉の話も聞いております。それで、なかなか難しいこととは思いますが、私を迷宮に連れて行ってはくれないでしょうか」

「ローレンさんが!?」

 何を言い出すのだと私が思わず声をあげると、彼は苦笑する。


「玉の質を見ておきたいのです。もちろんすぐ採れるかはわかりませんし、方々伝手をやって出てきた玉を買い取れるように準備はしておりますが、こちらに品がすぐにまわってくるとは限らないのです。今までは、こういった迷宮案件は……」

 そこで口ごもってしまったが、何を言いたいのかはわかった。

 フルムに頼んでいたのだ。彼は商会の冒険者だった。彼くらいの腕ならば、そこまで深いところでなければ一人でも入っていけただろう。


「スイリョクの迷宮都市の全文とそっくりだと聞いています。あの迷宮は初めて現れたとき、かなりの玉が表面近くに出ていて、歩いていた違和感でわかったとも言います。それがどの程度なのかも確認してみたく。……ご迷惑なのはわかっているのですが、ぜひお願いしたいのです」


 これは、弱みにつけ込まれている。

 そして、私たちもこれを弱みだと思っている。


「今ならたくさんの冒険者が先を進んでおり、魔物もすぐ倒されると思うのです。迷宮内の具合を見ておきたいのです。どうか、ほんの半日、いや、その半分でもいい。三階か、四階くらいで十分ですから」


 正直、冒険者がなだれ込む今なら、ローレン一人くらいなんとかなる。正しい迷宮のあり方に倣っているのなら、下層に行くほど魔物が強くなる。やる気に満ちあふれた冒険者たちの大群に紛れて浅い層を一通り見てみることはできなくはない。


 ローレンもそれを完全にわかって言っている。

 誰がなんと言おうとも、あのようなことをしたフルムが悪い。そして、フルムを抱えていたワラン商会も、同じように注目されている。

 絶対にこちらが悪いということはない。百パーセントあちらが悪い。


 ローレンに玉が回ってくるよう手配していると言っていたが、たぶんだが、それが難しい状態なのだ。フルムを雇っていた商会というレッテルがついて回る。よっぽど余分な金を積まねば今この時期にローレンの元に玉が回ってこない。彼自身がそう確信しているのだ。

 だから、自ら迷宮に入り、玉を手に入れることはできずとも、その場で見つけた冒険者の玉の質を見ておきたいのだ。


 このような事態になってしまったことに、こちらとしても心苦しくは思う。結局、心打ちを見透かされている。


「人の多いこの時期にしかお願いできないことです。どうか、受けていただけないでしょうか」


 クロウと私は顔を見合わせた。

 クロウは人がいい。お人好しとも言える。きっとそんなところも見透かされている。

 結果は最初からわかっていたことだ。

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