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第四十一話


『ついに本日のレジェールチャンピオンシップもクライマックス! 第二種目チームフラッグス決勝! 数々の強敵を打ち破り、決勝までその翼を進めたのは我らレジェールの至宝、レディリゼット率いるチームドラゴン! そして世界中のエースが手を組んだチート軍団、チームハッピーフェザー!』


「竜騎士の権威失墜、ですか。まったく、一国の宰相ともあろう者が、くだらない復讐心に駆られて〝自国の明確な優位〟を潰そうと画策するなんて。理解に苦しみますね。フフ……」


 陽が傾き始めた昼下がりのレジェール。

 見上げた空で繰り広げられるチームフラッグスの決勝を見上げながら、フィンはやれやれとため息をつく。


「その点、閣下は決してそのような愚策には走らない。あの少年の心にあるのは〝連合の繁栄のみ〟……もしルカさんがレジェールではなく連合に生まれていれば、きっと――」


 そこまで考えて……フィンはその脳裏に誰よりも親しく、対等の友人として信頼し合うルカとゼファーの姿を容易に想像することが出来た。


 出来たからこそ、フィンはその胸をちくりと刺す痛みを覚える。


 それは、現在の彼が仕える主君の生い立ちと、その複雑な心の成り立ちを知るが故の……実にフィンらしくない痛みだった。


「いけませんね……仮定の話で感傷にひたるなど、研究者としてあってはならないことです。宰相の策がどれだけ下らない物であろうと、我々はここで竜騎士の力を正確に測る必要がある……最果ての空を越えるという、私の最終目的のためにね。フフ……」


 ――――――

 ――――

 ――


「ハッ! こいつら、さすがフリーランスで名が売れてるだけあるぜ。ルカがいる時点で楽勝かと思ったが、そうもいかねぇらしい!」


「ですね! けど、ちゃんと作戦通りにやれば絶対に勝てます! 私達チームドラゴンの力、世界中の皆にばっちりはっきり見せてやりましょう!」


 レジェールチャンピオンシップ、チームフラッグス決勝。

 無数に設置された浮遊島の間を、双方のフェザーシップがけたたましいエンジン音とプロペラ音をひびかせて飛翔する。


『お前達のやり方は十分に見させてもらった! 竜騎士もレジェールの赤も、他のチームメンバーもヤバいが……だからこそ〝真っ先に潰すべき奴〟がいる!』


「えっ!? もしかして、僕の方に来る!?」


 試合開始から数分が経過。


 長く続いた拮抗を破り、チームハッピーフェザー側の二機がついにチームドラゴンの空域に侵入。

 しかし二機は敵陣のフラッグではなく、そこから全体に情報を伝達する水色の機体――フェリックスめがけて左右から凄まじい勢いで襲いかかる。


『狩りの鉄則は、最も弱い奴から仕留めることだ。お前みたいな雑魚をチームメンバーに選ぶあたり、レジェールの赤も三年連続優勝で慢心したってことだな!』


『くたばりな、ヒヨッコ!』


「そう、ですよね……! 僕はこのチームにいるのが不思議なくらい弱くて、未熟で……だから、きっとそう来ると思ってましたっ!!」


『なにっ!?』


 だがしかし。

 二機の挟撃を受けたフェリックスは、覚悟を決めてエンジン全開。

 全速で二機の間へと突っ込むと、新米とは思えない見事な制御機動で浮遊島の間を次々と駆け抜ける。


「試合前、皆さんが教えてくれたんです……! きっとこの決勝では、相手のチームは僕を狙ってくるって! だから、僕がどれだけ相手を引きつけられるかが勝負になるって!!」


『こ、こいつ……! 飛び方は間違いなく新米だが……!』


『思い切りのいい動きだ。俺達がなめてかかりすぎた!』


 この瞬間、チームハッピーフェザーの作戦は完全に瓦解。

 飛び込んだ二機は作戦通りにフェリックスを追い続けるか、それともがら空きとなったフラッグを狙うかの決断を迫られる。


 しかしこの二機の飛行士もまた歴戦の猛者。

 

 急造の作戦変更は死を招くと判断し、すぐさまフェリックスの追撃に向かう。


「だめだ……っ! この人達、本当に速い――!」


『雑魚と侮ったのは間違いだった……だが、ここまでだ!』


「ルカさん――っ!」


 フェリックスの勇気と覚悟もここまで。

 すぐさま追いついた二機は、今度こそフェリックスを仕留めようとそのペイント弾が込められた銃口を向けた。だが――。


「がおー! たべちゃうぞー!」


「フェリックスをやらせはせん! 必殺、竜騎士ダブルストレート!!」


『おぎゃあ!?』


『ママーッ!?』


 瞬間、二筋のレーザービームがフェリックスを追う二機を直撃。

 それは衝撃でフェザーシップの装甲をべこりとヘコませるほどのペイントボールの一撃。

 竜騎士ルカの放った時速1200kmの剛速球だった。


「る、る……ルカさああああああんっ!!」


「大丈夫かフェリックス! よく頑張ったな……お前は俺が必ず護るから安心してくれ!!」


「う、嬉しいです……っ! ぼ、僕も一生……死ぬまでルカさんについていきますぅぅううう……――」


「フェリックス!? ちょ……どこへいくのだ!? フェリックスーー!?」


 颯爽と現れたルカのあまりの王子っぷりに、フェリックスは助けられたにもかかわらず爆泣きしながら完全昇天。

 そのまま興奮のあまり気絶し、ふらふらと失速してルカが撃墜した二機と共に場外の雲海に着雲した。


「な、なんということだ……! 俺がもっと早く助けに入っていれば、こんなことには……っ!」


「多分だけどー……もっと早く助けてても、もっと早く落ちてただけだと思うよー?」


 そのあまりにもあんまりな結末にショックを受けるルカをよそに、アズレルは大きなあくびをしながらふんふんと鼻を鳴らした。そして――。


『見つけたよ、ルカ。そろそろ僕と遊んでくれる?』


「ぜ、ゼファー!? いったいいつの間にここまで!?」


『今』


 悲しみに暮れるルカとアズレルの元に、上空から球速接近する漆黒の機体。

 先ほどの二機に続いてチームドラゴンの領空に突入したのは、ゼファーの駆るレヴナントだった。


「というか、遊ぶと言っても今は試合中なのだが!?」


『知ってるよ。だから、ルカと鬼ごっこしようと思って。ほら、早く逃げないと撃ち落としちゃうよ?』


「くっ!?」


 迫るレヴナントに対し、ルカはすぐさま手綱を取って急速上昇。

 ルカの意志を受けたアズレルはその翼を雄大に広げ、浮遊島の間を速度を上げて羽ばたいていく。


『そうそう、その調子。せっかくルカと遊べるのに、すぐに終わったらつまらないからね』


「ぐぬ……っ! あのゼファーのフェザーシップ……氷天の花園でも思ったがやはり普通ではない! 振り切れそうか、アズレル!?」


「無理かもー! でもでもー、こういうのならどう?」


 ぴったりと後方に張り付くゼファーのレヴナントに、ルカはこれまで感じたことのない不気味な圧力を覚える。

 そしてまともに飛んでも勝ち目は薄いと判断したアズレルは、突然浮遊島の一つにしがみつき、急停止してゼファー機を前に行かせる。


『わっ、そんなことまでできるんだ? いいなぁ……ドラゴンって、本当にすごいんだね』


「ゼファーも凄いぞ! だが今回はチーム戦だからな、いつまでも追われているわけにもいかないのだ!」


『ふふ……』


「なぬ!?」 


 しかしルカの思惑は外れる。

 アズレルの急停止によって大きく前に出たレヴナントは、通常のフェザーシップでは考えられないような鋭角の軌道で急旋回。

 すぐさま浮遊島にしがみつくルカめがけて照準を合わせると、ついに容赦なくペイント弾を撃ち放つ。


「わひゃー! あぶなーい!」


「ぬわーーーーっ!?」


『だめだよ、ルカ。君にはこの試合が終わるまで、僕と遊んでもらう。逃げるなんて……絶対に許さないから』


「くっ……! いいだろう、ならば俺達も全力で相手をするまでだ! もう一度行くぞ、アズレル!」


「はーい! ちょっと疲れたけど、お肉のためにがんばるぞー!」


 それはもしかすると、わざと外したのか。


 間一髪ゼファーの機銃を回避したルカとアズレルは、そのまま浮遊島から離脱して再飛翔。 

 楽しそうに笑うゼファーとの鬼ごっこへと戻っていった。 


「――っていうかあの二人、試合ほったらかしでなにやってるの?」


「さ、さあ? でもおかげでこっちは楽できましたし、終わりよければ全て良しってことで! なんだかんだルカも楽しそうですし!」


「だがあいつのあの機体……俺が迎撃した時は〝影も踏めなかった〟。もし最後のレースであいつと競り合うことになったら、俺も死ぬ気で飛ばないとキツいかもしれねーな」


 結局、決勝はチームドラゴンの勝利。


 チームハッピーフェザーは先に二機を失い、チームリーダーのゼファーがひたすらルカを追い回したこともあり、最後は一方的に押し切られる形となった。


 しかし呆れるリゼットらチームメイトの視線を余所に、ルカとゼファーは必死に鬼ごっこという名の空戦を繰り広げる。


『あはは。ほらほら、こっちだよルカ!』


「今度はこれだ! 必殺、竜騎士サイクロンボール!」


「がおー! 待て待てー!」


 夕暮れに沈むレジェールチャンピオンシップの会場。

 これにて初日の種目は全て終わり、舞台は二日目……真の全空最強最速を決めるエースウィングへと。


 だが赤く染まった空を背に飛ぶルカとアズレル、そしてゼファーは、いつまでも子供のように笑いながら、くるくると遊び続けていたのだった――。



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