忘却の雨編 10 身替
朝陽が眩しく輝き出し、リリエンタールの街には人々が行き交い活気付いている。
心地良い風がそよぐ美しい青空の下、先を急ぐ馬車が一台。
その中で馬車に揺られているのはアッシュとオルガだった。
「何処に向かっているのですか?」
「ギルド本部です、会議の結果通り 貴方にはそこの修道院で聖女として勤めて頂きます」
「フォルトゥナ様の代わりという事でしょうか?」
「そうですね…エルデ様がお見えになれば全て解決するのでしょうが、何処で何を為されているのか…」
「ギルド本部に住むのですか?」
「いえ、拠点はギルド本部の近くにある修道院です、そこから毎朝通う事になります」
「私に務まるでしょうか…」
「防御壁の事でしたらご心配なく、それから貴方の護衛は元英雄のレグルスに一任しようと考えています」
「元英雄…レグルス様はアドラーを引退されたのですか?」
「えぇ、色々とありまして…その話はレグルスに会った時に本人からお聞き下さい」
二人は小窓から外の様子を眺める。
アドラーに無関係の者達の世界は、まるで自分達の世界とは切り離されているかの様に穏やかで笑顔に溢れ、別世界を見ている様な不思議な気持ちだった。
§§§§§
ギルド本部の酒場では徐々に人が増え始め、眠ったままの男の周りに人集りが出来ていた。
「彼はどうしたんだ?」
ルークが興味深そうに覗き込んでいる。
「アーシャが眠らせたんですよ」
「彼女が?」
「殴った訳じゃないですよ」
「首は締めてたけどな」
ジェイドの取り巻き達がふざけて笑い合っていると、そこにグレンが現れた。
「兄貴っ、遅かったじゃねーかっ」
「すまん、ミランダが来られなくなったもんで代わりを探していたんだ」
グレンの隣にピタリとくっ付いている女性が軽く会釈した。
「彼女はエミリー、ティナと一緒にヒーラーとしてパーティに入ってもらう」
「よろしくお願いします」
「こいつは弟のジェイドだ」
「どうも」
ジェイドは素っ気無く挨拶を返す。
「それより兄貴、ウィルが暴れて大変だったんだ!」
ジェイドの後方にある人集りに目をやる。グレンが気になったのは床に寝ているウィルでは無くルークだった。
「やはり依存の症状は抑えられなかったのか…」
「あんなに暴れるなんて、まるで別人だっ」
「もう一度俺からよく話をしておく」
話している二人の元へルークが歩いて来る。
「君たちがオルウィン兄弟か?」
「これはこれは、英雄ルーク様が俺たちの事をご存知だとは」
皮肉たっぷりにグレンが答える。
「謙遜はよしてくれ」
「何か用ですか?」
「あ、いやピルズベリーから聞いたよ…アーシャを心配してるって、彼女は自由奔放だからじっとさせておくのは難しいんだが目を離さないように努力するよ」
「まるで自分のもののようにおっしゃるんですね」
「そんなつもりは…」
そこにルークの仲間達がやって来て横槍を入れる。
「ルークってば、わざわざ 僕の可愛いアーシャの心配しないで なんて言わなくていいのに」
「そうですよルーク様、心配しなくても彼らはグランブールの人間ですからこちらに長居はしないでしょう」
「いっその事宣言しちゃえば?アーシャと婚約する予定だって」
「お前たち、此処だけの話と言っただろう」
その話を愕然とした表情で聞くジェイド。
グレンも顔に不満が滲み出ている。
「つまり、契約婚をして彼女をヒーラーとして働かせると?俺なら大切な人にアドラーなんかさせませんがね」
「いやいや、アーシャが婚約に応じてくれれば俺も彼女もアドラーを引退して王都で穏やかに暮らすつもりだ」
「ゴホンッ」
グレンのパーティとルーク達が対立している所にやって来て咳払いをしたのはレグルスだ。
「お前たち、一体どういうつもりだ?」
顔はにこやかだが、声には隠しきれない怒りを感じる。
一気に場が凍り付く。
「何をやっとるんだの?お前たち」
いつまで経ってもダンジョンに出発しないルークやグレン達の様子を見にピルズベリーがやって来た。
「ウィルはまだ寝ておるのか?」
もう誰も興味が無く虚しく放置されたウィル。
「遅くとも今日中にアッシュが帰って来るんだの、ダンジョンから帰ったら全員ギルドに留まるように」
腕組みしたまま仁王立ちでグレン達とルーク達を見送るレグルス。
「さっきのルーク様の話、初耳なんですが」
「ワシもだ」
「リリエンタールの事は詳しくないが、王族なら幼少から決められた婚約者が居るんじゃないのか?」
「あぁ、そうだ」
三人が突っ立って受付の方に向いているとイーライとレミーが慌てた様子で姿を表した。
「ごめんなさ〜いっ」
「すみませ〜ん、遅くなっちゃいましたぁ」
「ルーク様は先に出発したけど大丈夫だよ」
バルトは二人に座る様に促した。
六人掛けのテーブルに座って二人の朝食を頼む。
「お腹空いたぁ〜」
「あの、レオナルドさんとアーシャさんは?」
「もう直ぐ来るんじゃないか」
「そうだっレイン、これ借りてたローブ」
イーライは持って来たローブを手渡す。丁寧に折り畳まれたローブを見たレインから礼を言われ照れ臭そうに話題を変えた。
「レグルス様、今日はこっちに居るの?修道院の方は?」
「アレのおかげでこっちに呼ばれた」
レグルスの目線を辿ると床に横たわる男の姿を発見して驚くイーライ。
「え、何であんな所で寝てるの⁈」
その声に驚いたレミーも床に目をやる。
「大丈夫なんですか⁈」
「眠らされてるだけだ、心配は要らん」
テーブルに二人分の朝食が運ばれて来る。こんがり焼けたパンと燻製肉の薄切り、玉子焼きと新鮮な野菜のサラダ。
温かいハーブティーからはいい匂いの湯気があがっている。
黙々と朝食を食べる二人。
「お待たせぇ」
「お早う、皆」
やっと姿を表したアーシャとレオ。
あからさまに機嫌の良いレオを見て、何があったんだろうかとレインとバルトが考えを巡らせる。
(ナイトメアは悪夢を見せる精霊だよな…なんであんなに笑顔なんだ…)
(レオナルドさんのあの顔…やっぱり二人は…)
「アーシャよ、そろそろウィルを起こしてやらんか」
「良いけど、また暴れるかもしれない」
「ワシがおる、心配無用だ」
「…分かった」
「アーシャは朝食パンで良い?」
レオはカウンターの方から確認する。
「俺たちはもう食べたぞ」
アーシャの代わりにレインが答えたので驚くレオ。更にレオを驚かせたのはアーシャの行動だった。
床に寝かされたウィルの額にキスをしたのだ。
「他の起こし方はないのか?」
側で待機するレグルスが尋ねる。
「ナイトメアに頼んでも良いんだけど…」
「まるでお伽話ね、呪いを解くキスなんて」
ウィルの瞼が少し動いて、まばたきをしながら目覚めた。
涙を流しながらぼんやりした意識で辺りを見回す。
「俺…此処は?何で…」
「ウィルよ、お前はギルド内にて騒動を起こしたんだ…おそらく謹慎処分が下るだろう」
「…そう、なんですか…」
意識がはっきりしないまま立ち上がって、謝罪するとウィルはギルドを出て行った。
§§§§§
ルーク達から少し遅れて、アーシャ達がダンジョンに到着すると昨夜ダンジョン内に留まっていたアドラー達が入れ替わる様に中から出て来て帰って行く。
入り口を通り、下層を目指して下りて行く六人。
先頭をアーシャとレインが歩き、その少し後ろをバルト、イーライ、レミー、レオの順で続いた。
石造りのダンジョンは暗くて湿気がある。
行き先を知らせる松明と、雷属性の魔力で光るランプが照らす道には魔物の姿は無く只の洞窟の様だ。
レインは静かに考えていたが意を決して、アーシャにナイトメアについて尋ねる。
「ナイトメアを使った事、レオナルドは知ってるのか?」
「秘密にしてたけど、今日バレたと思う」
「何度も使ったって事か?」
「何度か使った…回数を重ねると眠りに落ちるまでの時間が長くなるの、特にレオは最初から効きが悪かったから」
「あのウィルって奴の様子といい、ナイトメアに眠らされた者は眠る直前の事を覚えてないのか?」
「流石レイン、よく気付いたわね」
「相当厄介な精霊だな」
「でもね、雷属性には効かないの…」
そう言うとナイトメアを呼び出すアーシャ。
ナイトメアはレインの周りをクルクルと回るが近づこうとするとバチバチと弾かれてしまう。
「他の雷属性の奴で試した事があるのか?」
「自分の手札を良く理解する事はアドラーの心得よ」
機嫌を損ねたナイトメアはアーシャの周りを目まぐるしく回っている。
「…そんなに怒らないで、嫌なら森に帰っても構わないから」
アーシャの言葉を聞いたナイトメアはますます興奮し、素早いスピードでレミー目掛けて飛んで行く。
「うわぁ〜、綺麗ぃ」
うっとりと見惚れているレミーだったが数秒後には眠りに落ちていた。
地面に倒れる寸前にバルトが気付いて支えた為、無事だったが当然歩けないのでおぶるしかなかった。
レミーの杖を代わりに持って歩くレオはいつになく暗く、どんよりとした雰囲気を纏い黙々と歩いている。
(あのナイトメアって精霊はいつからアーシャと一緒に居るんだろう…寝覚めの悪い日が何度かあったのを覚えてるけど、それは全部ナイトメアのせいだったのかな…俺はいつもアーシャが眠るのを確認してから寝てた、間違いなくアーシャは俺より先に眠ってた…はず)
「レミーを起こしてやらないのか?」
「私の指示で眠らせた訳じゃないから私には起こせない、ごめんなさい…もっと気を付けるべきだった」
「寝てるだけで、体に害はないんでしょ?」
「えぇ…」
「だったら起きるまでバルトに頑張ってもらいましょ」
イーライはにこりと微笑えんだ。
階層が下に行くに連れて少しずつ気温が上昇して行く。体感では分かりにくいが壁や足元の苔が目立って来る、じわりとまとわり付く湿気とダンジョン特有の雰囲気が濃くなり始めた頃、20階層に到達した。
そこで五人の目に飛び込んで来たのは、ゴブリンに苦戦するルーク達の姿だった。
「え…こんな深い所にゴブリンなんて居るもんなのか?」
バルトが呟く。
「ダンジョンでは予想外の事がよく起こるものよ」
「たかがゴブリンでもこれだけ数が居れば簡単には行かないか…」
レインはルーク達の連携プレイを観察しながら、突破口は無いものかと頭をひねる。
風魔法と水魔法が次々にゴブリンを倒して行くが、倒しても倒してもキリが無い程に群がって来る。
弓に槍に剣、斧とあらゆる武器で応戦するがゴブリンが怯む様子は一切無い。
ルークの放つ風魔法ジェットストリームがゴブリンの群れを一掃すると、生き残ったゴブリンが一目散にある場所に引き返して行った。
それは無造作に掘られた巣穴だ。
ルーク達に負傷した者はおらず、消耗戦を避ける為か休まずにボス部屋を目指して進み始める。
「ルーク様に付いて行く?」
イーライがアーシャに尋ねるがアーシャは首を横に振った。
「レミーがまだ目を覚まして無いから」
「その方がいいな」
レインも同意する。
近くにあった岩陰に身を潜める事にし、バルトは自分のローブを敷いて鞄を枕にしてレミーを寝かせた。
「レオ、レミーを見ててくれる?」
「…分かった」
レオとレミーを置いてフロアの探索に向かうアーシャとバルトそれからレインとイーライ。
アーシャはバルトにゴブリンと戦うコツを教えながら歩みを進めた。
「ゴブリンは知能の低い下級の魔物だと言われているけど、余計な考えや戦略がない分 捨て身で飛び掛かって来るから油断しないで、武器を持っていなくても爪や牙は鋭いし、視覚嗅覚聴覚も人間以上で侮れない」
バルトは黙って頷く。
「片手剣で戦うなら必ず接近戦になる、囲まれたら不利になるから一ヶ所に留まらない事を意識しながら首から上を狙って攻撃して、敵の気迫に呑まれず常に冷静である事」
バルトの剣を持つ手に力が入る。
そんなバルトの両肩にポンッと手を乗せるアーシャ。
「余計な力は抜いて、怖かったら逃げればいいだけっ、無理に倒す必要はないから」
そこに数匹のゴブリンがやって来る。
かなり好戦的な目をしている、こちらの数を見てなめているのが態度に出ていた。
ヒャッヒャッと笑いながら近付いて来る。
(余計な力は入れずに…首から上を狙うっ)
バルトの剣がゴブリンの首を掠める。
次の瞬間ゴブリンは一気に間合いを詰めてバルトの腹に喰らいつこうとしたが、咄嗟に盾で弾いた。
はずみで後ろによろけるが直ぐに体制を立て直す。二撃三撃と剣で斬り込むがアーシャに言われた通り囲まれない様に意識しながらの攻撃はかなり難易度が高く感じる。
バルトの戦いを少し離れた場所で見ているアーシャに気付いたゴブリンが一匹走り出す。
気付いたアーシャが飛び掛かって来たゴブリンを回し蹴りで勢いよく吹っ飛ばした。
地面に転がるそれは目や鼻から大量に出血し絶命していた。
(嘘だろ⁈一撃⁈)
「バルト!集中してっ」
横目でアーシャを見ていたバルトは驚いて一瞬攻撃が止まり、その隙をつかれ腕を噛まれてしまう。
「ぐっ…」
必死で痛みを堪える。
二人から更に後方でその戦いを見ていたレインとイーライ。
「弓で援護しろ」
「あそこまで届く訳ないっ」
「いいから」
眉を顰めながら弓を構える。強く引き絞りゴブリンに向かって矢を放つ、真っ直ぐに狙い通り飛ぶがやはり届かない。
「貸してみろ」
イーライは素直にレインに弓を渡して、矢を一本差し出す。
渡された弓をレインが強く引き絞ると硬い木がミシミシと音を立ててしなった。
放たれた矢がヒュッと鋭い音を立てたかと思うと、次の瞬間にはバルトに噛み付いたゴブリンのこめかみを貫いていた。
白目をむいてバタリと倒れる。
(魔石なんかに頼らなくても、矢の威力だけで倒せちゃうんだ…凄い…)
「弓を極めたいなら腕を鍛えろ」
イーライはレインから返された弓をじっと見つめて考える。
(私にバルトみたいな接近戦は無理…レミーみたいに魔法を使いこなせる訳でもない…前みたいに魔物に襲われたら…)
アーシャはバルトに駆け寄り回復魔法を掛けた。
「ヒール」
(レイン、あの位置から進んでこない…イーライの躊躇いに気付いてるんだ、ゴブリンを見た瞬間足がすくんでたから気になってたけど…やっぱり前にアラクネの幼生に襲われた事が枷になってる)
アーシャの視線に気付いたレインは、更にイーライを後退させた。
(またアーシャに回復魔法を使わせた…)
「バルト考え事してないで次の攻撃に備えてっ」
「分かってるっ」
ゴブリン達が少しずつ増えて行くので、アーシャとイーライも少しずつ後退せざるを得ない状況になって来た。
「ねぇ、おかしくない?」
「あぁ確かに」
異変に気付いたイーライがレインの顔を見て尋ねると、レインも目を凝らしてゴブリン達を見ている。
「アーシャッ、バルトッ、退がれ!」
レインの呼び声を聞いて素早く戻った二人。
「レオとレミーが心配だ、一旦引くぞ」
「えぇ」
四人が岩陰を確認すると、レオとレミーは無事だった。
「どうしたの?」
レオが少し驚いた様子で尋ねた。
その横で眠ったままのレミーを見て、アーシャがナイトメアを呼ぶ。何処からともなく現れてくるくる回る小さな光。
「レミーを起こしなさい」
その命令口調の言葉に腹を立てたのかアーシャの髪を引っ張り始めた。
「…いい加減にしないとベルに言い付けるから」
アーシャの一声で、慌てた様子でレミーの元に飛んで行くナイトメア。レミーの鼻にツンツンと触れてから、一目散にアーシャの影に飛び込んだ。
直ぐに目を覚ましたレミーは泣き叫びながら起き上がる。
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
イーライが側に行き抱き締めると、涙ながらに訳の分からない話をし出した。
「うぅっ、ぐす、手と足のある毛虫が沢山降って来るのっ、…っ必死で逃げたけど足が動かなくなって!刺された人は皆毛虫になってっ…はぁ、はぁ、怖かったぁぁぁ」
「レミー、もう大丈夫だから全部悪い夢だったの」
「レミー、ごめんね」
申し訳無さそうに謝るアーシャにレインが手を伸ばす。
「まだ顔色が悪い…魔力を少し分けてやる」
その言葉に驚くレオとバルト。
すかさずレオはアーシャを抱き締めてレインの手を払い除けた。
「…俺がやるから」
そう言ってアーシャに魔力を流し込む。
(あの噂本当だったんだな……じゃあやっぱり…)
アーシャが蘇生魔法を使うとレオが魔力を付与している事はギルド内で噂になっていた。それが何を意味するのかを知ってはいても、実際目の前で繰り広げられると言い様の無い気持ちが込み上げて来るバルト。
それはその事実が確かなものになったという事よりも、アーシャの表情のせいかもしれない。
決して苦しんでいる訳では無いのに、何かに耐えている様にも見える。
「ありがとうレオ、もう大丈夫」
アーシャのぎこちない微笑みを見て更に優しくギュッと抱き締めるレオ。
やっと我に返ったレミーが不思議そうに二人を見て呟く。
「何かあったの?」
§§§§§
「ルーク様、このフロアは広過ぎます」
「それにさっきからゴブリンが増える一方です」
「あぁ、確かに…何かおかしい」
ルーク達は百人程度で場のゴブリンを殲滅しながら進んでいるにも関わらず、直ぐに次の群れが現れる。
其処ら中に巣穴があるとはいえ、到底そこに潜んでいるとは思えない数だ。
「待って、あれ見て!」
全員がルークの側近の女性が指差す方を見る、するとそこには巨大なボス部屋の扉が、アドラーを待ち侘びるかのように息を潜めていた。
「こんな所に…」
「どうしますか?一度引いて体制を立て直しますか?」
「何ビビってんのよ、たかが20階層じゃない」
「俺たちなら行けますよ」
周囲の声に促されルークはボス部屋に足を進める。
物々しい音を立てながら開いた扉の向こうに広がるのは、殺伐とした荒れた空間では無く 規則正しく積み上げられた大きな石で作られた祭壇の様な物がある場所だった。
「何か…人が手を加えたような作りに見えませんか?」
まず、ルークと数人が足を進める。部屋の中に入り確認していると祭壇の中央にある大きな四角い穴からゴブリンが出て来る。
「ゴブリンが内装を気にするなんて笑っちゃう」
「ハハハハッ、本当だな」
「お前たちっ、此処はボス部屋だぞ!気を引き締めろ!」
ルークは嫌な予感を感じて一喝した。
穴から出て来たゴブリンは全く攻撃する気配は無く、ただルーク達を見ている。
「ビビってんのかぁ⁈雑魚は要らねぇ!ボスを連れて来い!」
「ボスって言ったってせいぜいホブゴブリンじゃない」
相変わらずの不遜な態度で挑発を続けていると次第にゴブリンが増えて行く。
「此処まで来てボスがホブゴブリンなんて事有り得るんでしょうか?」
側近の一人も不安な様子で状況を見守っている。
「どんな物事も、例外や抜け道があるものだ…」
ルークがボス部屋の外で待機している者達に合図を送ろうと手を上げた瞬間だった。
それは耳を劈く咆哮と共に現れた。
巨体を揺らしながら歩いて来る。
ヨダレを垂らしながら鼻息は荒く、手に持った斧で処構わず叩き付けている。ホブゴブリンだ。
ガキーーンッ!!ゴキーーンッ!!!
鉄が石に当たって鋭い音と火花を放つ。
「いよいよお出ましかぁ⁈」
勇む心が蛮勇に成り替わる時、死神は必ず鎌を構えていると知れ。




