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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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31/39

31.街で買い物

 廃屋改造二日目だ。

 今日はまったく別の場所にある都市にきた。これも山の中の土地を探しているときに行き合い、ヒジキに覚えてもらっていた場所だ。


「タグを」

「はい」

 私はここでは女としてふるまった。普段は変声期前だと誤魔化しながらも少し低めに発している声も、ここでは高く。女一人の冒険者ということで視線を集めることもあるが、カナンとバレる方が嫌だった。ランタンの力を借りて、偽名で偽物のタグを作っている。まあ、冒険者ギルドに調べられない限り問題ない。物自体は本物と変わりない。ただ、登録がないだけだ。

 姿を毎度変えることは可能だが、そのたびに記憶を使うのは避けたい。よっぽどの時だ。


「まじない師か。気をつけて。夜は早めに宿を取れ。宿はこのあたりがいい」

 門のそばの地図の一角を指す。

 少女一人旅を心配してくれているのだろう。


「ありがとう」

 そう返事をしてするりと門をくぐった。

 この街は迷宮を中心として発展した場所とは違う。大きさはクロツルバミと比べたら十分の一とはいわないが、かなり小さめだ。


 それでも一通りの物は揃う。日用品から鍛冶屋まで、街の中ですべてが収まるようになっていた。


 フワフワのタオルなんてものはない。あるにはあるが、魔物産でとても高い。身体を拭くタオルはゴワゴワとしている。それでも、自分で一から作るよりは買った方がマシだ。以前布を織るところを見せてもらったが、気の遠くなるような作業に思えた。鶴の恩返しで機織りをしている絵を見たことがあるが、本当にあんな感じで糸を張ったところに滑らせるようにして横糸を織り込んでいたのだ。

 絶対に無理だと、布に関しては多少高くても買う。

 ただ、新品の布を身体を拭くタオル代わりにするような阿呆はいない。大抵着古した衣類をほどいて使う。

 真新しいぞうきんなんてものものない。着古して、使い込んでボロボロになったのがぞうきんだ。


 風呂上がりのふわふわタオルは望めないので、仕方ないから布をたくさん使うしかない。

 前室の高い位置に棒を渡して使った物を干しておこうと思う。本当は洗って外に干したいが、思いついて風呂にだけ帰ってきたとき、布を洗うまではできない。せめて干しておいたほうがいい。


 ということで今日の目標は、風呂桶と大量の布だ。

 とても不審者になるが、何か問題があればもう来なければいいだけだ。すぐに転移できるように、メダルを引っ張りだしやすくはしている。護身用の魔導具もつけていた。これはクロツルバミではしていない。あまり高価な物をしている冒険者のランクではないからだ。


 ここではさすがに一人なので自衛をさせてもらう。

 もし来ることがあっても、どうせ迷宮都市じゃなければ私もクロウも長居しない。

 顔もフードを被っていればそのうち忘れるだろう。クロツルバミから国一つ分離れている。

 人の流れに乗りながら、街をあちこち歩き、露店で買い物をしながら布屋の位置を聞く。


「どんな布だい?」

「身体を拭くもの。足りなくなっちゃって」

「それならそこの通りを右に折れていけば、緑の屋根が多い場所に出る。店頭に布の見本がいくつもあるだろう。高いのから安いのまで色々さ」

 パンに挟んだ肉を受け取り、金を渡す。少し多めだが、この国の通貨ではないのでお礼としてもちょうどいい。


 手元の銀を見たおばさんはちょっと待ちなと、追加で飴をくれた。


「誰かと一緒に来ているんだろう? 装備を見るにそれなりに動ける冒険者なんだろうが、早めに合流して日が暮れる前に宿に入りなよ?」

「ありがとう」


 まあ、年齢的に冒険者でも駆け出しに見える私だから、彼らの心配はごもっとも。

 見えるように防御と反撃の魔導具をつけてはいるものの、それを防げる相手なら話にならない。

 早めに買い物を終わらせて街の別の門から出て、〈移動〉で戻るつもりだ。

 

 教えてもらったとおり道を行くと。緑の屋根が現れた。店の前にボロぞうきんのような布が木箱に山盛りになっていたり、店の前に日焼けしても問題ないような布、さらに奥には棚にびっしりと高価そうな布が並んでいるところもある。


 私が求めているのはリネン、亜麻のような吸湿性の高く、すぐ乾く、色も染めていない安い布だった。目当てのものが店頭で見つかり、いくつかの店を巡ったあと、値段を見て買う。

「ずいぶんとたくさん買うんだな」

「まあねー」

 私の拡張鞄に吸い込まれていく量を見て、店の主は口笛を吹いた。大きな一枚でなくていいので端切れだ。暇があれば端を折って縫う予定だった。ほつれていくのは困る。


「ねえ、この街って風呂桶を作っているような工場はある?」

「風呂桶まで買うのか?」

「ううん? 単に趣味。あのつるりとした感じが憧れ」

「つるりっていうと高級宿の陶器製の浴槽だろう?」

「そう!! 一度だけ見たことがある」

 目をキラキラさせて言うと、子どもだなと笑われる。


「集合時間までまだ少しあるから、見たい」

「ああいったものは注文を受けてから作るもんだが……まあ、見本くらいは置いてるかな? 普通は桶だぞ?」

 桶は嫌だ。陶器がいいのだ。今はイディクの素材で懐が潤いに潤っていた。値段を確かめておきたい。その上で足りなければ桶から始める。


 気のいい男に教えてもらい次は工場へ向かった。

 鍛冶鉄の場所も多いが、大きい窯を持った陶器が並ぶ店もいくつかある。食器に目を輝かせ、いくつか買いたい衝動に駆られるが我慢して進むと、言われた青い屋根の大きな窯を持つ工場に行き当たった。このあたりは街の外れの方になるのだろう。店の間口が広めだ。


 そして、私は目的の陶器の浴槽を見つけた。クロツルバミの宿は真っ白なものだったが、ここは薄く青みがかっているものが多いようだ。皿も同じような色をしている。使っている素材が、焼き付けると薄い青に発色するのだろう。


 大きさは、クロウが入ってもゆったりしていられるもの……を望むと予算オーバーだった。難しい。足を折って座ればいいか? 私ほど風呂に執着はしていないから、それでも許してもらえるかしらと、横に座ってみたり、覗き込んで深さを確認していたら店の者がやってきた。


「子どものおもちゃにはならんだろう」

 背の大きな、冒険者と見まがう筋肉の持ち主だ。


「うーん……そうだね。これだといくらくらいなの?」

「これは見本だぞ」

「わかってるって。だいたいの値段が知りたい」

「子どもの小遣いじゃとうてい無理だろう」

 そう言って指をいくつか立てて見せた。


「金貨?」

「もちろん」

 ギリギリ買える。だが、私の今回の取り分はほぼなくなる。

 風呂に入るとなると消耗品も必要なのだ。風呂付き宿のような贅沢な水の使い方はしないつもりだから、固形の石鹸でいいのだが、それにしても普通の冒険者の必要なものからはかけ離れる。


「何を悩んでるのか知らないが、子どもが来る場所じゃない」

「値切り交渉していい?」

「はあ!? お前みたいなのが風呂桶買ってどうするんだ。冒険者だろう?」

「うん……でも欲しい」

「意味がわからない」

 まあそうだろう。

 反対の立場なら不審者でしかない。


『魔法で出せばいいじゃないか』

『だーから、なるべくこの世界のもので揃えたいんだって』

 なんでも魔法を使い出したら、パイル生地のタオルすら望んでしまう。もしも誰かにあの隠れ家が見つかったとき、せめてこの世界のものでないとマズい、気がする。魔女の所業だとしても、この世界のものでない知識はなるべく残さない。


『じゃあ、これをこっそり隠れ家に運べばいい』

『それもダメだよ。盗みはダメ』

 私の中の線引きを越える。


「……これを買うから値引きとかはないの?」

 ほら、電気屋の、家具屋の、現品限りみたいな?

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