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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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13/16

13.魔女を有するということ

 記憶を燃やしたクロウは、周囲の人のことも忘れていた。知っていた人を覚え直すのはほぼ無理だ。クロウにとって、この街の人々は全部同じ人間にしかみえないのだ。彼らの名前を失っている。名は記憶、記憶は力だ。


 クロウは私の名すら覚えておらず、最初にしたのはお互いの新しい名を決めることだった。私はカナと名乗り、クロウには魔術師のクロウリーからとってクロウと名付けた。それでクロウは私のことを認識するようになった。

 たぶん、ミーアとはもう違うものだったこともあったろう。すんなりと新しいカナを受け入れた。名をつけたら私の顔を覚えてくれた。


 街の人に全員改名できるかと聞いたが、無理だと言われた。まあ、当たり前だ。ここでできると言われても困る。私の目的はこの街を出ることになっていたのだ。


 クロウが薬師として働いていたように、私も手に職をつけたいと思った。魔女として全部を与えられ生きる気はなかった。なぜか残ったミーアの記憶を色々と探り、興味を持ったのがまじない師だ。


 すべての段取りを整えていた。ランタンを使ってこっそり隣街の有力者の元へ行き、街を移りたい。その際クロウも連れていく。家を用意し、私にまじないを、クロウに剣の技術を教えられるかと。


 魔女を街で囲えるならと有力者は秘密裏にしっかり準備してくれた。

 本当に、人は現役の魔女に甘い。


 そして、街で行われた収穫祭の日、私は隣街からやってきた人々に囲まれた状態で宣言した。


 この街を出る、と。


 街の人々は狼狽え、怒り出す。私に怒るわけにはいかない。怒りはクロウに向かう。

 私は笑ってなだめた。

 もちろん、この街で何かあれば駆けつける。馬車で三日の距離。ランタンなら一瞬で来られるのだからと。

 クロウはこの街を救った。あなたたちが与えてきたと主張する恩は十分に返した。


 年で一番盛り上がる収穫祭の日、魔女を失った街と、魔女を得た街が生まれた。




「まあ、その新しい街も捨ててきたわけだけど」

『見事に、な』

「人を信じちゃいけないのよ、ヒジキ。覚えておいて」

 クロウにした仕打ちを私は忘れない。やがては自分がされることなのだ。


 呪符(トゥル)を描きながらヒジキ相手に独り言を続ける。


 とにかく、クロウが一人で生活できるようにしなければならない。それが私の一つ目の目標。クロウはミーアを育てていた老夫婦が旅先で亡くなった時に、ミーアを引き取ってくれたのだ。その前からなぜかミーアはクロウの仕事を気に入りよく出入りをしていた。そしてある日いきなり老夫婦はクロウにミーアを預けて街を出かけ、その道中事故で亡くなった。そのあたりの事情は幼いミーアはよくわかっていなかった。ミーアがわからず、知っていたであろうクロウの記憶もないとなれば、私に知る術はない。


 それでもミーアにはクロウに返さねばならない恩がある。

 すでにいない存在だが、私が代わりに彼の面倒を見てもバチは当たらないだろう。


 彼が安定した老後を手に入れ、静かに暮らせるようになるまでは付き添うつもりだ。もとからなのかそれとも記憶を失ってからなのか、クロウはどうにもお人好しだ。もちろん仕事で人の言動や行動に不審を抱くことはあるようだ。それでも、甘い。一人にしておいたら大金を騙し取られそうな不安しかない。


 先日の治癒の呪符もそうだ。

 治癒呪符を持っていることなど言わなくてよかったのだ。今日は切らしている、それでも許されたはずなのに、クロウは痛みに苦しむスルシュを、そのまま置いていかれることを、可哀想だと思ってしまった。


 そんな優しさが彼のいいところではある。たぶん、そんな優しさでミーアはクロウの元で育てられたのだ。


『風呂はいつできるんだ?』

「そうだね……どうせこの数日は迷宮に潜れないし、時間ができそうだからそっちに着手するのもありかな」

『楽しみ。毎日入る?』

「毎日は無理だろう、さすがに。それでも迷宮から出てきた日は入れるようになりたいね」

 汗と埃と血でどろどろの状態をきれいにできるようにしたい。


 そうやってずっと話しながら手だけが機械的に動いていく。虫除けの呪符はいやというほど描いたので手が覚えていた。

 それでも二十枚描いたところで休憩だ。


「珈琲とアルフォートが食べたい」

『カナンが言うアル〇ォート、俺も食べたい。なあ、記憶を共有ストックしようよ。そうしたら俺も味わえる』

「ええっ、この間『きの〇の山宇治抹茶味』を共有したでしょう? あれでかなりの魔法が使えるって言ってたじゃん。『き〇この山宇治抹茶味』を味わいなよ」


 ランタンの魔法は記憶を共有し、それを燃やす。

 ランタンの使い魔であるヒジキは最初にそのシステムを教えてくれた。

 色々と聞いた上で、私が不安に思ったのは、もしもの時に咄嗟に燃やす記憶だ。切羽詰まって追い詰められて、咄嗟に燃やした記憶がとても大切なものだったら。


 すると、ランタンは記憶を共有し、ストックしておくことができると教えてくれた。私は喜んで、この身体に宿る前の記憶から一つずつランタンと共有することにしたのだ。


 周囲が知らない、記憶、知識は大変レアで強い燃料となる。

 つまり、この世界以外の記憶を持つ私は無敵の魔女となったのだ。


 同時に、ランタンの使い魔であるヒジキも異世界の記憶を知った。そして彼は、異世界の菓子の虜となっている。思い出し味わいをして、うっとりし、他のものも味わいたいと、私の腕に爪を立てる。


「ヒジキ、痛い。まだこの間の『き〇この山宇治抹茶味』を燃料にしていないでしょう? あれだけで家を三十軒建てられるって言っていたじゃない」

 なるべくシリーズものはノーマルの定番タイプでなく、派生の味を添えるようにしている。『き〇この山』そのものを差し出すのはずっと先になるだろう。


『だって、もう百回は味わってる。そろそろ味変が欲しい』

「わがままなランタンの使い魔だこと。お風呂関係ではランタンを使うと思うから、楽しみにしていて」

『本当に!? わかった。我慢する』


 にゃあんとヒジキが小さく鳴いて煙のように消える。


 人が部屋に近づいたのだ。菓子を燃やした後、文房具を燃やしたらとても残念がられた。お願いだから菓子がいいと。そのときに交渉して、こういった宿屋など不特定多数の人がいる場所で、人が近づいてきたら教えるという約束をした。それには魔力は使わないらしい。


 程なくして私たちの部屋の扉がノックされる。


「カナン? いるかい? 昼食はどうする?」

 マーニャだ。

 昨日の夜たらふく肉を食い、朝も満足したはずなのに言われてみると腹が減っている。


「食べる! 下に行く!」

「わかった。準備しておくよ」


 宿は金を払えば食事がつく。それでも作る時間とそれを提供する時間はだいたい決まっていた。トールに私が帰ってきていると聞いて、気を遣ってくれたのだろう。


 机の上を片付けると階段を駆け下りた。

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