19.トゥジュ狩り
レンティは盾を持つ。クロウは左手に反射を持っているので盾を持つことは少ない。トゥジュに初手向き合うのはレンティだ。
それでも真っ向から相手の振り上げた腕を受け止めることはなかった。
横に避けたところで盾を突き出し体勢を崩させる。だが向こうも負けてはいない。押されたのを押し返してくる。
そこへクロウが斬りかかる。
「基本、腕を落とせばこちらの勝ちだ。ほら、他の奴らも構えている。トゥジュは本当に力が強いんだ。噛みつくというよりは腕に体重を載せて戦いにくる」
「……カナンとクロウも十九階を越えたんだろ? つまり、二人でトゥジュに挑んだのか」
「まあ、階を抜けるのに最低三体は出会う。でも、後ろから次のが来ていたりする場合は、罠にかけて、そのまま移動する。確実に安全に対するようにしてからじゃないと狩りはしないよ」
狩るための罠と足止めの罠と、それぞれ違う。
私たちは基本狙っているものがあるし、その階層へ最短で向かうのだ。
とはいえ、トゥジュはかなりいい金稼ぎの魔物なのでチャンスがあれば私たちだって狩る。
「罠にはめて、まず両腕を落とす。あの腕の力が脅威なんだ。クロウはああ見えてかなり動きが素早い」
「それは、知っている。この間、あっという間に丘の向こうに走り去って行ったのを見ていた」
「罠にかけて、動きを制限し、私の〈火球〉を囮にして両手、そして片足を始末してしまえばこちらのものだ」
身動きを奪えばあとは時間との戦いだ。濃い血のにおいに次のトゥジュが来る前に始末しなければならない。
「〈氷結〉あたりで凍らしてしまう」
「……カナンはたくさんの呪符を使うんだな」
「そうだよ。俺は優秀なんだ」
いつもの台詞を吐くと、スルシュはこちらを向いて笑った。
「すごいな」
それにはなんと返せばいいのかわからず、私は黙った。
冒険者を舐めるな、と? たぶん、スルシュの習った剣術は対人を見据えた護身術なのだろう。または騎士から習った正統なものか。魔物にはそんなもの通用しない。住む世界が違っていたのだから、シウォールから移動したとき、己の命を狙う盗賊を前に無様な姿をさらしても、仕方なかった。
今更そんな風に言ったところで、あのとき私が吐いた暴言は口に戻りはしない。覆水盆に返らずだ。
そんなことを考えている間にも、トゥジュは形を失ってきていた。もうすぐ銀級に上がるだろうと言われているクロウと、銀級のレンティ。二人が前面に出て、他の銅級も隙を見て傷を負わせる。足下にはいつの間にか罠が仕掛けられており、後ろ足の一つががっちり固定されていた。
五人ほどで、しばらく死角から交代に傷をつけ、疲れてくるのを待つのも手だ。
「後ろからサファレ、七体」
「こっちで対応する」
罠と、他の冒険者が構える。スルシュはそちらを気にしているが、私たちは動いてはいけないのだ。
「カナン、〈氷結〉はいけるか?」
レンティに問われて、鞄からすぐ取り出す。
「いいよ」
「下がれ!」
私たちからトゥジュまで。軌道上の冒険者がさっと引いて、私は右手の呪符に魔力を込めた。呪符は崩れ去り、現れた尖った氷の塊が真っ直ぐトゥジュの胸に突き刺さる。そして砕け散った瞬間その氷の塊を中心として一気に温度が下がった。
ゴッと喉の奥で唸りが聞こえ、前に倒れる。罠にはまったままの足が折れた。
ヒュゥと誰かが口笛を吹く。
「サファレは?」
「全部始末した」
「素材を回収し次第先へ行こう」
サファレもトゥジュも大量で、みんな笑顔だ。
私の使った〈氷結〉は相手を傷付けるほどの威力はない。ただ、当たって砕け散る時、周囲の温度を下げる。
レンティは上手い具合に胸のあたりを何度も剣でえぐっていた。あの奥に、魔物の動力部、人の心臓にあたる器官があったのだ。
「いい腕だな。狙った場所にきちんと嵌まっていた」
「レンティがしっかりえぐって入り込めるようにしてくれたからな。あれを狙えないようじゃクロウと二人でやっていけないよ」
そう答えると、レンティは笑って私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
もう、こいつもだ。あまり汚れた手で髪を触ってはほしくない。また風呂に行きたくなってしまう。
手早く済ませて後にした。
契約を結んだとき、持ち帰った素材はスルシュとハリル以外で山分けするとあったので、大変満足のいく結果だった。帰りはもっと足早に行くことになるだろう。
十九階は騎士団がかなり暴れたのか、途中いくつものトゥジュの死体が放置してあった。さすがに魔石などとれるものはとっている。
一度も生きたトゥジュに会うこともなく進めた。
そして、二十階。目的の場所に到着した。
二十階は十階と違って広い。中央にある木が見えるまでに少し歩かねばならない。
相変わらず土の迷路に、時々魔物の死体。匂いは慣れた。むしろ冒険者の匂いの方がひどいときがあるくらいだ。
普段来ない階なので、以前買っておいた地図を、クロウに復習させておいた。私は一度で覚えられる。
ランタンの魔女になって得したことの最たるものはこれだ。記憶力。
私の記憶力は誰よりもいい。
「そろそろ視界が開けるよ」
私が言うと、みんなが足を止めた。木の見える範囲に入るのならば、血濡れた状態にあってはならない。
私はワラン商会で〈浄化〉の呪符をもらってきたがどうするのだろう。トゥジュやサファレと戦って、みんな大なり小なり血で汚れている。
「ハリル、皆に」
スルシュが言うと、ハリルが鞄から呪符を取り出す。
渡された冒険者が口笛を吹いた。
「使うのがもったいないな」
「使わないのなら返してくれ。私がきちんと木の見える場所まで辿り着いたと証明する者たちが必要なんだ」
スルシュの言葉に呪符をケチろうとした男はへへへと笑った。
そうだ。お前らこそこの札が必要だろうと言ってやりたい。ちょうどいい。全身綺麗になったらいいのだ。
私は今回剣を抜いていないが、鞘から出して呪符を使った。〈浄化〉特有の清浄な空気が一瞬私の全身を通り抜ける。
血で汚れていた衣服もさっぱりした。高いだけあって効果は抜群だ。
「終わったら行こう」
レンティが先頭で進む。
先ほど〈探知〉を使って知っていたが、騎士団がそろっていた。前の階のトゥジュが倒されたばかりだったのもそのせいだ。
総勢三十人ほどだろうか。そしてその周りに山ほどの冒険者たち。相乗りしてきた者たちだ。
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