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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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14/20

14.ロンの言付け

 準備してくれた食事を摂っていると、入り口にロンの姿が見えた。私と目が合うと手をあげながら入ってくる。

「美味そうなもん喰ってるな」

「トールのご飯は美味しいんだ」

 マーニャも作るが、トールが作る方が断然多い。今日の肉の煮込みはビーフシチューのようになっており、肉がフォークで簡単に崩れるほど柔らかく、絶品だった。


「食べてくかい?」

「いや、残念だが時間がなくてな。クロウはいるか?」

 マーニャにそう断ると、私へ尋ねた。


「今は出てる」

 そうか、と言って少しの間、考え込む。


「指名依頼が入った。たまたまギルドに居合わせたから言付けを請け負ったんだが……」


 私の目を見て言う。その様子が少し不自然で警戒度が上がった。指名依頼に何をそこまで考えることがあるというのだ。


「一緒に部屋でクロウが帰ってくるのを待つ?」

 クロウが知ったら怒りそうだが、私は彼を部屋へ誘った。今までやりとりしていてロンは信用がおけると思っているし、不安な部分は早めに解消したい。


 しかし彼は首を振る。


「いや、……悪いが夕方、日が暮れる五の鐘に迷宮の冒険者ギルドへ来てくれるか? 説明があるそうだ」

「この間言ってた、氾濫(タシュク)の討伐依頼の件? みんな朝から入ってるみたいだけど、入りが少ない?」

「別件だな。悪いがまだ行くところがあってな。しっかり準備をしておくようクロウに伝えてくれ」

 普段のロンとは違ってどこか煮え切らない物言いに不安は増す。


 墨屋へ呼びに行くか悩んだが、やめておいた。

 墨作りの途中で邪魔をして、私の墨が台無しになったら元も子もない。ロンはしっかり準備をしておくようにと言っていた。

 それはつまり、戦闘準備を整えろということだ。


 食事を終えて部屋に戻るともう呪符(トゥル)を描くような気分ではなかった。もやもやと不安を抱えながらベッドに転がる。散々悩んだところで、ヒジキを呼びだした。


『どうした?』

『万が一に備えて、ストックを増やしておく。いい?』

『もちろん!』


 隣の部屋に人が入っているので、一応気をつけて頭の中で話し合う。これをやると、ヒジキに微妙な感情の揺れを悟られるのであまりやりたくないが、ヒジキの存在を知られるよりはマシだろう。


『何にしようかなあ』

 頭の中にスーパーやコンビニ菓子を思い浮かべる。ヒジキの望みは美味しいお菓子だ。本当は系統立てて順番にストックしていきたいのだが、ヒジキは色々な菓子を知りたいとねだるのだ。基本的にランタンは魔女の味方だった。やたらと記憶を使わせ燃やすよう促すが、彼の助言はそう間違ってはいない。


『決めた。今回は飴にするね』

『飴? あれだよな、砂糖の塊の。それは別にこの世界にもある』

 私の世界の菓子のような、唯一の記憶でない場合は、ランタンは記憶を失わないそうだ。かなりがっかりしていて笑ってしまう。


『飴というよりはキャラメルなんだけど、ソフ〇エクレアっていう周りが柔らかい飴、キャラメルで、中にチョコとバニラとコーヒーのクリームが入っているの。三つのうちどれがいい?』

 絶対に三つ一気に渡さない。


『バニラ? チョコ! コーヒー!!』

 ヒジキはベッドの上でぱたぱたと尻尾をせわしなく動かして悩んでいる。


『……コーヒーにする』

 

 前に食べたコーヒー味のチョコレートを思い出したのだろう。このちょっとした苦みがいいとかなり気に入っていた。


「それじゃあ、ソフ〇エクレアのコーヒー味の記憶を差し出し、ストックする」


 私が左手でヒジキを撫でながらそう宣言すると、手袋の下の花の痣がちりっとうずいた。


『あああ……カナン、カナン、もっと食べたい……』

『贅沢だよ。しばらくはこれで楽しめるでしょう?』

『たくさん魔法が使える。すごく、すごく。風呂ならいくらでも!!』

『お風呂よりもまた呪符を作るかも。昔作られた呪符の再現』

『今ならなんでもできそうだ』

 うっとり目を細めてヒジキはベッドの上で丸まった。この世界にも菓子はあるが、日本の企業努力にヒジキは完全にノックアウトされていた。


 呪符は失われてしまったものも多い。反対に新しくできたものもたくさんあった。知っている人がすべていなくなっていなければ、例え魔女の記憶を燃やしていても、ランタンはその記憶を持っているのだ。

 何人、何十人もの魔女とともに生きているランタンは、いわば記憶の貯蔵庫だった。何代か前にまじない師の魔女がいたらしく、その彼女の知識はとても素晴らしいものだった。燃やしはしたが、一人でも見たことのある人間が生きているうちはランタンはその知識を使うことができる。


 私はランタンの力を使って、本来ならまじない師の中でも魔導具作りの専門家が作る、〈拡張〉のまじないを使った拡張鞄を作った。それが今使っている茶色の鞄だ。他にも切れ味がよい、〈鋭利〉を刻み込んだナイフもだ。

 熟練のまじない師が何年もかけて作るようなものを、ご機嫌なヒジキをそそのかして作っている。冒険者として移動するにはどうしても必要だったのだ。


 記憶は有限だ。いくら私の記憶が希少価値が高く、とても強い魔力となる記憶だとしても、なるべく使わずに過ごす。ただ、そうやって快適に過ごすための初期投資をケチる気はなかった。


 風呂にも使う。

 そして、もしもの時はストックして置いた記憶を使い、痕跡を消して逃げ出すのだ。私が魔女だと知られないために。


 日が暮れるまでにはまだ時間がある。しっかり準備をしておけとの台詞は、私に言っていた。まじない師こそ、準備の必要な職だ。


 〈防護〉と〈反射〉をもっと増やしておこう。〈治癒〉は墨ができあがってからだ。クロウも〈身体強化〉の呪符を持って戦うことはできるが、呪符は握りしめて、手のひらを接触させて魔力を通していなければならない。どうしても片手が潰れるのだ。どちらかと言えば険しい道を行くときなどに使われる。


 攻撃用の呪符もいくつか準備した。三十層を目指すなら、途中に必要になるものもある。

 

 ロンはいったい何を言いたかったのか。不穏で、不安だ。いざとなれば移動するか? いや……やっと安定して生活できるようになってきた。安全な世界で育ってきた私は、いつ魔物に襲われるかわからない生活に向いているとは言えない。旅がらすは辛い。


 今の少し安定してきた生活を手放したくはなかった。それに、落ち着かないとできないことも多い。少し落ち着いて、落ち着いたらさらに落ち着けるよう動いて……。そんな風にすることを望んでいた。

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