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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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23/39

23.酸の魔物

 そして絶望する。


「開放階だ……」

「最悪だな。たいまつを消せ」

 急いで地面を掘って土をかぶせた。先がまったく見えない。真っ暗になる。


 通路が存在せず、壁が一切ない階が稀に存在する。以前のクロツルバミの迷宮ではそれが美味しいお肉の魔物の階だった。肉屋が夜の肉をとりにいく階だ。強い魔物がおらず、見晴らしがよく事故が起きにくい。


「端がわからねえよ」

 同じように〈探知〉の魔導具を持つ男が漏らす。

 彼の言うとおりだ。端がわからない。それだけ広いのだ。


「上への階段をどれだけ早く見つけられるか……」

「分かれた方が早いと思うが、何体いるかもわからんしな。また会えるかも微妙だ。明かりが使えないし、使えば標的だ」

 暗闇にたいまつの炎はよい目印となってしまう。こちらは相手の接近に気づく手段が〈探知〉のみだ。


「くっそ……仕方ねえ、地道にやるしかないな。まず、ここにたいまつを一つ残す。三階への入り口だ。魔物が寄ってきて、下の階から来たやつを襲うかもしれねえが、そこは、心の中で謝るってことでだな。ここから、チッ、本当に真っ暗だな」

 そう、この会話も暗闇の中だ。何やらごそごそして道具を取り出したようだ。


「よし、方角は狂っていないようだ。とりあえず真っ直ぐ端まで歩こう。中型が近づいてきたら直角に曲がるぞ。ロープを出せ。明かりの魔導具は?」

 何人かが持っていると声をあげた。私たちも持っている。


「魔物と抗戦することになったら、魔力を通して方々へ投げろ」


 何をするにも視界が必要なのだ。戦うとなれば、明かりが魔物を集めるなどと言ってはいられない。


「警戒すべき魔物の名前はイディク。形は詳しくは知らない」

 そう言うと、リムが先を持ったロープにみんなでつかまり、ゆっくりと歩き出す。

 もう一人の〈探知〉魔導具の使用者と時間で交代してあたりを探りつつ進んだ。小型のものに何匹か会ったが、罠を使い、なんとか倒す。私の知らない魔物もいた。


「すっかり混ざってるな。魔物たちも大混乱だ」

 時折軽口を叩きながら、とにかく真っ直ぐ進んだ。リムの持っている道具で方角がわかるらしく、真っ直ぐ進めるのはありがたかった。


「……六千歩か……でかいな」

 かなりの時間を掛けて反対側の壁までやってきた。次は壁沿いだ。

 壁沿いに進み、元の場所を目指す。その途中で上への道が見つかればよし、ダメなら今度は反対側。全部の壁際を探して上への道が見つからなかった場合は、頭の中の地図を埋めていくしかない。視界が悪い中、最悪の事態だ。


 それでも、さすが冒険者と言おうか。誰一人文句を言わずにリムに従う。彼の方法が地道だが確実だとわかっているのだ。


「ほとんどの階は壁に道が通っていることが多いんだ」

 私は隣でロープを持ったまま、軽口にも参加できないでいるスルシュに話しかけた。息づかいが荒い。暗闇は人の心を削っていく。


「道の影を見つけたらすぐ教えてくれ。行くぞ」

 そのまま左に折れるようにして行った先では上への道は見つからなかった。出発地点にも魔物の影はない。残り半分になってしまった可能性に皆がため息をつく。

 それでも進む敷かないのだ。


 そうしてようやくさらに半分ほど進んだところで、反応があった。


「中級だ」

 私が告げるともう一人の彼も確認したようだ。ロープが揺れる。


「戻ろう。大回りになるがこの暗闇で危険は犯したくない」

 リムの言葉にみんなが従おうとした。

 私がもう一度〈探知〉を使ったのは中級の位置が変わっていないかを確かめるためだ。


「……影が見える。確かめてみて」

 私より後ろにいる〈探知〉魔導具使用者に呼びかける。


「道だ。中級の真後ろに」

「何っ!?」

 探し続けていた上への、一階への道が、一番会いたくない魔物の後ろにあるのだ。


「壁際は合ってたが、最悪の場所だな。移動するまでここで待機するか?」

「いや、中級の側に何かがある。たぶんそれのせいだ」

 私ももう一度〈探知〉の魔導具に魔力を通した。


 ああ、そういうことか。


「遺体か」

「だな。階上に逃げられなかったヤツの遺体だ」


 ぐうっと皆が声を漏らした。


「やるしかないな。初撃をしのげば酸の攻撃はいったん止まる。それでも鋭い爪と牙があり、かなり素早く動けるから呪符(トゥル)は必須だ」

 真っ暗な中でも私に視線が集まっているのはわかる。


「被弾する人物を減らさないとだめだ」

 大勢がそれぞれ被弾したら〈反射〉の呪符はすぐに終わってしまう。


「幸い周囲に魔物はいない。行く人数を限ろう」

「それでも。〈反射〉が一撃で消えるような攻撃は……」


 呪符は私とクロウが生き延びられる数を、余裕を見て作っている。


「被弾する人数を一人に絞れば、いけるかな」

 思いついたことを話すと、リムには驚かれ、クロウは怒った。




「行くよ、クロウ」

 〈伝達〉の魔導具で準備ができた、始めると知らせるが応答がない。


「クロウ? 始めるからね?」


 私は私の周りにありったけの〈防護〉の呪符を並べ、唯一の攻撃呪符である〈火球〉を握りしめた。

 同時に、周囲に設置した明かりの魔導具をつける。


 真っ暗闇に私の姿だけが浮かび上がった。さらに、気を引くために相手に〈火球〉を投げつけた。


 〈探知〉で正確な位置はわかっている。とはいえ、かなり距離があるので外れることも大いにある。それでも、相手に私の存在を知らしめることができるだろう。


 今回はラッキー。イディクに命中して、ギュイっと鳴くそれは、赤い火の球に炙られ毛を焼かれたようだ。紫色の目をこちらに向けて突進してくる。


 そしてまず噂通りの酸の攻撃。正確に私の胴を狙ってくる。恐ろしい魔物だ。こんなのが何匹もいるような階層に行くなんて絶対にごめんだ。


 一撃で〈防護〉が消える。だが次の手に握っている呪符を発動させる。

 素早い動きも噂通りで、防護の壁にぶつかる。

 だがそれをものともせずに再び突撃してくる。

 バリンと割れる音がした。すかさず次の呪符だ。


 心配性の私が作りに作った呪符は全部で十。それをすべて消費する勢いだ。そして、再び酸を吐き出そうと口を大きく開ける。

 そう、酸は、イディクの口から発射されるのだ。

 そのときが一番無防備な姿をさらす。


 明るく照らされた獲物である私に夢中なイディクの後ろで、照明の明かりが銀のきらめきを生み出した。


 来たと思った瞬間、イディクの頭と胴は完全に離れていた。酸は、吐き出されることなくイディクの頭部が転がった。

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