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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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21/39

21.迷宮混乱

 スルシュの目が覚めるより早く終わらせねばならない。

『ヒジキ! 三階あたりの階で、冒険者の数が少なく、魔物の強さもそれほど強くない場所へ移動したい』


 左の手の甲からピンク色の霧が現れ、足下に形づくる。


『注文が多いなあ。足りるかどうか……』

『十分足りるでしょうに。記憶の炎の無駄遣いはできない、でしょう』


 私がそう言うとヒジキはにゃんと短く鳴く。誤魔化すことはできないらしい。等しい交換が必要とのことだ。

 再び霧になり、私の左手にランタンが現れた。持ち手を掴んで記憶を燃やす。


「三階あたりの最適な場所を」

 すると、私たち三人をピンク色の霧が包み込み、浮遊感を感じたと思ったらまた違う場所へ辿り着いていた。


『お望み通り。三階、周りに魔物は少ないし、強い魔物もいない。この階の冒険者は真反対にいるから、〈探知〉で探られてもいないだろうよ』

『ありがとう。戻って』


「周囲に魔物はいない。スルシュを起こして移動しよう」

 クロウに告げると、私にたいまつを寄越した。この階も壁がぼんやりと光っていることはなかった。クロツルバミの迷宮は、もう明かりなしでは入れない迷宮となってしまった。


 軽く頬を叩くと、スルシュはようやく目を覚ました。途端に声をあげようとしたので、クロウが口を塞ぐ。ジェスチャーで静かにと言い聞かせると、目だけ動かし周囲を確認し、やがて頷いた。


「近くに魔物はいないが、それでも静かに。音に敏感なものがいるかもしれない」

 囁くような私の言葉にスルシュは頷くだけ。


「なるべく魔物に遭わないように進みたいから、黙ってついてこい。あと、これに魔力を通さず持っていて」

 そう言って黒の鞄から〈反射〉の呪符(トゥル)を取り出し渡す。

 普段から、どんな魔物が出るかを把握して動いていた。それがまったくの未知の場所に放り出されて慎重に慎重を重ねても不安になる。


「さあ、行こうか」

 いつまでもこんなところで留まっていていいはずがない。人も魔物も混乱しているうちに上を目指した方が生存率は上がるだろう。


 差し出した私の手を握るスルシュが、絞り出すように言った。


「俺じゃない」

「何が?」

「俺は、採ってない」

 すっかり抜け落ちていたそのことに、ハハ、と乾いた笑いが漏れた。


「何を今更。あの場面を見て、俺がスルシュを疑うわけないじゃないか」

 私の渡したルタカルを拾うためかがんでいたスルシュ。

 手に木の実を持ったフルムの間抜けな顔としっかり目が合った。


「問題は他の奴らが見ていたか、だ」

 どれだけの人間が目撃していたか。


 スルシュも立ち上がり、私たちは道を進み始める。地図を把握していたときはクロウが先頭を行ったが、今回は私だ。こまめに〈探知〉をしながら行くのだ。


「騎士団との仲はよくなさそうだよな、スルシュは」

「あそこにいたのは伯爵夫人の子飼いのようだな」

「伯爵は嫡子にしたいんだろう? 夫人に他に子は?」

「いない。長男が先日亡くなっておれ……私が呼び戻された」

「そりゃ、面白くないだろうな」

「伯爵夫人はまだまだお若いから……せっかく追い出した私を呼び戻すはめになってとても怒っているのだと聞いたよ」

 貴族の揉め事に巻き込まれるのは御免だ。まあ、十分巻き込まれてはいるが。

 本当に他人事として過ごすなら、私はあのときスルシュの腕をとるべきではなかったのだ。知らぬ存ぜぬでクロウと二人で迷宮から脱出することを優先するのが正解だった。

 しかし、ランタンの言葉に弾かれて、私はスルシュを助けることを選んでしまった。


 小さな声で話しながら進んでいると、人の気配を察知した。あちらも私たちの動きを見つけたのだろう。今ここで生き残るのは人数を増やし、戦力を強化していくことだ。間に魔物の気配があるが、大きさは小型。


「クロウ、向こうから来るやつらと合流した方がよさそうだ。手前の魔物を始末したい。スルシュは後ろにいて。小型三匹。罠を使おう」


 相手が何かわからないのだから、最善策をとる。


「小型の魔物で面倒なのがいくつがいるが、それじゃないといいな」

「だね」


 しかし、私たちは運がよかった。相手は勝手知ったるサファレだった。

 私が三匹の後ろ側にわざと外した〈火球〉を打つと、奴らはこちらに走ってきた。


「三匹とは少ない」

「サファレもはぐれたんだろうね。もう少しして落ち着いたらその階に現れる魔物が出現する。今いる奴らは巻き込まれた魔物だ」

 彼らも突然の迷宮混乱(ラビレントカラシュム)に困惑しているのだ。


 〈火球〉に驚き、真っ直ぐ罠に向かってきたサファレは、クロウが手を下すまでもなく成仏した。罠を取り除き、尻尾の毒と魔石を回収する。


「トゥジュの魔石持って行ったの誰だったっけなあ」

「カナンじゃないのか?」

「一個はもちろん持ってるよ。俺はそのあたりは抜かりないよ」

 誰も彼もこんな事態になると思っていなかった。そうなったとき一番弱っちい私が、また、拡張鞄持ちの私が魔石を一つ回収することに何も文句が出なかった。


 そんな話をしていると、曲がり角からたいまつに照らされた男たちの姿が見えた。


「クロウ!」

 一緒に依頼を受けていた銅級(バークル)だ。五人いたが、一人は仲間に肩を預けていた。


「運がいいな。これで生存率が上がる」

「カナン、悪い、ザビの怪我が治りきってないんだ。〈治癒〉をもらえないか? もちろん無事抜けたら金は払う」

「俺たち、最初に落ちたところに運悪くトゥジュが二匹いてな……」

 それは、運が悪いなんてもんじゃない。


「よく生きてたな」

 クロウが自分の鞄から呪符を出そうとしたのをスルシュが止めた。


「こちらに予備があるから、これを使ってくれ。代金もいらない」


 私がたいまつを持ちながら魔石をとっていた。明かりに照らされた私ばかりを見ていたのだろう。クロウが現れるのには彼らも何も驚かなかったが、スルシュの声に彼らはびくりと身体を揺らした。


「無事だったんだな」

「ああ、これを」


 渡された呪符を受け取り、怪我をしている男を座らせる。

 腕から流れる血が、呪符を貼り付け魔力を通すことで止まる。


「助かった」

「いや……面倒に巻き込んですまなかった」


 雇い主であるスルシュにそう言われて、彼らは複雑そうな表情で顔を見合わせていた。


「誤解しているかもしれないけど――」

 彼らはフルムの声だけを聞いていたのかと、私が声をあげたが、いや、と止められた。


「見てたよ。カナンとフルムが立っていて、スルシュ様がほとんど地面に座るようにしていたのも、フルムの手に黄金の実があったのもな。だけど俺たちはほら、いち冒険者だ。騎士団との雰囲気ももちろん感じていたさ。だからそのな」


 つまり、スルシュがいないならそのあたりは見ていないと黙っていよう。そう、話を合わせたところだったそうだ。決まりが悪くて困っていたと。


「ただ、あんたが生きていたなら話は別だ。見たことだけは伝えるよ」

 彼らはそう言って頷いた。

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