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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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16/39

16.襲撃の理由

「この間は迷惑をかけたが、二人がいてくれてとても心強かった。クロツルバミの迷宮は初めてで、一緒に潜ってくれれば心強いと思ったんだ」


 貴族の子息が箔をつけるために迷宮に潜るという話は聞いたことがあった。

 冒険者の間で迷惑だと散々言われている。徒党を組んで大人数でゴリ押すのだ。彼らが通る間は狩りも何もなくなると。


「申し訳ございませんが、大人数で潜る迷宮攻略に、我々の戦法は合いません」

 再びクロウはきっぱりと言い切った。


 すると、後ろで黙っていたハリルが口を開く。


「お二人にお願いしたのはまた別の理由もあるのです」

 そう言って私をチラリと見た。

 やっぱりか。


「何かあった場合でもカナンさんの〈治癒〉があれば――」

「悪いが〈治癒〉をその場で描くようなことはできない。アレは複雑で、描くのに鐘一つ必要だ。迷宮で〈治癒〉が必要なほど血を垂れ流していて、鐘一つ分生きていられるはずがない」

 魔物は血のにおいに敏感だ。傷を負った獲物は格好の餌食だった。


「〈治癒〉は無理でも、〈治療〉なら」

 〈治癒〉より格段に下がる、一時的に傷を塞ぐだけの呪符(トゥル)だ。もちろん描ける。確かに〈治療〉ならばそれほど時間はかからないだろう。

 だが手間がかからないなら、それだけ安く手に入るのだ。

 私たちを連れて行きたがる理由がそれだけなら断る。


「残念だけど、今、墨がない。できあがりは早くて二日後。でも騎士団の後をついて行って、楽に降りたいのなら、それこそ今から行きたいくらいだろう? むしろ遅いくらいだ。俺の墨は間に合わない。それに、俺を呪符目当てで誘っているなら、俺たちの依頼分を使って治療院で山ほど〈治癒〉と〈治療〉の呪符を買って行けばいい。治療院は喜んで描くだろうさ」


「クロウはもう銀級(ギュシュ)に上がっても問題ないくらいだろう? 今回の依頼を達成したら、階級を上げることもできるぞ?」

「お気持ちだけいただきます。あと数ヶ月、今のペースで依頼をこなしていけば、焦らずとも銀級(ギュシュ)に上がることもできますので」

 実力は十分だ。依頼数をこなせば自動的に上がる。上げてやるから依頼を受けろと言われも、それで何かある方が怖い。


 なにより、きな臭い。

 いつもなら魔物に一度会う程度の道で、あれだけ人に襲われたのだ。盗賊を装ってはいたが、本当にそうだと思えるほど私たちは甘くない。


 つまるところ、襲われたとき身を挺して助けに入った私やクロウが、命を狙っている側の人間ではないことが明らかだから、迷宮にもついてきてもらいたいということなのだ。


 回数を重ねたいなら、騎士団を使ってはいけないと言いつつも、すぐ後を一緒に行けばいい。向かう方向が同じだっただけなんだと。

 なぜそれをしなかったか。

 想像の域だが、騎士団が入ることを告げられていなかったか、跡継ぎとなるための試練を知らされたのがその後だったか。


 どちらにせよ妨害が入っている。


 そんな死地に向かうような集団に加わりたくないのだ。


「私たちではお役に立てないようです」

 クロウの言葉にスルシュとハリルは下を向いていた。その姿に少しだけ胸が痛む。

 ギルド長は首を振り、扉へ手を向けた。出ていっていいということだろう。


「失礼します」

 本当に、これは大変まずいと思う。


 部屋を出て、私とクロウは無言のままギルドを出た。そこにいたのはワラン商会のローレンだ。


「その様子では交渉は決裂したのでしょうかね」

 眉尻を下げた彼は、私とクロウを彼の店へと誘った。




「スルシュ様は第二夫人の長男でいらっしゃいます。第二夫人は平民の出で、少しお立場が弱く、スルシュ様も遊学ということでかなり幼いうちに他領に出ていらっしゃいました。それが……正妻でいらっしゃるクロツルバミ伯爵夫人の唯一の嫡男様が三ヶ月前に身罷られまして、慌てて呼び戻されたのです」

 伯爵邸に出入りしていたローレンに、シウォールまで迎えに行ってほしいと、領主直々にお願いされたそうだ。


 それが先日の護衛依頼だったという。


「お二人には随分とご迷惑をおかけしてしまいました」

 苦笑いをするローレンに笑顔を返すことはできなかった。とんだ巻き込まれだ。


 だが、納得する部分もあった。

 ロンが酒場で言っていたことだ。

 最近、クロツルバミ伯爵の様子がおかしいというあれだ。さらにはリアナの話。たくさんの衣装屋が出入りしていたのはスルシュのためだったのだろう。


「実は幼い頃のスルシュ様には何度かお会いしたことがございまして……とても利発な方でしたが、正妻様が気にしていらっしゃって、どうにもお屋敷に残ることが難しかったのですよ。それが今回こうやって機会が巡ってきて、私も内心よかったと思っていたのですが。……どうか、一緒についていってはもらえないでしょうか? スルシュ様は、カナン君にとても感謝してらっしゃいました。感謝して、大変申し訳なかったと、気落ちしてらっしゃいました。いったいどこに裏切り者が潜んでいるか不安な中、安心できる相手がそばにいるだけで気が休まると思いますので」


 嫌だなと思っていたのだ。これはダメだとも。


「もちろん、無理にとは言いません。お二人が何より安全を第一に狩りをしていることは重々承知です。事前準備をする方々だということも。このような急な――」

「わかった」

「でしょうね。断られて当然……え? ええと」


「わかったよ。今回だけ。もうこれ以上は関わらないでほしい」

 私の言葉にローレンは目を丸くする。


「よろしいのですか?」

「頼んできたのはそっちだろ? 何を驚くんだよ」

「いえ……正直断られて当然だと思っていたので」

「なら引き留めないでくれよ」

 なんなんだ。いったい。


「クロウさんもよろしいですか?」

「カナンが決めたならいい」

 二人の同意に一瞬戸惑っていたローレンだが、にこりと笑って後へ振り返る。


「フルム、スルシュ様にお伝えしてくれ」

「わかった。たぶんすぐにでも出発するぞ?」

「何の準備もできてない」

 さすがに墨がないと困るのだが。


「うちの商会の商品でしたら何でも持っていってください」

「それ、後悔しないでね」

「ええ、あとであちらへ請求しますので」

 ならばと遠慮なくやることにした。

 フルムへは、〈治癒〉と〈治療〉の呪符をしっかり買い込むことが条件だと言ってもらった。もちろん私たちへの支給をしてくれと。墨は間に合わない。フルムの言うとおり潜るならすぐにでもいかねば。騎士団の後追いをするのが大切なのだ。


 氾濫(タシュク)を防ぐための騎士団なので狩りをしながらゆっくりだとは思うが、それでも大急ぎで先へ向かう。二十層なら一日あれば進めると思うのだ。十三層へは半日。十五あたりに厄介なのが多いが、それを騎士団が始末していてくれるならラッキーだ。


 ローレンの商会は手広く色々なものを扱っている。


「あ、〈浄化〉の呪符もらう」

 もしクロツルバミの木の側で休みをとらねばなくなったときに必要だ。


「カナン君は容赦がないですね」

 今回使わなくても、これは本当に高いので助かる。これを描くための紙と墨が本当に高い。ついでに高いローブももらっておいた。クロウに止められたがこれくらいしてもバチは当たらない。


 そんなことをしていたらフルムが帰ってきて、本当に今から潜るという話になった。

 罠をいくつかもらい、身支度を調える。


「ごめんねクロウ」

「いや、かまわない。カナンの行きたいところへ行くだけさ」

 アイスブルーの瞳は、いつも穏やかだった。

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