29.水源の確保
そうと決めたら日の高いうちにやれることをやっていかねば。
湧き水まではそれほど距離がない。が、時間がないので転移だ。ある程度形になれば、この転移に消費する記憶を節約するため〈移動〉の魔導具を作るつもりだ。これもできることは聞き出している。そして、いつでもここに魔力を通すだけで移動できるようにする。緊急避難場所のできあがりだ。
湧き水は今は山の斜面からしみ出したものが、それなりの水量であたりをぬらしていた。
「このあたりに粘土とかの硬い土の層があると思うの」
とくに一ヶ所、水が勢いよく噴き出している場所があった。
「この下に濾過装置を置いて、その底から家の方に道を繋ぎたいんだ。濾過装置に使う壺はこれ」
例の廃村は、魔物に襲われる前はそれなりに栄えていたようで、色々と放り出された物が多かった。私がすっぽり入ってしまいそうな大きな壺が放置されていたので拡張鞄に入れてきた。その壺を横に倒して取り出す。底がこちらを向いている。
左手の甲に意識を向けると、手の中に赤銅色のランタンが現れた。
右手には作ってあった道をつなげる魔導具の入り口の方だ。
「ふふ、あれみたいだな」
国民的青タヌキのアニメにもこんなものがあった。けれど、手にあるこれは人が通り抜けるような大きさではなく、手のひらの中に収まる小さなものだ。銀色の金属でできたリングだった。
「ランタンを使う。この魔導具を壺の底にはめ込んでとれないようにして。また、そこからひび割れることのないよう、この壺を強化」
やれることはやっておく。
ピンク色の炎で壺が包まれ、オーダーが通ったことを確認すると私はまた壺を鞄にしまった。
私が入り込めるほど大きな壺なので、移動も一苦労だ。だが、鞄に一度しまえば出すときの向きや重さはまったく問題なくなる。
再び壺を出して、今度は底を下にする。覗き込みながら鞄から出した目の細かな布を敷いた。心配性なので三枚も敷いた。さらにその上にとてもきれいな細かな砂。これも場所探しの過程で手に入れた。移動先でなんだかんだと珍しい物や使えそうなものを集めていたので場所決めにかなり時間がかかってしまったのだ。
ちなみに山火事の跡に炭も見つけたので拾ってきた。炭は汚れを吸着するなんてのも見たことがあるし、砂の上に入れておこう。布袋に入れて軽く叩いて細かくした。
段々と上に向かうほど砂が粗くなるよう下から敷き詰めていく。
下にいけばいくほど細かいのだ。
壺の半分ぐらいを濾過用の砂たちで埋めたところで再び鞄へ。湧き水の真下を軽く掘る。壺が嵌まるくらいの大きさにした。
壺を鞄から取り出しはめ込んだあと、また作っておいた水の受け口を差し込もうとしたが、硬くて入らなかった。仕方ないのでランタンを使って無理やりめり込ませる。
うん、かなり、ランタンを使うことにためらいがない。
何せお風呂への第一歩だから、絶対に成功させたいのだ。
溢れた水が受け口を伝って山肌より少し先で落ちる。その下には壺があり、中へと吸い込まれていった。
「よし、戻ろう」
色々悩んだのだが、風呂場は別に作ることにした。家から少し離したところだ。心配だったのが、排水と、カビ。どうしても濡れるから、カビが不安だった。
それが家の中に組み込まれていて、湿気が回るのがいやだったのだ。
最終的には渡り廊下のようなものを作って浴室に向かうつもりだ。
と言うことで二つ目の廃屋をどん、と設置。ただしこれはまた別の廃村から拝借した。レンガ造りの家を見つけたのでそこからまるごと移動を願った。このレンガ造りの家はそこまで大きくない。二部屋しかない。
「ここを水回りにしようと思うから、こっちにもう一つ壺を置くね」
そしてその壺の内側に湧き水の入り口を、下の方に出口をつなげる。今度は二つだ。
一つはキッチンの方につなげて、もう一つは湯船につなげるつもりだった。
さらに壺の高い位置に出口を。
これは排水のためだ。ずっことの家にいるならいいが、そうでないなら溜まった水がここで溢れてしまわないように高い位置に来たら水を捨てられるようにしたい。こちらはずっと開いておく。
「素人考えでやっているから……どこかで失敗していそうだけどとりあえずそのときはまたランタンを使う」
『おう、使え使え! どんどん使って俺にお菓子を教えてくれ』
とりあえず今は排水用の出口だけつなげてしまおうと思う。
排水は家の側にしたくないので、再び例の湧き水の場所まで移動した。斜面の途中に穴を掘り、岩にぶつかったのでそこへランタンの魔法で排水用の穴を作った。まだ二つ目の壺が満タンになっていないので水は出てきていないが、今後溢れる分はこちらから排出されるだろう。
水を家に取り入れる仕組みと、溢れないよう排出する仕組みは作った。あとは風呂場を作ったあとに、風呂桶を入れるのだ。
湯を沸かすのは幸い魔導具がある。水を半分ぐらいためて、湯を沸騰させてその後水を足せばいい。シャワーなんて贅沢を言う気はなかった。
ただし、一度に使えるのはこの壺の大きさまでだ。壺は大きいとはいえ、風呂の具合によっては足りないかもしれない。そのときはもう一つ壺を作るとしよう。
レンガの家は畳五枚分くらいの部屋が二つ連なっていた。
手前の部屋が風呂に入るための準備の部屋だ。奥が風呂場となる。問題は窓があること。いや、窓は必要だ。湯気を逃がさねばならない。
「難しいなあ」
『ランタンで望む形を作ってしまう方が早いけどな』
「わかってるんだけど、……そのうちクロウも来られるようにしたいから、あんまりあちらの知識をこっちに持ち込みたくない。なるべく家の形とかはこちらに合わせておきたい」
『あの男も呼ぶのか!』
「避難所だからね。クロウも生死の境に立ったときにはこっちに移動して、しばらく身体を休められるようにしておきたいんだ」
避難所、セーフティーハウスだ。
逃げ込んで、落ち着いて、しばらく身を潜められる場所。
「まあ、技術と知恵が足りないのは仕方ないや。少しずつ改良していくしかない。風呂桶は明日探しに行くとして、他の場所も手入れしよう」
風呂の大きさによって土台も変わってくる。
クロツルバミの迷宮都市ならばどこに何があるかもわかっているのだが、さすがにそんな目立った行動はできない。だいたい、既製品があるかもわからない。家具などは基本オーダーメイドだ。大きな風呂は石を組み合わせ隙間を埋めるような作り方だったが、例の風呂のある宿のものは陶器でできていた。
廃屋に風呂があればよかったのだが、なかった。つまり、普通の家に風呂はないのだ。つくづく、一番最初の、クロウがヴァンであったときの家に風呂があったのはラッキーだった。
たぶんだが、魔女への献上品の一つだったのだろう。
魔女が特別なものであるあらわれだ。
「家もだけど何より風呂を完成させたいよね。こっちの前室で衣類を脱いで……石鹸類も揃えないと。布も、置いておきたい」
こうやって風呂を作っても毎日来るなんてことはできないだろう。それでも、五日に一度くらいは来たい。そのときに気持ちよく入れるよう準備しておこう。
「このレンガの家はわりとしっかりしているから大丈夫だとは思うけど……」
扉は木でできており、内側からのかんぬきも壊れていなかった。
この世界、普通の家は鍵なんてついていない。大切なものは家の中に隠しておき、箱に鍵をつけたりする。人が家にいるときに内側からかんぬきをかけるのだ。
『レンガは崩れると危ないから、呪符で補強はしておいた方がいいぞ』
「そうなの?」
『風呂に入っているときに壁が崩れたらこまるだろう?』
崩れることなんてあるのだろうか? あるとすれば屋根か。木の家とは違ってこちらの屋根は崩れていなかった。
「補強の呪符、教えてくれる?」
「まかせろ! 安心安全な風呂生活に必要だもんな」
ヒジキもお風呂がかなり楽しみなようだった。
ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。




