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忘却の雨編 8 影響

ブルームーンの中にあるラウンジには大きな水槽が置かれていて、その中を悠々と綺麗な魚達が泳いでいる。

落ち着いた雰囲気で心地よいバックグラウンドミュージックが流れ、飲食も出来る多目的スペースだ。

「ごめんなさいねぇ」

料理の配膳を手伝いながらルナが申し訳なさそうに声を掛けて来た。

「全然、むしろ急に連れて来たのは私だし」

いつもは人けのないラウンジが満席になる程アドラー達がいて、とても忙しそうだ。

「とりあえず、今日だけ私の部屋にレミーとイーライ、レオの部屋にレインとバルトが入れるように手続きしておいてくれる?」

「えぇ、直ぐに」

そう言って厨房の方に戻って行くルナを見送る六人。

「まさか、満室なんて」

「ルナの話だとギルド本部の宿泊施設は一時利用停止だって知らせが来てたらしいけど、そんな時に限って大型探索が始まるなんてタイミング悪いよね」

「ルーク様の事だからアッシュ様に話を通さず進めてるんでしょうね」

アーシャとレオは呆れた様子だ。

「ルークって英雄のか?」

「そうよ、普段は王都で活動されているからギルド本部にはほとんど顔を出さないの」

「ルーク様のパーティといえば数百人規模ですよね?」

「つまり此処に居るのはそのほんの一部って事か…」

「ダンジョンに行くのは、明日またギルドに戻ってからね」


リリエンタールの英雄率いるパーティが未クリアのダンジョンに対して数百人規模で挑む大型探索は、効率重視の短期クリアを目的としたもので一つのダンジョンを占領する形式だ。クリアまではダンジョン内で宿泊する事もある、又 報酬金目当てで参加するアドラーを募集している事も珍しく無い。



§§§§§



湿気を帯びた薄暗い空間、天井は低く蔦が垂れ下がり行く手を阻んでいた。

ナイフで蔦を切り裂きながら進むが、進むにつれ足元が泥濘み不快さが一層増して行く。

「ねぇ、バルトォ〜待ってってばぁ」

レミーは今にも泣き出しそうな声で助けを求めた。

「大丈夫?ほら捕まって」

後ろからレミーを支えながらレオが優しく声を掛ける。

「ねぇ、あの二人が言った通り他の人たちと待ってれば良かったんじゃないの?」

「お前らは引き返せ、俺は二人を探すから」

バルトはイーライの言葉に少し苛々している。

「探すって、何処に行ったかも分かんないのにさぁ」

「とにかく別行動はまずいから、ここを抜けたら一旦休憩しよう」

泥濘みを抜けて、やっと開けた場所に出た。

辺りに魔物の気配は無い。四人は適当な場所に座って一息つく。レオの隣にピッタリとレミーがくっ付いているのを見てイーライが揶揄う様に話し掛けた。

「レミーってば大胆なんだから」

「えっ?違うよ、私はアーシャさんに言われた通りにしてるだけだもんっ」

「レミーはちゃんと言う事聞いてて偉い偉い、それに引き換え誰かさんはバカみたいに突っ走っちゃってさぁ」

イーライの言葉には全く反応せず周りをキョロキョロ見渡すバルト。立ち上がると石壁を手で触り何かを探し始めた。

「バルト、あんまり不用意に触らない方がいい」

レオに注意されるとムッとした顔で言い返す。

「俺らは足手まといだって言われたんですよ…腹立たないんですか?」

「足手まといなんて言ってない、様子を見て来るから待ってろって言ったんだよ」

「同じ事です…」

「アーシャの身体強化魔法は精霊召喚した精霊の魔力によるものだから俺らじゃ付いて行くのは無理だよ、レインは上級魔法を使えるぐらいの規格外だし…運良くあの二人に追いついたとしても本当に足手まといになるだけだと思うよ」

「あぁ〜、気が滅入って来たぁ」

「お姉ちゃん、あんまり大きな声出さない方がいいよっ」

「だって私たち孤立状態じゃない?どうすんのバルト」

気が立っているバルトは無視して歩き出す。

三人は呆れた様子で後に続く、しばらく進むと目の前に現れたのはボス部屋だった。

明らかに異質な雰囲気が漂う扉は開け放された状態で、中にはアラクネの幼生が何匹も蠢いていた。

「まさか、此処って…」

イーライの声に緊張が滲む。

「レオナルドさん…もしかしてボス部屋ですか?」

レミーは震えながら確認する。

「そうだよ…」

「まさかっ中に…」

バルトがボス部屋の中に向かって走り出す。

「待って!バルトっ」

部屋に足を踏み入れた途端、バルトに気付いた幼生達は一斉に群がり体に張り付くと小さな牙で服を引き裂いて吸血を始める。

慌てて幼生を払おうとするが、数が多すぎて足を取られてしまう。

「くそっ、こいつら」

地面に倒れ込んだバルトを助けようとイーライが弓を構えて矢を放つ。見事に幼生に命中するがバルトと幼生が密着しているので、両手を構えたままバーストを使う事を躊躇ってしまう。

「レミー、あのちっこいのバルトから引き剥がして!」

「う、うんっ」

レミーは杖を構えると魔法陣を展開しフロウを使って幼生を宙に浮かせると、すかさずイーライがバーストで幼生を爆散させた。

「バルト!ボス部屋から出て来てっ」

立ち上がり三人の元に戻ろうとした時だった。バルトの足首に何処からか勢いよく伸びて来た蜘蛛の糸が絡まる。糸はバルトを宙高く吊し上げた。

「まずいっ!」

レオはレミーとイーライにその場を動くなと伝えてボス部屋に飛び込む。上を見上げるとボス部屋の中は蜘蛛の巣が張り巡らされていて、そこかしこにアラクネの幼生が群がっている。

バルトはすでに口元まで糸でグルグル巻きにされており身動きが取れない。

「エアスラッシュッ」

無数の鋭い風の刃が巣を切り刻むと切れた糸がはらはらと舞って散って行く。


「凄い…あんな数どうやって」

レミーは目の前で起こった現象に圧倒されて呟いた。


蓑虫状態で落ちて来るバルトを抱き抱えるレオ。

巣が破壊されると同時に幼生達も地面に落下し、突然の事態に困惑の鳴き声を上げている。

イーライは居ても立っても居られずレオの元に駆け出しボス部屋の中に足を踏み入れてしまう。

「お姉ちゃんっ!」

「戻れっ!」

レオが叫んだ時には既に幼生達はイーライ目掛けて飛び掛かる瞬間だった。

あっという間にイーライは幼生達に覆い尽くされる。

「い、いや゛ぁぁぁぁ」

くぐもった悲鳴が響いた。

レオはバルトを床に転がすとイーライの元に駆け寄り必死に手で幼生を引き剥がしにかかった。

(どうすればいいっ、この状態で魔法を使えばイーライを傷付ける…フロウで浮かそうにも対象が多すぎて一気には無理だし、こっちに時間を掛ければバルトが…レミーはボス部屋の外だからって安全とは限らないっ…)

焦りで思考がまとまらず動きが鈍ってしまう。

バルトにも幼生達が群がり始め、ボス部屋の外からはレミーの悲鳴が聞こえて来る。

(待って…これ無理だ…こんなの俺じゃ…)

レオにも幼生達が群がり小さな牙が襲いかかった時、一筋の稲妻が走った。

直後に頭上から大きな黒い影が真っ逆様に落ちて来る。

ズドォ〜ンッという大きな音と振動でボス部屋が微かに揺れた。そこに転がっていたのはアラクネの巨体だ。四肢がもげて体の中心に穴が開き明らかに絶命している。

「いったたたたた」

アラクネの巨体の上から姿を現したアーシャが腰を摩りながら降りてきた。

「あれ、レオッ」

すかさず周りを確認するアーシャ。

「レインッ」

レインを呼ぶとボス部屋を出てレミーの元に駆け出す。腰に備え付けてあるミスリルチェーンを手に取るとレミーに群がる蝙蝠に向かって打ち付けた。

レインは真上から飛び降りて来るとストンと着地し、バルトに群がる幼生を握り潰し巻き付いている糸を尖らせた爪で引き裂いた。

「待ってろって言っただろ」

「…」

申し訳なさそうに座って俯いたままのバルトを引きずりレオの元に連れて行く。

「レオナルド、監督不足だぞ」

そう言うとレオに噛み付いている幼生の一匹に爪を立てる。ピリッと小さな雷が流れると、次々と他の幼生に伝染して行き全ての幼生がパタパタと地面に落ちて動かなくなった。

幼生の山が崩れ落ち、イーライの姿が見えるとバルトは息を呑む。

大量に血を吸われたせいで、顔は血の気が引いて真っ青になっており体中に咬み傷が付いた痛々しい姿だった。

「お姉ちゃんっ!」

レミーがイーライにしがみつく。

「ヒール」

アーシャが回復魔法を掛けると、イーライは意識を取り戻して上体を起こすとぼんやりと目をぱちぱちさせている。

「…あ、あれ私」

「お姉ちゃんっ、良かった」

レミーはイーライを強く抱き締める。レインは自分のローブをイーライにそっと掛けて頭をポンポンと軽く撫でた。

「ごめん、アーシャ…俺のせいで」

「レオ…」

「すみません…俺のせいです、俺が勝手な行動したから」

「そんな事ないよバルト、置いていった私の判断ミスだから」

「おい、アーシャ」

レインに呼ばれ確認するとそこには階下へと繋がる扉が出現していた。

「一旦引き返してルーク様に報告ね」

六人はボス部屋を出て来た道を戻る事にした。


一つ上のボス部屋ではルーク達が休憩をとっていた。

フロアの魔物を狩り尽くし、数百人が各々でくつろいでいる。


「ルーク様」

「おっ?アーシャどうしたんだ?」

「今下の階でフロアボスを倒したんですが、更に下に続く扉が現れたので報告をと思い戻って来ました」

「ハハハッ、下見に行かせたつもりだったが大したものだ!君を前衛アタッカーにして大正解って訳か」

ルークは立ち上がって周りのアドラー達に何やら指示を出し始めた。

「15階層のフロアボスは討伐された、準備の出来ている者は16階層に向かってくれ」

指示に従って百人程度がぞろぞろと階下へ向かって動き出した。

「アーシャ、君達は此処で体を休めておけ」

そう言うと自身も階下へと下って行くルーク。

六人は空いた場所に腰を下ろすと、レオが鞄から取り出した携帯食料を食べながら一息つく。

「今更だが、16階層が最深部だった場合 崩落が始まったら此処に居るやつらも16階層まで下るのか?」

レインがアーシャに尋ねる。

「転移魔法陣は各フロアのボス部屋の入り口に出現するからわざわざ下りなくても大丈夫よ、むしろ闇雲に動き回る方が危険だし」

「俺たちはこのまま此処でルーク様がダンジョンクリアしてくれるのを待ってた方がいいんじゃないかな」

レオが提案すると、レミーがうんうんと頷く。


ルークのパーティが行う大型探索は百人程度が交互にフロアを探索する攻略法を実践している。個々のレベルの平均が5〜6と少し低いが圧倒的な数の攻めは魔物達に成す術を与え無い。

前日ブルームーンで一夜を過ごしたアーシャ達がギルドに顔を出すと掲示板に大型探索人員募集が貼り出されており、渡りに船とばかりに参加した訳だが、あまりの人数の多さと効率の良さでバルト達に経験させる余地も無いまま一気に下ってしまい、14階層までは大人数に囲まれて只歩いては休憩するだけの行列の一部となってしまっていた。

そんな状態に痺れを切らしたレインが一人で探索したいと言い出し、アーシャがルークの許可を得て二人で未探索の15階層に行ったのだった。



「あ、あの…アーシャ…さん、さっきはありがとう」

イーライがぎこちなくお礼を言うと、アーシャは微笑みながら返す。

「良い機会だから言っておくけど、私たちをさん付けで呼ばなくていいし敬語も要らないから、バルトとレミーも」

「分かりまし…あっ」

レミーが頬を赤らめる。

「無理に変える必要も無いんだけど、徐々に慣れてくれればいいから」

「じゃあ遠慮なく…私、気になってたんだけど、どうしてアーシャは今回ヒーラーじゃなくてアタッカーなの?」

「元々アタッカー志望だし、今回ヒーラーの人数は十分足りてるから」

「でも、蘇生魔法を使えるのはアーシャだけよね?」

「この攻略法なら蘇生魔法を使う事はまずないと思う」

「確かに皆かなりいい装備だし、連携も取れてそうだな」

レインは他のアドラーを観察しながら呟く。

「流石、英雄の率いるパーティは違うわよねぇ」

「ルーク様じゃなきゃ、この人数に報酬金なんてとてもじゃないけど払えない」

「それを言うならレグルスも稼いでたはずなのに何であんな質素な暮らしをしているんだ?」

「レグルスは英雄として活躍していた期間の報酬のほとんどを孤児院に寄付してるから」

「私達が使ってる装備はだいたいレグルス様が寄付して下さった物なんです」

そう言ってレミーは杖を撫でる。

その杖はレミーの背と同じ長さで捻れた木の先端に丸い魔石の乗った立派な代物だ。

「イーライの弓もそうなのか?」

「えぇ、レミーの杖もだけどこの弓も相当高価な物で見た目より軽くて扱いやすいの、矢は加工してて先端に火属性の魔法を付与してある魔石が付いてるわ」

イーライの弓もレミーの杖同様に捻れた木を加工した物で矢筒と共に美しい風切羽の飾りがあしらわれている。

四人の話に加わる事なく、俯き落ち込んでいるバルトとレオ。その様子を気にしてかイーライはバルトを慰める。

「さっきのは何も考えずに突っ走った私の責任だから」

「悪かった…」

「だからぁ、バルトは悪くないんだってば」

レミーもレオに優しく声を掛ける。

「さっきはありがとうございます、レオナルドさんが居なかったら…」

「…俺は全然役に立ってないよ」

思い詰めた顔のレオの手をそっと握るレミー。

「そんな事ないです、凄く頼りになってます」

握られた手を見つめながら、とても言いづらそうにレオが切り出す。

「ごめん…レミー、俺…肌に直接触れられるのが苦手で…」

慌てて手を離すと謝るレミー、更にレオが謝る。

「嫌な気分にさせてたらごめん」

その様子を見ていたレインとバルトとイーライの三人は同じ事を思っていた。

(アーシャには自分から抱きついてたのに…)



§§§§§



本部の受付では受付嬢達が慌ただしく書類整理に追われていた。急な大型探索で普段の倍以上のアドラーの情報処理、パーティ構成の内容確認、更にはダンジョンの詳細が随時ルークの使い魔によって届けられるのでその都度処理に手間が掛かる。

フォルトゥナの不在の影響が大きい中、アッシュまで王都に留まっていてギルド内はレグルスなしでは立ち行かない状況だった。

「おーい、帰ったぞぉ」

ドスンと右手を受付台に乗せたのはジェイドだ。

「ご苦労さん」

ピルズベリーが対応すると不満のある顔で帰って行った。次に顔を見せたグレンとパーティのメンバー達もアドラーリングの認証を済ませて行く。

「ルーク様は大型探索に出たままなのか?」

「そうだの、何か用か?」

「アーシャが参加していると聞いているから気になっただけだ」

「アーシャにはレオが付いておるから何も心配は要らん」

グレンとピルズベリーが話していると、レグルスがやって来た。

「元気にしておったか?グレン」

「あぁ…」

素っ気無く返事をしてその場を後にするグレンを見送りながらレグルスはガシガシと頭を掻いた。

「相変わらず愛想が無い奴だ」

「お前さんに思うところがあるのかもしれんの、それでレグルス最近のレオの様子はどうだの?」

「……レインが来てから少し不安定な気もするが」

「因果なもんだの…」

ピルズベリーは髭をなぞりながら目を閉じる。

「それにしてもレインは彼女に生き写しで驚いたの」

「ワシもだ、顔には出してないつもりだったがレインには見抜かれておった…」

「フォルトゥナ様の件と無関係とは言えんだろうが、今はまだ見守る以外無さそうだのぅ」



§§§§§



本部内の酒場ではいつもの顔ぶれは少なく、ダンジョンから一時的に戻って来たルーク達が英気を養うため盛大に酒盛りをしていた。厨房では休む間もなく調理が行われ、酒が次々に運び出され大忙しだ。



「いやぁ、ルーク様 今回の探索は順調ですね」

「あぁそうだな、お前たちのおかげだよ」

「今回は実力のあるアドラーが揃ってるからあっという間にダンジョンクリアしちゃうかもねぇ」

「そういや、あの赤い髪の子はルーク様の知り合いなんですか?」

「アーシャか?彼女はレグルスに引き取られて一緒に暮らしてた、小さい頃から知ってる 良い子だよ」

「何でも蘇生魔法を使えるって噂ですが本当なんですか?」

「あぁ、俺も一度掛けてもらった事がある」

「だったらヒーラーとして最適じゃない」

「いや、アーシャにヒーラーをさせるつもりはない」

「どうしてですか?」

「彼女は蘇生魔法を使う度に、一緒にいるレオナルドから魔力付与を受けているらしい」

「レオナルドって、あの金髪の美男子ですか?」

「少しルーク様に似てますよね」

「私も思った」

「ここだけの話…俺はアーシャを嫁にもらおうと思っている」

ルークの言葉に飲み食いしていた一同の手が止まった。

「いくらなんでも話が急過ぎませんか?」

「それに、ルーク様には婚約者がいるじゃないですか」

「レグルス様はその事をご存知なのですか?」

場がザワザワと騒めく。

「婚約の件は既に断りを入れてある、それにアーシャはもうじき18になる保護者の許可は必要ない」

「王族関係者からの婚約の申し込みは事実上拒否出来ないと分かってて申し込む気ですか?」

「待って下さい、さっき彼女は男性から魔力付与を受けてると言ってましたよね?だったら…」

「まぁ落ち着け、言いたい事は分かるが俺の気持ちは固まっているんだ」

「ルーク様のお気持ちはともかく、国王様は良しとしないでしょうね」



魔力付与は基本的に装備に対して行う魔法で、人から人に対して使う事はあまり無い。

人は生まれながらに魔力抵抗を持っており、自身の持つ魔力以外を拒む性質がある。一般的に男性は魔力抵抗が高く、女性は低い、魔力付与の効果もそれに比例する。

そして女性の魔力抵抗が低いのは受胎するためだと考えられている。ゆえに女性は一度男性から魔力を受けると、その相手以外との受胎が困難になるとされている。

回復魔法も例外では無く、女性が男性から回復魔法を受けると魔法の効果そのものだけではなく魔力の影響を受けてしまう。

それを踏まえてヒーラーは基本的に女性が担当するのだ。

つまり一括りに回復魔法と言ってもその効果はヒーラーの実力による差がある。

単に止血だけに留まってしまう程効果が弱くても回復魔法であり、大きな傷口すら元通りにするものや解毒等も回復魔法である。

アドラーは合格の儀で聖女から祝福を受けるので誰でも回復魔法を使えるが、ダンジョン内では回復の役割はヒーラーが担うためアタッカーやタンクに定着している者は回復魔法を使う事はほぼ無い、魔力消費を防ぐ意味でも。

そして蘇生魔法は古の聖女エルデの力を代行する特別な魔法であり選ばれし者のみに許された魔法でもある。



ルーク達とは離れた席ではアーシャ達が食事をしている。歩き回って疲れた四人とは違いアーシャとレインはダンジョン内での話で盛り上がっていた。

「15階層であの程度なら、もっと深く潜れそうだな」

「そうね、でも20階層を超えたら物理無効のゴーレムとかシドみたいな厄介な相手も居るらしいから油断は出来ない」

「まぁレイスが相手なら俺は問題ない」

「私はミスリルチェーン以外あんまり使わないから、魔装具とか他にも色々と見直ししないと…」

「ちょっと見せてくれるか?」

アーシャはミスリルチェーンをレインに渡す。

「確かに強度も申し分ない、使い勝手も良さそうだな」

「でも大型の魔物相手だと致命傷にはならないし、やっぱり切れ味の良い剣か斧が欲しいかも」

そんな二人を悲しげな顔で見つめるレオ。

(アーシャ楽しそうだな…俺とじゃあんな会話出来ないもんな)

そしてもう一人バルトも同じく。

(もっと簡単だと思ってたのに、ダンジョンの事甘く見過ぎてたな…)

「ちょっと二人とも湿っぽいのはやめて、明日頑張れば良いんだから」

「そうですっ、元気出して下さい」

イーライとレミーが二人を励ます。

疲れた心に沁みる温かい食事、自分を気遣ってくれる温かい仲間には言いようのない安心感があった。

食事を終えて、宿泊施設の部屋へと向かう六人はそれぞれ自室の鍵を手に扉の前に立つ。

バルトがおやすみを言おうとアーシャの方に目をやると、アーシャの隣に立つレオの姿があった。

「いつまでくっ付いてるつもりだよ」

バルトが呆れた様にレオに話し掛ける。するとレオの代わりにアーシャが答える。

「レオと私は同じ部屋だから、おやすみバルト」

そう言って二人は扉を開けて部屋の中へと消えて行く。

(……は?何で…わざわざ同じ部屋…え、ベッドは一つだよな…)



音無く現れた風が花を散らすと、枯れ木は好雨を待ち侘びて空に乞う。

登場人物

ルーク・ジョルジュ・オスカー[男性] 33歳 身長180センチ

金髪でサラサラの髪は上半分を結んで後ろに垂らしてある。優しい目元で翡翠色の瞳。数百人を束ねる英雄。

アドラーリングは左手の人差し指。

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