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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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36/39

36.スルシュの提案

 冒険者ギルドから流れた、暇を持て余している冒険者で溢れる『ドリスのスープ皿』。そこに似つかわしくない上質な服を着た、青年。こう見ると、先ほど迷宮に入っていった領主とよく似ている。

 土地に多い茶色の髪に茶色の瞳。ただ、髪は金が混じっていた。日の光を浴びると明るく光る。目と眉の形が本当によく似ていた。


「カナン! やっと見つけた」

 まるで私が雲隠れしていたような言い方に片眉を跳ね上げる。座っている席の横まで駆け寄って、声を弾ませて続けた。


「カナン、戒律(ルール)が決まった。察するに、クロツルバミにとって幸運をもたらすようなものだ。私は、次期領主と認められた」

「それはおめでとう」

 私の言葉を皮切りに、周囲の冒険者たちが口々に言祝ぐ。

 だがスルシュは真っ直ぐ私を見たまま言葉を続けた。


「カナン、俺の従者になってくれ。まじない師としての腕もいい。〈治癒〉も使える。もちろんクロウも。剣の腕は十分知っている」

 突然の提案に、私は、本当に驚いて、口をぽかんと開けたまま固まってしまった。


 それをどんな風にとったのか、スルシュは嬉しそうに笑顔で続けた。


「給金も弾むし、部屋も与えよう。不自由なく過ごせるようにする。迷宮に入るならそれは止めない。年の半分は好きにしたらいい。なかなか同年代の腕の立つ者はいない。なんなら私も、領主として最低限の剣の腕は必要だから、それはクロウに頼もうと思っていて――」

「待て待て、待て!」

 勝手に続ける彼の願望を、ようやく己を取り戻した私は強い口調で止めた。


「待て、スルシュ」

 相手は貴族だ。敬称が必要だ。


 立て板に水のごとく話すスルシュの背後、その遠くに控えた騎士たち。

 彼らの無表情な姿に私は頭が痛くなってきた。


「スルシュ、俺たちは近々ここを離れる。勝手に決めないでくれ」

 座ったままの私を見下ろすスルシュの表情が一瞬で変わる。


 本当に出会った時から何かがズレていると思っていたが、ようやくわかった。

 彼は、いくら冒険者に擬態していたとしても、あくまで貴族なのだ。己の言葉は受け入れられるものと勘違いしている。


 ハリルがいない。

 結局彼は、帰ってこなかったのか、それとも重傷で今は動けないのか。


 私を代わりにしたいのか。


「俺たちは数日でここを離れる。無理だよ」

 馬鹿なことをとか、これだから貴族はとか、余計な言葉を付け加えず、事実だけに留めた。


「なぜ……戒律は冒険者にとってもかなりよいものだ。ここはもっと栄える。間違いない。迷宮に潜りたいなら止めることはしない。ただ、要所要所で側にいてもらわないといけないときはあるかもしれないが」

「スルシュ、悪いが俺は人に仕える気はないんだ。誰であろうと、ね。俺とクロウは二人で迷宮へ潜る。それには詳細な地図が必要だ。どんな地形で、どんな魔物が出るかよくわかっている地図が必要なんだ。クロツルバミは一新した。詳しい地図が、狩りの仕方ができあがるのには一年はかかる。俺たちは、もっと自分たちが狩りをしやすい迷宮都市に移動する」


 まさか拒否されるとは思っていなかったといった顔で固まっている。


 鐘の音がする。五の鐘だ。

 冒険者ギルドで戒律が発表される時間だ。


 それにハッとして、スルシュは一瞬扉の方へ顔を向け、再びこちらを見る。


「カナン、(ぎょく)が出るんだ。クロツルバミの迷宮都市は玉の出る迷宮となったんだ……どこよりも、金になる、誰もが望む……」


 私の表情が変わらないのを見て、言葉が段々と消えていく。スルシュの声が小さくなっていくのと反対に、周囲の声が大きくなった。結果彼の言葉はかき消される。


「玉だ!」

「玉が出る迷宮だ!」


 宝石が出る迷宮はごくごく稀だ。この近くにはない。鉱山からの発掘が普通に宝石を得る方法だが、世界には迷宮から宝石が出ることがあるそうだ。迷宮産の宝石は重宝されるという。だいたいが戒律にヒントがあり、上手く運用すると大きな玉を得ることができるという。


「冒険者ギルドに行こう」

 戒律の全文が見たい。

 玉には興味はあるが、私が彼の従者になるなんてことは有り得なかった。


 立ち尽くしたスルシュを置いて、クロウを促すとリムやコウたちも席を立つ。皆、戒律が気になった。玉が出ると断定できた戒律が気になって仕方なかった。


 途中、騎士の横を通るとき、彼らは私とクロウに冷たい目を向けてきた。

 采配に聞いたあの話が正しい。そして、その話がスルシュには伝わっていないのだ。とうぜんのことだ。断罪したのはスルシュなのだから。その憎しみの先が己でなく虐げやすいこちらへ向かっているのを把握していない。だから私たちにそんな馬鹿げた提案ができる。

 つまり、彼はまだ家門の中で力を得ていない。


 そんな死地へ向かうなんてできるわけがない。


「都市を離れるのか」

 道中リムが小声で尋ねてきた。


「俺たちの狩りの仕方が、新しい迷宮には向いていないからな」

 クロウが答えると、そうだな、とつぶやいた。


 金を稼げる、迷宮で強さを試す、新しい場所を開拓したい者たちにはとても魅力な場所だろう。


「リムやコウはこのまま続けるんだろう?」

 私が尋ねると、コウは仲間のアルムやレナンと顔を見合わせて、頷いた。


「踏破者になるつもりはないけど、実入りがよくなりそうだし」

 それにはリムも頷いていた。


冒険者ギルドの前には普段ない立て看板がいくつも並んでいた。そこに貼り付けている紙。冒険者たちがおお、とざわめいている。


「なんて書いてある?」

 コウが仲間に聞いている。冒険者は字が読めない者も少なくない。


 私は全文に目を向けた。


 『内なる魔物を排除し、実をつけよ。実はやがて熟して、迷宮に落つ。実は迷宮内に散る。木の実に触れることを禁ず』


 さらに、横に説明があった。

 迷宮に入った一層に、以前もあったクロツルバミの木が生えている。その木にたくさんの玉が実としてなっている。木に近づくこと、触れることを禁ずるとあった。


 現在柵と明かりを準備していて、迷宮に潜ることができるのは明日の昼以降となるそうだ。

「こりゃ、スイリョクの迷宮と同じだな」

 リムが言うと、周囲の耳がこちらへ向くのを感じた。


「スイリョク?」


「この国じゃない。隣の国にある迷宮都市だ。木に玉がなるんだ。きれいな緑色の玉で、迷宮内の魔物を倒せば倒しただけ実がなるし、実が熟して大きくなる。そのうち自然と地面に落ちるんだが、その瞬間砕けるんだと。砕けた玉が迷宮中に散らばって、迷宮内の土に埋もれている。それを見つけたヤツが勝ちだ。階層が深ければ深いほど、大きい玉が見つかるとか、階層が深いとそれだけ見つける冒険者がすくなくなるから地中で育って大きくなるとか、そんな話だ。そこの全文とそっくりだ」


「ツルハシが必要になる?」

「かもしれん。どのくらいの量の魔物を倒したら玉はでかくなるんだろうなあ」

「玉の種類にもよるんじゃないか?」


 冒険者たちの顔は明るい。


「明日の昼までしっかり宿で寝ておかないといけないな」

 コウたち三人も目を輝かせてうなずき合っていた。


 私とクロウも、早々にその場を離れた。

 明日の昼には、街を離れよう。

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