ぼっちは、助けた結果を見る。
久しぶりに準備運動もなしの激しい運動をしたからだろう。妙に目が冴えて中々寝付けなかった。諦めてベットから抜け出し、デスクのライトだけを点け退屈な内容の本でも流し見る。無理やりに寝付こうとしても無駄なので、諦めた。
そうしていたからだろう。静まり返る室内に着信音が妙に大きく鳴り響いた気がした。
Mio というハンドルネームアカウントからメールが届いていた。少しだけ溜息を吐いてから確認はする。
確実に面倒事だと思ったが、少し関わりすぎたので無視はできない。
{今日は助けてくれてありがとう。夜中にごめんなさい。明日、朝少しはやく登校できない?}
{なにかあったのか?}
{綾音が私と会って話したいって言うから、その場にいて欲しいの}
{俺いる?}
やはりそうなったの多分、置物か邪魔者にしかならないような気がする。俺がいることで好転することなんてあるのだろうか?
{貴方が、私も綾音も助けてくれたんだからいて欲しいのよ}
{気が進まない。けど、俺が与えた影響はあるから、二人から見えない所にはいる。それで、どうしてもというなら呼んでくれ。なんでも聞く}
{捻くれてるわね}
{うるさい。けど、それでいいだろ?}
{お願いします}最後は可愛い猫のスタンプが送られてきた。
「…別に良いんだがな。朝早く起きられるかが心配だな」
どこかで聞いた眠れない夜があるなら、起きられない朝があってもいいだろう、というのを思い出す。それでもスマホのアラーム機能をいつも起きる時間から一時間半早めてから、ベットに倒れ込んだ。
やはり、戦いの後は少し興奮しているようで起きた時には、身体に休みきれなかった気怠さがあった。ゾンビのように起き上がり、半目のまま朝の準備を済ませると、まだ、仕事中の母さんに気を遣いながら、そっと家を出た。
春先は早朝となると少しだけ肌寒い。日が差す場所はいいのだが、日陰に入ると寒さが身に染みる。眠気が取れるには丁度いい気温の早朝の校門をくぐる。
朝練の連中はいるので、グラウンドの方から賑やかな声は聞こえてくる。それを効果音にしながら教室に向う。時間なんかを明確にはしていないので、もしかすると氷室とアニメ声の修羅場の最中ということもある。足音をできるだけ消して廊下を歩き、教室の窓から中を覗く。
教室には氷室と大和が着席しているのが見える。他の影がないかだけ良く確認してから、驚かせないようにだけして、ゆっくりと入室する。
「おはよう」とりあえずは先に声を掛ける。
「おはよう。朝からありがとう」氷室はゆっくりと返事をした。
「おはよう。昨日は助かった……。」大和は物憂げな雰囲気を纏っている。
「…まぁ、なんでもいい。後、俺は何にも役に立たないとは思うぞ」
「それは…、私だけじゃ……不安だし」氷室はこれが本音だろう。俺がいて何とかなるものだろうか? 大和だけいればいいのではとは思うが、関わったからにはここに居るしかない。
「そろそろ席を外すか…」大和はそう言って、席を立った。
それに俺は連なって外に出る。大和はここにいてもいいのではと思ったが、それは目線で悟られた。
「綾音は澪と二人で話がしたいんだってさ」
廊下で手持ち無沙汰になりながらも、大和と時間潰す。何かを話さなくても、特に気を遣うことすらない。今は氷室がどうするのかだけに考えを巡らせる。
教室の扉を開けた音がしたので、アニメ声が来たのだろうというのはわかった。
まだ、誰もいない教室なので、話している声はよく聞こえる。センシティブな内容ならば音楽でも聞いて聞かないようにするつもりだが、居てくてと言われてここにいるので、聞こえてくる分には問題ないだろう。
「おはよう」氷室から挨拶を交わす。あくまでも物腰は柔らかで、朝の始まりを祝う言葉のようだった。
「…おはよう」対してアニメ声の声音は暗い。
「全部思い出してくれたのよね?」
「うん」
「嬉しいわ。忘れていた思い出とか、また話が出来るのね」
「なんで…」
少し声を震わせながらアニメ声は、絞り出すように堰を切ったように切り出した。
「なんで、あたしを責めないの?」
「どうしたの?」
「あたしはきっと、いつもキラキラしていた澪の事に嫉妬していた。だから、あの力は澪を操ったんだよ」
夜に出る怪物は、普通なら俺達を倒そうとしてくる。だから、いつもと違い何かおかしいとは思ったが、そういうことか。
それにアニメ声には朧気ながらも怪物の視点の記憶まで残っているらしい。
「そう。だから?」
氷室の返答は柔らかなままだった。目つきは嬉しさをも含んでいるように思えた。
「私は、私を許せない」アニメ声は俯いて、スカートの裾を握り込んだ。
「私は、綾音に操られるならいいよ」
「良くない…良くないよ。」
氷室は、そっとハグをするようにアニメ声を包み込んだ。
「私達が友達になった時の事覚えている? 二回とも」
「うん…」
「戦いの前にした約束も」
「うん…」ただ、返事をする度にアニメ声の目からは涙が溢れ続ける。
「だから、私は綾音だったら許せる」
「澪…澪…」アニメ声はもうボロボロと涙を流し続けている。
高校生という年齢だと、これだけの感情表現がストレートにできるのが少し羨ましくもある。男女の差はあるのだろうが、表裏のない感情を、考えもなしに表現できるのは、ある意味才能なのかもしれない。
それから、アニメ声が落ち着くまでの数分間は、俺たちも隠れて空気のままでいるようにしていた。




