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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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27.迷宮閉鎖

 迷宮混乱(ラビレントカラシュム)により、クロツルバミの迷宮都市に滞在する冒険者たちはたいそう暇になった。

 なにせ生活の基盤である迷宮に入ることができない。迷宮への三重門は固く閉ざされている。


 そうなると困るのは、その日暮らしの冒険者たちだ。

 普段から腰を落ち着けて、この都市での迷宮探索を生業としている冒険者は、十日間仕事がなくても生きていけるくらいの蓄えはある。こんなときは思い切り休むものだと割り切って過ごした。


 しかし、宿代をなんとか払い、迷宮に潜ることで食い扶持を稼いでいる冒険者たちは他で稼ぐしかなくなる。

 冒険者ギルドに張り出される、普段なら見向きもしない依頼に群がるのだ。

 特に、新しいクロツルバミの迷宮都市に潜るには明かりが必要になると予測された。


 魔力は誰でも持っているので、灯りの魔導具を入手すればどうにかなる。少しの魔力で長時間点いている、なかなか便利なものだ。


 たいまつを持って潜っていては、いざというとき動きにくい。それよりは前方に届くよう、灯りの魔導具を首から提げるのが現実的だった。


 このままこの迷宮で過ごすならば、それを買う金を捻出しなければならない。


 とはいえ灯りがないのはギルドも、そしてクロツルバミの領主も憂いているようで、少しずつ階に灯りを設置していこうと話がされているらしい。

 こういった話も看板娘リアナがいる酒場でもたらされた。


「まあ、今は入ることができない。すべて、戒律(ルール)の宣言が始まってからだ。それまでは久しぶりの休みだと思ってのんびり過ごすさ」

 ロンが私とクロウのテーブルで芋の揚げ物をつつきながら言った。


 風呂付き高級宿で惰眠をむさぼり、昼前にようやく引き払って出てきた。その足で迷宮そばの冒険者ギルドへ行ったら、ちらほら一階まで到達した冒険者たちがいた。皆、疲労が色濃く、身なりもボロボロだった。想定していない魔物との対峙は肉体的にも精神的にも苦痛でしかない。

 地上へ戻るのに時間が掛かっているということは、それだけ下の階層に追いやられたのだろう。私たちが最初にいた階が何階かはわからないが、十階層より下は生存確率がぐっと減りそうだ。

 ギルド職員にハリルが出てきたか聞いてみたが、返答は思わしくないものだった。


 そして、今日の夜をもって、職員たちも迷宮から退避する。


 戒律を最初に踏むのは領主一族でなければ混乱をきたすのだ。迷宮混乱(ラビレントカラシュム)は五日から十日ほどで落ち着くと言われている。間違っても一介の冒険者が戒律を踏まないよう余裕を見て完全閉鎖するのだ。


「私は迷宮に入ったことがないからわからないけど、みんな別の都市に移動しようと思わないの?」

 リアナの言葉にロンは苦笑する。

 冒険者が減ったら困るのはどちらかというとこの都市に根付いて商売をしているリアナたちの方だ。無邪気な質問に、言葉を選んで答えた。


「よっぽど迷宮がうまみのないものなら移動も考えるがな」

「それよりは、新しい迷宮が冒険者や都市にとって都合のいいものかもしれないだろう? たぶんみんな、今はそっちを考えてる」

 私が一般的な冒険者の見解を述べると、リアナはふうんと言いながら芋をつまんだ。


「新しい迷宮の善し悪しによって、スルシュ様の評価も変わるだろうさ」

 領主の新しい嫡男のお家騒動で、迷宮混乱(ラビレントカラシュム)が引き起こされたことはすっかり広まっている。だが、その始末については何も知らされない。それは当たり前のことだろう。あちらは貴族。こちらはただの冒険者だ。

 とはいえ、巻き込まれた者として、ことの顛末くらいは知りたいと思っている。


「ロンはそのあとどうなったとか知らないの?」

「さすがにまだ聞こえてこないなあ。お前さんの方がワラン商会に随分気に入られてるじゃないか。あそこは領主の屋敷にも出入りしているだろう。聞いてみればいい。そしてこっちに教えろ」

「そんなの無理に決まってるだろう。ちょっと何度か街の行き来を護衛しただけだよ」

 フルムのこともあって、正直尋ねていってどうだったかと聞くのは難しい。今後の依頼すら受けにくいなとおもっている。


 あのあと、ギルド職員がどこまで話したかはわからないが、私の言ったことがあちらの耳に入っていれば、逆恨みされても仕方ない。


「お前らはこの十日間、どうするんだ? 何か仕事が必要なら斡旋しようか?」

 ロンの言葉にクロウは首を振る。

 この店に来る前にマーニャの宿近くを通ったのだが、そこでクロウは墨屋のニア婆に捕まった。灯りの魔導具を作るために飛ぶように売れている、専用の墨を準備したいらしい。材料はあるのだが、男手が必要だということだ。


「墨屋は今、大忙しだな。魔導具だけじゃなくて呪符(トゥル)にも使えるんだろう?」

「そうだね。等級はだいたい一緒かな。魔導具師の腕にもよるけど」

「カナンは魔導具は作らんのか?」

「俺は呪符しか教えてもらってないんだよ。あっちはあっちで師匠が必要」

「そんなものか。新しく覚えるには金がいるし、それもかなりの高額だ。まじない師は大変だな」

「魔導具師になってくると、ほぼ親子だね。親から子に伝えていく。まじない師は、迷宮に入りたがる性格か、ってのもあるから、親から子に受け継ぐのが難しいことも多い」


 だから魔導具師は貴重なのだ。なかなか他に派生しない。限られた血筋で伝わっていく。

 反対に引退したまじない師のほとんどが、教えるときの金で余生を暮らす。希少な呪符を知っていると、生活が楽になる。こちらは金さえあれば誰でも教えてもらえる。


「クロウは墨屋で、カナンは?」

「俺は、集中して研究することにする」

「呪符研究もするのか、お前」

「一応ね! 食い物買い込んで、部屋にこもる」

 そういうことにした。




「それじゃあクロウよろしく」

「ああ、十分注意して」

「マーニャにももうご飯も何もいらない、むしろ邪魔をしないでくれって言ってあるから。昼間誰か来ても、クロウのところに行ってもらうようにしてある。定期的には帰ってくるよ」

「ああ。何かあれば〈伝達〉で」

「残念だけど範囲外だね」


 私がこれから行くところはとても遠い。


 私のベッドの上に、上掛けを丸めて人影のようにする。衝立のこちら側にテーブルを移動し、もし間違って扉を開かれてもベッドとテーブルが見えないようにした。

 その上で、ベッドの上に丸い金属の塊を置いた。これは目印だ。私が〈転移〉で戻ってこられるようにするためのものだ。


 クロウを普通の生活に戻し、私はランタンの魔女として人里離れて暮らせるよう、一年ほど前からこまめに準備している。

 色々と不安が多く、考えた末の策だ。

 首に掛けてあったペンダントを取り出して、触れる。魔力を通すと刻まれた呪符がピンク色の光を放つ。


 そして私の身体は遠い山の中に移動した。

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