表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

忘却の雨編 2 不遇

話は少し遡って、レインに出会った日の前日。


とあるダンジョンの7階層にある石造りの広間にアーシャとレオの姿があった。この日は、他のアドラーのパーティに参加していて二人以外にも十人近くが共にダンジョンクリアに挑んでいた。

「これ勝てるのかな…」

目の前の惨劇に思わず本音がこぼれるレオ。

アーシャは息を切らしながら負傷者に回復魔法をかけている。

「ヒール!」

倒れて意識を失っている男性は出血が酷く、一目見ただけでは生きているかさえ判断できない状態だ。その男性以外にも数人怪我で身動きが取れない者達がいる。

「…あいつら、いつもこんなやり方で攻略してるわけ?」

アーシャの声に焦りと憤りが滲んでいた。


今回のダンジョンは悪名高いルフィアン兄弟のパーティに参加している二人。兄のグレンがパーティリーダーを務め、無口だがその攻撃的な戦略は他のアドラー達から嫌われこそすれ一目置かれている。弟のジェイドは兄と対照的でよく喋る上に態度が悪い。


「無理だと思うよ、こんなやり方アーシャの蘇生魔法がなきゃ成立しない」

レオはアーシャの背に両手を向けて魔力を流し込みながら呆れたように言う。タンクのジェイドとヒーラーのアーシャ以外全員がアタッカーという攻めに振り切った滅茶苦茶な編成のパーティだった。

「はぁ…次っ!」

一呼吸置くと次々に回復魔法をかけて行く。手足を欠損した者はあまりの苦痛に悲鳴を上げて悶えているがアーシャが蘇生魔法をかけると元通りになった部位を驚いた表情で見つめて口々に呟く。

「…すごい」

「奇跡だ」


7階層のフロアボスはトロールでかなりの大きさだ。

巨大な棍棒を振り回して暴れているので、複数のアタッカーの攻撃もほとんどが跳ね返されている。

「ジェイドッ!ちゃんとヘイトを取ってくれ!」

「うるせぇ!やってるってんだよ」

ジェイドの言う通りトロールはジェイド目掛けて攻撃しているが、あまりに巨大で棍棒を振り回すリーチの長さから広範囲に被害が出ているのだ。

アーシャは連続で魔法を使っており疲労から立つ事も儘ならない。汗が地面に滴り落ちる。

その様子を見ていたグレンが無言で持っていた杖を地面に突き立てた。

ゴツンッ!!

すると、トロールの足元から蔓が現れ勢い良く巻き付いて行く。見る間に全身に絡まり、身動きしなくなった。大声で威嚇し始めるトロールにグレンがヒュッと素早く杖を向けると全アタッカーが一斉に飛び掛かる。

見事にトロールを撃破すると地響きが聞こえ始め、ダンジョンの崩落が始まった。

「撤収だぁ!!」

ジェイドの指示でその場にいる全員がフロアの入り口に向かって歩き出す。


ダンジョンは全ての階層にボス部屋が一つだけ存在し、ボス部屋までのエリアにも魔物が棲みついている。階層が下に行く毎にボスの魔力は強力になり攻略を困難にさせていた。

フロアボスを倒すと、下の階へと続く扉が現れる。未攻略のダンジョンは最深階層が未確認のため崩落が始まって初めてダンジョンクリアだと分かる。

そして崩落が始まるとボス部屋の前に魔法陣が出現しダンジョンの入り口まで転送される仕組みだ。


「アーシャ、立てそう?」

心配そうに覗き込むレオ。

「ごめん…心拍が…上がり過ぎてて…」

息も絶え絶えに返事をする様子はかなり苦しそうだ。するとレオは軽々とアーシャを抱き上げる。

「なんだ?王子様気取りかテメェ、ろくすっぽ攻撃にも加勢しねぇでいいご身分だなぁ」

二人を見ていたジェイドが嫌味を言うと、周りの者もヒソヒソと何やら小声で噂をし始めた。

「あいつだろ?レベル3のお荷物」

「あいつのせいで俺達の取り分まで減るなんてなぁ」

眉をひそめながら無視して魔法陣まで向かう。こんな光景はいつもの事だからだ、ルフィアン兄弟とパーティを組んだ時は尚のこと。


ギルドに戻って受付に向かうと、受付嬢から生存確認手続きのためにアドラーリングの提示を要求される。

アーシャは帰りの馬車の中で眠ってしまったので抱えられたままだ。

事情を説明し、受付嬢から手続き省略の了承を得てギルド内にある宿泊施設に向かうレオ。

そんな姿を見ていた受付嬢の三人が話に花を咲かせる。

「いいなぁ〜、私もあんな恋人欲しいなぁ」

「あんた、顔で選んでない?」

「顔もだけどっ、レオナルドさんとにかくすっごく優しいんだよね〜」

「私も掲示板の上の方に手が届かなくて困ってた時に助けてもらった事があるんだけど、何も言わずにサッと取って笑顔でどうぞって渡された時は…」

「惚れたでしょ⁈」

「うん」

「あんた達、こないだは別のアドラーから口説かれて浮かれてたじゃない」

「それはそれ」

「私達だって受付業務頑張ってるんだから、目の保養ぐらい許されるべきっ」

そんな事を言って盛り上がっていると、突然の怒声が。

「おいっ!」

ジェイドだ。

「お戻りでしたか、ジェイドさん」

慌てて業務を再開する受付嬢達。

「はぁ〜疲れた、疲れた、俺も手続き…省略してくれるよなぁ?」

受付嬢は困った様子で返す。

「申し訳ございません、手続きを省略出来るのはギルドマスターの許可を得ている方々のみとなっておりまして…」

ジェイドは思いっきりバシンッと受付台を叩くと大声で怒鳴った。

「レベル3のカス野郎が良くてレベル7の俺が良くねぇのはおかしいだろうがっ!」

「申し訳ございません…」

一気に場の空気が凍り付く。するとそこにグレンが現れる。

「ジェイド、あまり恥をかかせるな」

「兄貴っ、でもっ」

まだ何か言いたそうなジェイドをギロリと睨み付け、静かにアドラーリングを見せる。


受付台にはアドラーリングを認証する為の魔道具が備え付けられており、軽く手を乗せるだけで済む極簡単な動作だ。


かなり不服そうな顔でジェイドもそっとアドラーリングを見せるとばつが悪そうにその場を後にした。

それからグレンが尋ねる。

「アーシャの様子は?」

「アーシャさんなら、ぐっすりお休みの様で顔色も問題無く」

「そうか…」

グレンは、ジェイドとは別の方向に歩みを進め上の階へと続く階段を上がった。向かった先はギルドマスターの部屋だ。ノックを三回して返事を待つ。

「入れっ」

両開きの扉の片側だけを開けて中に踏み出すと、そこにはソファにどっしりと腰掛けているリリエンタールのギルドマスター、アッシュの姿があった。

「なんだ、グレンじゃねーかっ久しぶりだなぁ」

彼女は馴染みであるグレンを見てニカっと笑う。

「ダンジョンクリアの報告かぁ?」

はい、と返事をしながら入ってきた扉を閉めようとするとアッシュが止めた。

「いい、いい、閉めんな、どーせ何の問題も無かったんだろ?こっちで適当に報告書まとめといてやるよ」

半ば強引に追い返そうとしている。

「…いえ」

「何だよ⁈問題あったのか⁈」

「そうでは無くて」

「じゃあ何だよ?」

「アッシュ様はレグルスと知り合いですよね?」

「それがどうした?」

少し間を置いてグレンが切り出す。

「アーシャを嫁にもらいたいと考えておりまして…」

「…」

少し面食らった顔をして、それからアッシュは大声で笑った。

「あの悪名高いルフィアン兄弟が揃いも揃って同じ女を取り合ってんのかぁ⁈」

グレンは案の定の対応に眉をしかめる。

「おおかた、アーシャの蘇生魔法が狙いってとこだろ?」

茶化す様に話を流そうとする。

「いえっ、一人の女性として真剣に交際できたら…」

言いかけたグレンに突然詰め寄り、開いていない方の扉をドンッ!と勢いよく殴る。

驚きと緊張で下を向くグレン。

その耳元でアッシュが一層声を低くして凄む。

「一人の女性だぁ?」

更に吐き捨てる。

「相手は17のガキだぞ…寝言は寝て言え」

首を鳴らしながらソファに戻ると今度は大声で呼びかけた。

「でっ、レオ!お前はそんなとこで何してんだぁ?」

扉からそっとレオが顔を出す。

「やぁ…アッシュさん…盗み聞きするつもりは、決して無くて…」

気まずそうに言い訳をする。

アッシュは呆れた顔でレオに中に入るよう促すと、グレンに告げる。

「さっきの件は聞かなかった事にしてやる、レオも他言無用だ、いいなっ」

レオは細かく頷いた。

グレンは深々と頭を下げると部屋を出て行った。

「あのぉ…俺、今日生存確認手続きを省いてもらったんで一応報告に来ただけで」

すぐさま部屋を出ようとするレオを引っ張るとソファに座らせて強引に肩を組むアッシュ。

「でっ、あいつの話聞いてどーよ?」

「…いや、俺には無関係な事だし…それに、恋愛は自由なものだし…」

モゴモゴと歯切れの悪い返事を返すとその様子にはぁーっとため息が溢れる。

「お前なぁ、そんなんだとアーシャはすぐ他の男のもんになっちまうぞ、いいのかぁ?」

「いいもなにも、アーシャが決める事だよ…」

「ったくよー、そのうち強くて色っぽいイケメンが出てきて掻っ攫われても知らねーからなっ」

そう言うとレオの頭をわしゃわしゃと掻き乱した。

そこで、一連のやり取りを見ていたアッシュの使い魔のレイスが声を掛ける。

「アッシュ様、そろそろ業務にお戻り下さい」

「はいはい、分かったよ」

「そ、それじゃ俺行くね、シドも元気そうで良かった」

「レオナルド様もご活躍なされているようで、くれぐれもご自愛下さいませ」


そそくさとギルドマスターの部屋を後にすると借りてある宿泊施設に急ぐ。

鍵を開けて中に入るとベッドに寝かせて来たアーシャはまだ眠っている様だった。



§§§§§



すっかり日も暮れた頃、ギルド内の酒場は沢山の酒盛りをするアドラー達で溢れ返っていた。カウンターは大きな半円状で、六人掛けのテーブル席が二十以上ある そのほとんどが埋まっている。


「聞いたぞ、ジェイド!ダンジョンクリアだってなぁ」

「まぁ、今回は大したボスじゃ無かったからな」

得意気に酒を飲んで、武勇伝を話始める。

「とにかく俺のタンクが無きゃ全員死んじまってるぜ、ありゃあ、お前らにもこの俺の勇姿を見せてやりてぇな」

「まぁジェイドも凄いが、やっぱりグレンさんだろ?」

「そりゃお前、兄貴は一流よぉ」

そこに、ビール瓶を持った男が横入りして来る。

「俺の聞いた噂じゃ、蘇生魔法が使える美女がいたとか何とか」

「あぁ、アーシャの事だろ、ほれっレグルスんとこの」

「レグルスって…あの英雄レグルスのか⁈」

「英雄なんて大層な呼び名要らねぇよ、直ぐに引退した爺ぃだろうが」

ジェイドの機嫌が一気に悪くなる。

「アーシャはほら長くて綺麗な赤い髪の子だよ、見た事ないか?」

「もしかして、レベル3の色男君と居る女の子か?」

「そうそう、いっつも二人一緒で…」

「ガキにしちゃあエロい体つきでよぉ」

話を遮るように勢いよくジョッキを置くジェイド。その激しさで中のビールが揺れている。

「アーシャは、いずれ俺と結婚すんだよ」

「は?お前たちそういう仲だったのかよ?」

「つってもよぉ、色男君が居るじゃねぇか」

「あんなカスに俺が負けると思ってんのか⁈」

「いや、そういう訳じゃ…」

「あいつはなぁ、レグルスっていう後ろ盾がなきゃ何もできねぇ金魚のフン野郎なんだよ!!」

荒ぶるジェイドを周りの男達が宥める。

「まぁまぁ、落ち着けって」

「そうだっ早けりゃ明日報酬金が出るんだろ?だったら今晩どうよ?」

そう尋ねる男はジェイドに向けて指でジェスチャーした。左手の人差し指と親指で輪っかを作り、そこに右手の人差し指を出し入れさせる。

「馬鹿っ、兄貴にバレたらどうすんだ⁈」

「言わなきゃバレねぇよ」

「まぁ…酒ぐれぇじゃ憂さ晴らしにもなんねぇしな」

ジェイドは立ち上がるとカウンターに行き、酒場の店主に今日は全部自分の奢りだと告げる。

すると、酒場はより一層賑わい歓声が上がった。



§§§§§



カーテンを開けたままの窓から月光が射しアーシャは目覚める。隣にはこちらを向いて横になって眠るレオの姿があった。金色に輝く柔らかい髪を撫でながら考える。

(小さい頃は自分が一番レオを分かってると思ってたのに、いつの間に分からなくなったんだろう…遠慮ばかりで何も言ってくれないから…いつも私のしたい事ばかり優先で、アドラーになると言った時も私がそう言うならと受け入れてくれたけど…本当はどうしたかったの?周りは皆レオが私無しではダメになると言うけど実のところ…離れるのが怖いのは私の方かもしれない、レオに鎖を付けてどこにも逃げられないようにしているのかもしれない…)



§§§§§



翌朝、レオが目覚めると隣にアーシャの姿は無かった。慌ててシャワーを浴びると支度を済ませてギルドの受付に確認に行く。

「おはようございます、レオナルドさん」

「おはよう、これ部屋の鍵」

泊まっていた部屋の鍵を返す。

「はい、確かに」

受付嬢が退室手続きをしている間に掲示板の方に目をやると、なにやら人集りが出来ている。

「手続き完了しました、今日はこの後まだギルドにいらっしゃいますか?」

にっこりと受付嬢が尋ねるが、レオは人集りの方が気になるようで返事が無い。

「レオナルドさん?」

「あっごめん、ありがとう」

受付嬢の事など気にも止めずに行ってしまう。

「残念だったわねぇ」

「別にふられて無い」


人集りの中心に居るのはアーシャとジェイド、それから昨日一緒にダンジョンに行ったメンバーが数人。グレンの姿は無い。何やら激しく言い争っていた。

「何が言いたいの⁈」

「だからっお前だけならパーティのメンバーにしてやるって言ってんだよ」

「アーシャ悪い話じゃないと思うぜ」

「今のままじゃ、正当な評価ももらえんだろ?」

ジェイド達はなんとか説得しようとしている。

「ヒーラーを探してるなら他を当たって」

「分かんねー奴だなぁ、あんなカスと居たって何の得もねぇだろうが!」

「レベルが見合ってないんだよ、分かるだろ?」

「昨日だってアタッカーなのに攻撃する気も無さそうだったしなぁ、あれじゃあ…」

「分かってないのはあんたらでしょ⁈」

アーシャは怒り心頭で睨みつける。

「昨日はレオが居たからっ、皆無事に戻って来られたんじゃないっ!」

人集りの間をすり抜けてレオが声を掛ける。

「アーシャ、体調はもう良いの?」

その声に気づき、アーシャはジェイドが持っていた金貨の袋を奪い取ると無言でギルドの外に向かって行ってしまった。

その後をすぐに追いかけようとするレオ。

「おいっ!」

ジェイドが呼び止めた。

「お前のせいでアーシャに負担がかかってんだ、他のパーティにも入れねぇ、男も寄り付かねぇ!分かってんのか⁈」

罵声を浴びせられて苦笑いしながら場を後にする。

「あいつ!ヘラヘラしやがって…まるで道化だなっ」

背後から聞こえる沢山の笑い声に気づかないふりをしながら、アーシャの後を追いかける。そう、いつもの事なのだ。大した事じゃない。自分に言い聞かせて平然を装う。



この後、出逢う偶然が彼にもたらす変化を知る者もなし。

登場人物

グレン・オルウィン[男性]30歳 身長188センチ

群青色の髪でほぼ坊主、顎髭ともみあげが繋がっている。疲れた目元で瞳は濃い群青色。アドラーリングは右手の人差し指。


ジェイド・オルウィン[男性]27歳 身長175センチ

髪色、瞳色共に兄と同じ。髪型は軽いウェーブで肩までの長さ、前髪は七三で分けられている。目つきが悪く鷲鼻。アドラーリングは右手の中指。


アッシュ・ディスターブ[ハーフエルフ女性]30歳 身長185センチ

髪は銀色、耳の下で切り揃えられており前髪はセンターで分けてある。強気な目元で瞳は薄桃色。肌は褐色、耳が尖っている。アドラーリングは右手の中指。


シド[レイス]女性の姿 ドレスもベールも肌も全てが真っ白な

存在。体長170センチ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ