第四十話
『さあいよいよレジェールチャンピオンシップ初日も後半! 午後からは第二種目、五対五に分かれたチーム戦、チームフラッグスの開幕です! 全空最強の栄光を手にするのは、いったいどのチームなのか!?』
空高く昇った太陽がゆっくりとその高度を落としていく。
第一種目のエアロダンスを終え、昼食休憩を終えたレースは第二種目へと。
「今日はルカの晴れ舞台だからな。せいぜい暴れさせてもらうぜ!!」
『ぐあっ!? やられた――!?』
「はいはーい! 落ちたくなかったら、大人しく私に旗を差し出してくださいねー! そうしたら……見逃してあげますっ!」
『は、速すぎる……! 化け物だ――!』
「っていうか、今回の私達のチームってレジェールのギルドトップ3が固まってるのよね? ユウキさんも言ってたけど、さすがに他のチームが可哀想だったかもね――!」
『お、俺達の旗が……あっという間に折られていく!』
「えーっと……あ、見つけました! 右の三番に接近する敵機! 他には……左八番にも来てます! それとそれと……向こう側は、右の十番にディフェンスがいません!」
第二種目、チームフラッグス。
それは、会場上空に人工的に設置された浮遊島にいくつもの旗を立て、互いの領土にある旗をどちらのチームがより早く、より多く撃ち落とすかを競う勝負だ。
五対五のチーム戦となるこの競技では、それぞれのメンバーをどのような役割で配置するかが大きな鍵となる。
今回、ルカを中心とした〝チームドラゴン〟では、リゼットとココノが敵陣に攻め込み旗を折るアタッカー。
ユウキが攻め込んできた敵機を迎撃するディフェンダー。
そしてフェリックスが戦場全体を見渡し、メンバーに敵チームの動きを伝えるオペレーターを務めていた。そして――。
『よ、よし! ようやく奴らの陣地に入った! せめて、一本くらいは奴らの旗を折ってやる――!』
競技の最中、ユウキのディフェンスをかいくぐった一機のフェザーシップがチームドラゴンの空域へと突入。
スコアではすでに圧倒的大差をつけられていたが、せめて一矢報いようと、パイロットは目の前に見えるフラッグに照準を合わせる。
「ざーんねん、ここにはボク達がいましたー! がおーーーー!」
『ぎょえええええっ!?』
「すまんな! これも勝負と思って諦めてくれ!」
しかしその時、障害物として設置された浮遊島の影から突然巨大なドラゴン――アズレルが翼をがばっと広げて登場。
死ぬほど驚くパイロットをよそに、ルカの投げつけた赤いペイントボールがフェザーシップの鉄板をベコリをヘコませて命中する。
『マジか……ドラゴンなら、そういう動きもできるってことか……』
「うむ! こっそりと岩にしがみつき、獲物が近付いてきたらいきなり飛び出す! まさにドラゴンならではの戦い方だ!」
「へへーん! ボクなら飛ぶだけじゃなくて、走ったりジャンプしたりも出来るんだからねー!」
『なんだよそりゃ? けど楽しかったぜ、ドラゴンにやられたって家族に自慢できそうだ!』
ルカにペイントボールをぶつけられたパイロットは悔しそうに叫びつつもやがて笑みを浮かべ、ルカとアズレルに手を振ってそのまま離脱していく。
チームフラッグスのルールでは、機銃の代わりに用意された殺傷力のないペイント弾の直撃を受けた者は撃墜となり、離脱しなくてはならない。
だが機銃などないルカとアズレルに渡されたのは、まさかの手でぶん投げるペイントボール。
常人なら、こんなものを高速で飛ぶフェザーシップに当てるなど絶対に不可能であり、これももちろん宰相バロアの仕掛けたルカへの当てつけだった。だが――。
「うおーー! 竜騎士ストレート! 竜騎士カーブ! 竜騎士消える魔球!!」
『ぐわー!?』
『ぎえー!?』
『やられた!?』
だがなんということか。
普段から竜槍を投げまくっているルカにとって、ペイントボールの投球は慣れたもの。
さすがに雷撃や氷炎の力こそ使わないが、抜槍状態のルカの身体能力をもってすれば、ただの投球も必殺の武器となる。
球速1200km(拳銃の初速以上)の火の玉ストレートに、直角に曲がる変化球。
さらには消えるボールや七つに分裂するレインボー魔球など、機銃などよりもよっぽど厄介な投げっぷりで次々と敵機を葬り去っていく。
『すごいすごいすごーーい! チームドラゴンのルカ選手、とんでもない活躍でチームを勝利に導いています! 私も初めて見ましたが、竜騎士というのはみんな彼のように凄まじいものなのでしょうか!?』
「ぐぬ……っ! ぐぬぬ……! ぐぬぬぬぬ……っ!!」
「ど、どうしたバロア? 顔がゆで翼タコのように真っ赤だが……」
「はっ!? あ、ああ……私としたことが、少々観戦に熱が入りすぎてしまったようです。奥で休んできてもよろしいでしょうか?」
「そうしろそうしろ! 宰相の身に何かあっては国の一大事だからな。誰か、バロアに水を――!」
「い、いえいえ! 付き添いは結構です。では、失礼いたします……」
ガチめに心配するガイガレオンに頭を下げ、怒りで震えるバロアは会場の裏へと。
バロアが用意した〝作戦の本番〟は第三種目のエースウィングで開始されることになっていたが、それでもこの第一、第二種目でのルカの活躍は彼にとって到底許容できる物ではなかった。
「――フィン様! ゼファー様! 準備はよろしいですか!?」
「これはバロア様。ずいぶんと顔色が悪いようですが、どうされました?」
「ど、どうしたもこうしたもありません! このままでは、この第二種目も竜騎士の大活躍で終わってしまうではないですか! 私としては、なんとしてもそれを貴方がたに阻止してもらわねば!!」
「なるほど……? それは心中お察しします」
憤怒に燃えるバロアが向かったのは、ゼファーがリーダーを務める、〝チームハッピーフェザー〟の待機場。
ちなみに、チームハッピーフェザーのメンバーは全てフィンが各地から用意したフリーの腕利き飛行士達だ。
チームドラゴンと同じく、今のところ圧倒的強さでチームフラッグスのトーナメントを勝ち上がっていた。
「ですが正直に申し上げれば、必ず勝てるという保証はありません。特にこの第二種目のルールではレヴナントの性能を発揮することはできませんし、ルカさんのチームは、彼以外もトップエース揃いですから。ぶっちゃけ、負ける要素の方が多いくらいです」
「し、しかしフィン様!」
「まあ、そう慌てないことです。私の計算が正しければ、レヴナントは第三種目の直接対決なら必ず竜騎士を打倒できる……そしてなにより、この機体を操るのは他でもない。あの〝彼〟なのですからね」
「わぁー……やっぱりルカはすごいなー……もっと近くで見られればいいのに」
そう話すフィンの視線の先。
そこには、広げた毛布の上にだらりと寝転がり、遮光ゴーグル越しにルカの活躍を見つめるゼファーの姿があった――。




