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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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24/39

24.入口

 スルシュが一番大きな声を出して喜び、リムに注意される。他にもいるかもしれない。それを呼び寄せるようなことをするなと言われて、慌てて口を押さえていた。私の周りに散らばった魔導具を持ち主が回収して、移動の準備をする。


 リムが明かりを消さずに、登り道のそばに倒れている騎士だったものを検分していた。体中を酸に溶かされている。そうやって捕食するタイプなのだろう。見ていて気持ちいいものではない。

 私は視線をそらして、暗闇の中クロウのそばに移動した。


 リムの明かりに照らされ、クロウの薄い瞳だけが反射して光っている。

 私のことを認識したはずなのに、頭をぽんと叩かれない。これは、怒っている。でも、あの場ではあれが一番の策だったはずだ。自分の呪符(トゥル)が一番扱いやすい。同じように私の身を囮にすることはこれまで何度もあった。今回だけなぜそこまで怒るのだ。

 視線だけで見上げているが、一度も目が合わない。


 リムは騎士の頭部をおもむろにはねた。そして何かを引っ張り出す。

 キラリと光ったのはタグだ。


「札持ちだったんだな」

「家族がいると、騎士もタグを用意するって話を聞いたことがある」

 冒険者はタグを作らなければならない。それが冒険者の身分を保障するものだからだ。タグさえあれば街を行き来してもスムーズに街へ入ることができる。騎士は身元が明らかであるから、タグを用意する必要はなかった。とくに貴族に仕える騎士は、不意の事故で死ぬということはまずない。


 首をはねたのは、酸で鎧が鎖と張り付いて取り出しにくかったようだ。


「よし、行こう。たいまつは消しにくいし、俺の明かりの魔導具でとりあえず上がったところの状態を見るぞ。慎重にな」

 リムがロープを手に取るよう促し、私たちは上へ向かった。


 そう、一階だ。


 上がるにつれて人の話し声が聞こえてきて、みんながおい、と声を漏らした。ゆっくり慎重にと言っていたリムの足が速くなり、持っているロープがピンと張る。

 やがて、誰もが駆けだした。


 一階層は変わらない。

 迷宮の中がぐちゃぐちゃになろうとも、一階層は同じ広さだ。


 大勢の冒険者と、そしてギルド職員が明かりの魔導具を壁に設置しているところだった。


「リム!!」

 その中の一人が二階層から駆け上がってきた私たちの姿を見つけて叫ぶ。


「無事だったか!!」

「ああ……」


 そう言って、へたり込んだ。

 誰も彼もが、この先まだ続く恐怖と戦っており、一気に気が抜けたのだ。

 スルシュも他の冒険者と一緒だった。気が抜けて座り込んでいる。


 私とクロウだけはここが一階層と知っていたので腰が抜けるまでにはならなかった。

 こんな状態では話なんてできないだろうなと思い、私が尋ねる。


「他の人たちは? どのくらい帰ってきてる?」


「さっき騎士団が十名ほど。冒険者はまだ半分以上帰ってきていない。イディクがいるって話で、今こっちで対策して狩りに行く準備をしていたところだった。上手くすり抜けたのか?」

「いや、始末した。死体もまるごと鞄に入れてきたよ」

 わざわざ私の鞄のものをクロウに渡して鞄の中身を空にするという演技までして持ってきた。深部の獲物はいい値段になるだろうから。


「ただ、始末したのは一匹だけだから、他にもいるかもしれない。二階層に明かりの道と、他に危険なものがいないかのチェックはした方がいいと思う。三階の、二階への道の前に騎士様の遺体があった。イディクを恐れて上に踏み込めない人がいるかもしれない」

「ああ、そうだな。浅い層は迷宮混乱(ラビレントカラシュム)でも早期に作り替えられるというしな。これ以上の地形の変更はないだろう。わかりやすくしておいてやらないとな」


 そう話している途中で、その職員がスルシュに気づき目を見開いた。

 ああ、これはと理解する。


 あいつはもう先に出て言いふらしているのだ。


迷宮混乱(ラビレントカラシュム)の原因はフルムが実を取ったことだ。あいつが出てきたらすぐ拘束してくれ」

「フルムが……?」

「そうだよ、え、聞いてない? ああ、そばに立っていたのは俺だったし、あいつがわざとらしく声を張り上げていたから誤解している人がいるのかもしれないな……」

「だが……現場の……」

 何か言いかけたギルド員にたたみかけるように続けた。


「他にもスルシュがやったとはっきり見た人がいるなら拘束した方がいいね。グルだよ。もう一度はっきり聞いてみたら? 実を持っていたのは誰だったのか、その目で見たのかってね。はっきり見たといえないなら耳だけの情報だってことだろう? あの混乱した状況で、聞いた情報を見たと勘違いすることは普通にあるから。だけど、俺は見た。あのとき、俺が落としたルタカルを慌てて拾うためにしゃがむスルシュと、こっちを振り返って金色の実を持った間抜け面のフルムをね。いいよ、スルシュがとったのだと証言するヤツとは真っ向から戦ってやるよ」


 きっと無事ここまでこれたことに私は、気持ちが緩んでいたのだ。気持ちが緩んで怒りがふつふつと湧き上がってきた。

 お家騒動に迷宮都市全体を巻き込むようなことをしたフルムに、私は苛立ち、自分でも呆れるくらいの怒りをぶつけていた。


「誰か」

 私の自信たっぷりな言動に、彼は後ろを向いた。その言葉に呼応するよう数人が駆け出す。


「お前ら……、怪我は? 立てるなら移動してくれ。カナン、しばらく帰れないぞ」

「とってきた物の査定をして欲しい」


 あと、ごろんと寝転がりたい。この際どこでもいい。


「そうだ! イディクの魔石はいい値になるだろう。カナン、解体所に行こうぜ」

 現金な冒険者たちが立ち上がる。


「サファレも狩った! 山分けだぞ」

「誤魔化すなよ!? 数はちゃんと数えてるぞ」

 先ほどまで立ち上がることもできなかった彼らが俄然騒がしくなる。


「スルシュ様! 本当に〈治癒〉の呪符代返さなくて大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。気にしないでくれ。魔物の素材代もみんなで分けてくれ」

「マジっすか。いやったあ!!」


 大喜びの彼らに、スルシュも頬を緩める。


「ほら、行くよスルシュ」

「え、ああ」

「あのさ……わかってんの?」

 気が抜けたままのこいつにも腹が立ってきた。

 のろのろと立ち上がるスルシュの胸に人差し指を突きつける。


「結局シウォールからの帰路も一緒だろう? つまりさ、お前が命を狙われている」

 目を大きく見開くスルシュの間抜け面に、次の言葉をさらに紡ごうとしたところを、後ろからクロウに羽交い締めにされた。


「すまない、スルシュ」

 口をがっちり押さえられている。


「カナン、ダメだ。自分でもわかってるだろう? それ以上は、八つ当たりだ」

 喉の奥でうなり声をあげる。


「悪かったから。カナン。お前はよくやった」

 八つ当たりだ。ぜーんぶ八つ当たりだ。

 そうだ、私はきちんと自分の役割を果たした。


 ぶわっと両目から涙が溢れ出し、クロウの手をぬらした。慌てて身体をひねってクロウの身体に顔を押しつけた。


「クロウが悪い!」

「そうだな。カナンの判断は正しい。俺が悪かった」

 頭をぽんぽんと撫でられる。

 

 私だってあんな囮役は嫌だ。

 タイミングを間違えば大けがをする。

 それでも、私は死ぬことはないのだ。最悪ランタンで全部ことを収めてしまえる。ランタンで全部なかったことにできるのだ。


 クロウだってわかってるはずなのに、なんでクロウは怒るんだ!


「俺が悪かったよ」

 そう言ってクロウは私を抱き上げギルドへ移動を始める。前髪の隙間からニヤニヤしたリムの顔がチラリと見えて、私はクロウの肩に顔を埋めた。

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