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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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32/39

32お風呂を手に入れた

 小娘が金貨三十枚以上する買い物をぽんとするのも驚かれたが、それを収納できる拡張鞄にも驚かれた。


「雇い主はどこのお貴族様だよ……」

「内緒でよろしくね」

 ウィンクすると、男はそっと眉をひそめる。


「他でもそんな買い方してきたのか?」

「うーん、布はたくさん買った」

「早く、日の高いうちに合流しろ。ここは街の外れの職人街だ。気の荒いヤツも多いし、小さな裏路地も多い。ここまでで見張られている可能性だってある。送ってやりてえが……」

「大丈夫。お気遣いありがとう。急いで行くよ」

「ああ。まあ、大切に使ってくれ」

 それはもちろん、当たり前だ。大きさもいい感じのものが手に入って満足だった。これにためた水を温める魔導具をつけて、排水をいじればいい。風呂の床はタイルにしたいのだが、それを買うには金がない。すっからかんだ。


 左の二の腕にはめた〈探知〉の魔導具に魔力を通す。定期的にしてやれば、やはりついてきている不審者がいた。

 人通りの多い道を通ってはいるが、私はこのまま行方をくらまそうと思っている。本当は買えはしないが床のタイルだけでも見て行こうと思っていたのだが、諦めた方がよさそうだ。

 浴槽と一緒に延長の配管だけでも手に入った。これ以上は面倒事に巻き込まれることになる。

 ローブの内ポケットのメダルに触れながら、すぐそばの小道へ身を躍らせる。〈探知〉で人がいないことは確認済みだ。

 その瞬間、魔力を通すと私は廃屋の一室に移動していた。


 左手の甲がうずき、黒猫が姿を現す。


『カナン! 風呂だ! 風呂に入ろう!!』

「まだ何にも準備できてないじゃない! 入ったあとの排水なんかも考えないといけないし、無理よ」

 浴槽の底から配管を伸ばして、その上にタイルを敷こうと思っていたのだ。施工は魔法で済ませるとしても、材料は買ってこなければならない。排水先もどうするか。またどこか少し離れた場所にこぼすか?


 栓を抜くだけでよかった暮らしが懐かしい。色々と考えないと、家の柱が腐りでもしたら大変だ。風呂の後の換気用窓だって作らないといけない。ガラスの部分ははめ込み式なのだ。かといって部屋の中が丸見えになる高さの窓は嫌だ。


『カナンは便利な魔法を使えるのに、使おうとしない!』

「便利というけれど、私はこれが怖くて仕方ない」

 なぜこんな力があるのか、本当に意味がわからない。


「さ、拡張鞄も一応有限だから、お風呂は出さないと。買い物はしないで、クロツルバミでタイルなんかも見てみたいな。家具なんかの職人街の方に散歩に行こうかな」

『ちぇっ……でも、浴槽も布も買ったろ? 人避けはしておいた方がいいんじゃないか?』

「ああ、前に言ってたあれか。そうだね。確かに〈迷い道〉だっけ?」

『そう。追っ手を撒くときの呪符(トゥル)だ。まあ、相手も知っていると効果は薄いが。気づかれちまうからな』


 また木箱を使って地中に埋めよう。そのうち金属に彫って魔力を供給すればいいだけにしたい。

「木箱作りからだね」


 街方面の斜面の下、少し離れたあたりに埋めておけばいい。


 なかなか前へ進めないが、こういった細かな仕込みは必要だと思う。移動したときに勝手に人が住んでいたりしたら、私は怒ってランタンを使いかねない。台無しだ。それに、クロウだけが〈転移〉して、棲みついていた人間と戦いになったりしたら目も当てられない。安全策はできうる限り講じておくべきだ。


 結局この日は箱作りで終わってしまった。

 夕暮れになり、宿へ戻るとまだクロウは帰ってきていなかった。〈伝達〉の魔導具を軽く鳴らして帰りを告げると、あちらから返事がくる。


『もう少し時間がかかりそうだ。先に食べていてくれ』

 ニア婆のところでこき使われているようだ。


 暇な冒険者がするのは、街の中で仕事を見つけるか、外に獲物を探しに行くか、だ。街の近くは普段から狩りがよく行われるので、金になるような大きなものを手に入れるためには少し遠出しなければならない。二、三日行ったところにそれなりの規模の森がある。

 薬草を探しながら高く売れる魔物に行き合うのを待つのだ。


 そこまでする必要のない、街中で仕事も探さない冒険者が多くいる宿は、夕飯が豪華になる。


「カナン! 今日はうちで食べていくべきだよ」

「うん、すっごくいい匂いがする!!」


 部屋を出た瞬間から腹がぐうと鳴っていた。


「よお、カナン。俺を褒めてくれてもいいんだぜ」

「煮込みの肉は俺たちが捕ってきたコルンだぞ」

「コルン! 好き!」

 手持ち無沙汰の冒険者が、肉目当てで平原をさまようのだ。

 小銭入れから夕飯代を渡してトレイを受け取る。

 香ばしく焼いた肉を口へ放り込むと、じゅわっと肉汁があふれ出た。さらに煮込みへ手を伸ばす。

 噛み応えがあるが、それがまた美味しさにつながる。


 ああ……酒が欲しい。

 私は酒の味を知っているのだ。しかし、子どもが飲むものではない。その認識はこの世界でも変わらなかった。

 冒険者であればかなり早く飲みだすものも多いとはいえ、それでも十五、六あたりから。私もあと二年はおあずけだ。


 肉を捕ってきた者には、サービスで一杯酒がつく。このあたりはワインのような香りのものがほとんどだ。地方によってはビールだったり、ミードだったりする。蒸留酒は高くてここで振る舞う飲み物ではなかった。やはり手間がもう一段かかるからだろう。


 あらかた食べ終わったあとに、クロウが帰ってきた。日はすっかり暮れていた。

「おかえり!」

「ああ……マーニャ、悪い井戸を借りる」

「湯はいらないのかい?」

「大丈夫だ」

 墨屋で墨を作るとそれなりに匂うのだ。井戸へ向かったクロウがさっぱりして食堂へ来るまでに、私は食後のお茶も終わらせてしまった。


「お疲れ様。終わった?」

「いや、明日もう一日だな。墨の売れ行きがよすぎる、が、そろそろそれも終わるだろう。どこもかしこも墨の増産、紙の増産らしい」

「俺も〈照明〉の呪符を増産した方がいいのかな」

「多少は作ってもいいが、俺たちは魔導具を持っているから必要ないだろう。売るなら別だが」


 すると、先ほどコルンを狩ってきた冒険者が話しに入ってくる。


「ギルドの職員から聞いたんだが、狩り場の状態によっては十層くらいまで明かりを設置するよう検討しているそうだぞ。迷宮の戒律(ルール)が決まり次第調査が入って、設置した照明を壊すような魔物がいないか判断してになるらしいが」

「壁に激突するようなタイプのがいれば天井に設置だろうな」


「つまり、迷宮が開いたら、明かり持ちの冒険者が突入するってことだよね」

「明かりの魔導具はそれなりにするからな。持ってないやつはもう少し待機するか、呪符持参で……いかないだろう。効率が悪い」


 呪符の増産はやめておいた方がよさそうだ。

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