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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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30.建物の補強も

 これまた拾ってきたはしごを使ってレンガの家の屋根に登り、瓦を一枚ずつズレていないか確かめた。雨漏りは雨が降ってみないとわからない。一見すると問題ないように見えた。

 窓の戸板も全部閉めて、家の中を暗くして明かりがもれていないかも確認した。日の光が入ってきているところはないので大丈夫そうだった。


「このレンガの家はかなり裕福な人が使っていたよね」

 なんと窓ガラスがある。ガラスはやはり高価だ。マーニャの宿には使われていない。窓は戸板を開ければ網戸もガラスもないのが普通だった。単なる穴だ。それが、このレンガの家には窓ガラスがある。というよりはステンドグラス方式だ。嵌めガラスと言われていて、普通の窓より少し高いところにある明かりとりだった。


『村長の家とかだったんじゃないか?』

「そうだね、周りもレンガの家だった」

 ここに持ってきたこの家は、実は一部を切り取ったものだ。ランタンの力を使ってかなり強引に形を作ったのだ。必要以上の大きさは管理しきれないのでこれくらいで十分だ。


「こっちはこれで大丈夫かなあ。あとは〈補強〉をどこにはめ込むか、だね」

『風雨にさらされない、人の手が届かないところに彫り込むのが一般的だな』

 そう言われて、私は頭上を見上げる。


「紋様、複雑?」

『そうだな。〈治癒〉程度かな』

「かなり複雑だね……ランタンを使う」

 治癒の呪符(トゥル)を描くのにかなり時間を使う。一時間では描ききれないのだ。屋根のチェックに時間を使ったので、早く終わらせたかった。


『今日は記憶の大盤振る舞いだな』

「これは、必要経費だよ」

 ヒジキに言いながら自分に言い聞かせる。外のはしごを持ってきて、風呂の前室の壁に立てかけた。登った先のレンガを指さす。


「〈補強〉を」

『あいよ!』

 左手に現れたランタンからピンクの炎が舞い、レンガに複雑な模様が刻まれていく。呪符というよりは魔導具よりの扱いだった。私はその紋様をしっかり記憶に刻み込む。


「これって、何にでも効くの?」

『これは家の〈補強〉だよ』

「また細かく分かれているのね……ああ、でもこのあたりは範囲か」

 見覚えのある紋様が刻まれている。


『家の大きさなんかによって変わるしな! 俺は誰かの記憶を拝借しているだけで、意味なんかはわからない。ただ、このレンガの家にはこの紋様が最適だってのが本能でわかるだけ』

「ほんと、ややこしい。もっと系統立っていればいいのに」

『誰でも使えるようになったら、まじない師や魔導具師が食いっぱぐれるだろう?』

 だから、誰しも秘匿する。そうやって失われていった呪符が多い。


 描ききると、ランタンは消えて炎も消えた。手元が真っ暗になる。それでも、消える直前の紋様はしっかりと覚えた。次は自分でできる。


『今のでかなり記憶を使った。美味しかったお菓子が消えた。カナン、またストックが欲しい』

「わがままなランタンだ」


 とはいえ、このあともまだまだ記憶を使いそうなので補給することにした。

 補給する際は必ずノートに使う記憶を記すのだ。


「ラムネにしようか? グミにしようか」

 コンビニに並んでいたグミの棚を思い出す。あったなあ、果○グミ。これもまた期間限定ものが多数あった。確かレモンと、梅とか、スイカ、チェリーも。


 ノートに書くとなれば机が必要なので、一応机の残骸がある木の家に移動した。軽く埃を払って椅子に座りインクを取り出す。

 ランタンに与えるグミを書き出し、左手に集中した。


「ヒジキ、燃やすよ。ストックする」

 そうして並べたグミの名に、ヒジキは尻尾をピンと立てたあと、へにゃりと崩れ落ちる。


『なんだこの食感は……』

「面白いよね」

 こうなるとしばらくは記憶のお菓子を堪能しているので、私はあたりを散策することにした。


 魔物よけの呪符はかなり広範囲に渡って効果を発揮するようできている。〈探知〉の魔導具で探るが、その範囲から外にも魔物はいなかった。

 山の麓から三時間ほど歩いたところに村がある。さらに二時間行けばわりあい大きな街があった。途中は森と草原だ。草原は馬で駆けることもできるだろう。山の麓の森から隠れ家までは急勾配な場所も多く、まず人はやってこないと思うのだが、絶対というわけではない。ただ、山の恵みはもう少し下ったところで十分得られるので来るとしたら道に迷って、だろう。

 山は登っているのか降りているのかわからなくなる場所も多かった。


 家がある程度整って、完全にここへ腰を下ろすことを決めたら、人よけの魔導具も設置するつもりだ。避けるというよりは惑わせて麓へ送り返す魔導具だ。ヒジキは調子にのると色々な知っていることを話し出す。たまにご機嫌取りに記憶を渡して口を滑らせるようにしてみていた。


 魔物よけの魔導具の範囲から出て、三十分ほど歩くと魔物の気配がちらほらしだす。すでに下調べしていて、そこまで強いものはいない。反対に食用になるような鳥型やウサギ型が多かった。罠を仕掛けておけばいい。


 ふわりと、ヒジキの気配がそばにやってくる。


「もういいの?」

『ああ、とっても美味しかった』

「じゃあそろそろ宿に戻ろうかな』

 さすがにここに泊まるくらいなら宿で寝る。

 首に提げていたメダルを取り出した。これは誰でも使えるものではない。私しか使えない、〈移動〉の魔導具だ。宿に置いてきたものと対になっている。目印の元へ戻るものだった。


 クロウにも同じものを作る予定だ。目印をいくつか置けて、そこへ〈移動〉する。この隠れ家の目印は、家の下に埋めてある。

 同時に、咄嗟に使う指輪型の〈移動〉の魔導具も作ろうと思う。そちらは使えば壊れるが、どこに移動しようと選ばなくてもいいものだった。


 メダルに魔力を込めると、風に攫われるような感覚がして宿についた。

 窓が閉められているので部屋の中は暗い。向こうで軽くはたいてきたとはいえ、自分のほこりっぽさに辟易した。


 部屋を出て階段を降りると、まだ少し日はあるが夕食の時間が始まっているようだった。


「カナン、勉強は進んだ? 夕飯は食べる?」

「今日は何? あ、食べる!」

 トールの煮込みだ。しかも冒険者が持ち込んだのだろう、肉が美味しいヤツ。


 金を払って受け取り、空いている席についた。

 〈伝達〉のイヤリングを軽く叩く。


『クロウ、帰ったよ』

 しばらくして返事があった。あちらももうすぐ終わるらしい。ニア婆にこき使われているそうだ。のんびり食べているとクロウがやってきた。


「お帰り。お疲れ」

「ああ、カナンも」

 そう言うだけで、クロウはこちらのことは何も聞いてこなかった。

 ランタンの魔女として何かしていると思っているようだが、まさか家の準備をしているとは思うまい。全部整えてからお披露目したい気持ちもあるが、目的を考えると完璧を目指す前にだいたいできた時点で教えておいた方がいいだろうなとは思う。

 あちらに飛んでも、一ヶ月くらいなら過ごせる準備ができたら案内しよう。

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