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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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22.灯りのない迷宮

迷宮混乱(ラビレントカラシュム)の知識は?」

 慎重に進みながら銅級(バークル)の一人、リムが話しかけてきた。

 たいまつを前方と後方に、スルシュを挟むように歩いて行く。どこに階段があるかなどもまったくわからず、〈探知〉の魔導具を持つ者が、地図を描きながら進む。私がその役を買って出た。

 たまに中央に階段が現れることもあり、しらみつぶしに探すしかないのだ。


「みんなが知ってることくらいは知ってる」

 私が答えると、リムは薄暗い闇の中で頷いた。


「今いる魔物は、起こったときに出現していた魔物ばかりだ。深くなればなるほど強い魔物が出る傾向にあるが、一概には言えない。だから、時間が経つとその階固有の魔物が出現し出す。そうなる前に出てしまいたい」

「うん。そうだね」

「一階は変わらない。一階だけは同じ構造、同じ魔物だ。だから、〈探知〉で見覚えのある構造が出てきたらすぐ教えてくれ」

「わかった」


 私とクロウはここが三階だと知っているので多少気は楽だ。

 しかし、他の面々はそんな情報を持っていない。どこかピリピリと気が立っていた。


「構造物が光っていないのが、残念だな。クロツルバミはたいまつがいらないってのがよかったんだが」

「他の街へ行く冒険者も増えるだろうよ」

「何しろ十日間、迷宮が完全に安定して、戒律(ルール)がはっきりとするまで閉鎖される」

「クロツルバミも終わりかもしれないな」

 最後の一人がそう漏らして、ハッと気づいた全員が押し黙る。

 ここはクロツルバミの迷宮都市。迷宮によって潤った街だ。迷宮が便利なものでなくなれば、冒険者は離れる。冒険者が離れれば、街全体が落ち込む。氾濫(タシュク)も多くなる。


 あまりにうまみがなく面倒だと判断された迷宮は放置し人々がその周囲からいなくなることも少なくない。放棄された迷宮都市がいくつもある。定期的に魔物が溢れ、周囲の街を襲う。さらに迷宮の周りから人の住む場所が失われていくのだ。


 クロツルバミ迷宮伯爵は、窮地に追い込まれるだろう。その嫡子となる者も。


「ん? ルールはどうやったらはっきりするんだ?」

 そんな気まずい空気を払うように、ふと思ったことをリムに尋ねる。彼はこの中でリーダー的な存在のようだ。


「なんだ、カナンは知らないのか。一人前に見えてまだまだ子どもだな」

「うるさいな。迷宮混乱(ラビレントカラシュム)なんて初めてなんだよ」

 必要以上に膨れてみせると、これ幸いと皆が笑う。


「最初の一人に、宣告されるんだ。地を這うような低音で頭の中に鳴り響くそうだ」

「宣告?」

「宣告された者は、何度問われても同じ文言を繰り返せる。そう、頭にすりこまれるって話だ。この迷宮の戒律は何かってな。こういった迷宮混乱(ラビレントカラシュム)があったときは、領主が最初に入るものだと言われている。十日ほどして落ち着いてからな」


 迷宮混乱(ラビレントカラシュム)に遭遇したのが初めてのことで、こんな話をするのも初めてだった。


「明かりの魔導具がよく売れるだろうな」

「周囲の魔導具屋が大喜びだろうさ」

「とにかく戒律だ。それがよっぽど面倒なことでない限り大丈夫だろう。ヨク神様に祈ることだ。この世界を創った神が何を考えているかなんて、わからない。俺らにできるのは祈ることさ」


 この世界は創造神ヨクによって創られた世界だそうだ。

 どこの神殿でもヨク神が祭られていた。あいにく神に関してはどこまで信じていいものか考えあぐねている。


 それに実際は少し違うらしい。神についてヒジキに尋ねると、「そのうちわかるさ」とはぐらかされる。燃やしても、他の誰かが記憶として知っているのならば、ランタンは知ることができるそうだ。

 ヨク神が本当に皆が一般的にいうような存在ならば、ヒジキはきっとそんな風にはぐらかしたりはしない。

 と同時に、神が存在するのだということを、私は実感した。

 神は存在する。そして、ランタンは神がもたらしたと伝えられている。

 私が使っているこの記憶を燃やす道具は神の道具なのだ。


 だから怖い。簡単に記憶を燃やしていくのが怖い。

 まあ、私の日本のお菓子の記憶はいい。この世界にとって無害だ。

 しかし、この世界の記憶はどうだろう。

 本当に、燃やしていいものなのだろうか。

 そして、なぜこのような道具を創ったのだろうか。


 色々と考える余裕や材料が集まるにつれ、神への不信感が芽生えていった。


 私とヒジキしか知らないから、日本のお菓子の記憶は燃やした端から消えていく。完全にこの世界から消滅するのだ。

 そんな風に、この世界の記憶を燃やしたとき、それが最後の記憶だったら、それはいったいどうなってしまうのか。


「カナン? 次はどっちだ?」

「あ、ごめん。そこの角を右へ行ってみよう。そちらはまだ見てないエリアだ」


 一人物思いに沈んでいてた。今はここを抜け出すことに専念しよう。

 しかし、広い。三階のはずなのに、今までの三階と比べてかなり広く感じる。


 角錐型の迷宮ですらなくなったということか?


 魔物には時々出会うが、致命的なものはいない。

 ようやく二階への階段を見つけたところで、騎士団の一人の遺体を発見した。


「鎧を貫通する傷……嫌な予感しかねえな……」

「急所じゃないから逃げてここまで後退したって感じか」

 知らない魔物ならアウトだ。対策が打てない。とにかく〈反射〉と〈防護〉でしのぐしかない。


 最悪、ランタンの出番だ。

 左手を右手でぎゅっと押さえる。


「何か心当たりはあるか?」

 普段狩りをする階にこんなものはいない。トゥジュもここまでの力はない。


「穴が空いているな」

「ああ……聞いたことはあるんだ」


 リムが顔をしかめたままたいまつをギリギリまで近づけて傷跡を吟味している。

 私もこういった野蛮事が好きなわけではない。だが、冒険者として生きると決めたとき、逃げていては始まらないとも思った。魔物の流す血には慣れた。迷宮で倒れた遺体も、鞄や衣服だけ残った残骸にも。


「傷口から血が流れてないね。酸で溶かされてる?」

「……よく見てるな。三十二層に、そういった魔物が出るって話は聞いた。盾も通用しない、呪符(トゥル)の〈反射〉も一度で吹っ飛ぶ。そんな化け物がいるってのをな」

「〈反射〉が一度で……」

 連続で攻撃がこようものなら、二度目は食らってしまう。


「吹き矢のように飛ばしてくるそうだ。ただ、酸を飛ばすには一定時間が必要だ。二撃目が発射される前に仕留めるしかない」

「大きさは?」

「中型だ。〈探知〉で中型を見つけたらすぐに知らせてくれ。〈反射〉はいくつある?」

「あと……十かな。悪いけど大人数の分を持っているわけじゃないんだ」

「個人でいくつかもってるだろうよ。あとは何体いるかだ……まあ、通路をしっかり把握していけば対面するのは前方二人くらい。この階以上に慎重に行こう」


 そうやって二階へ上がった。

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