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ぼっちは、助けた相手に過去を語る。③

「な、つまらない話だろ」

 こんなありふれた理不尽は、どこにでもあって、どうにもならないものだ。俺の中では時間が解決するだろうと蓋(ふた)をしている。それに、大和もクラスでは敢えて俺に触れに来ようとはしないからな。

「もしかしてだけど…」

「なんだよ?」言いにくそうにはしていたので、言ってもいいという含みを持たせて聞く。

「教室を密室にしたのも?」

 まぁ、ヒントは散々出ているので色々と繋がるとわかるよな。

「ああ、そうだ。でもな、教室に入った時は復讐をする目的はなかったんだ。今迄は何もなかったし、一人になる事が多くても、どうって事はなかったからな。でも、あっちから仕掛けられて、俺が仕返しできる立ち位置になった。それでついな……」

 退部する寸前に知った話だが、覗きの被害を受けた女子には彼氏がいた。それが財津(ざいつ)だった。氷室も財津と、財津とよくつるんでいる女子達が陸上部だというのは知っているはずだ。何も言わなくてもわかるだろう。

 状況的には俺を目の敵(かたき)にするのは当たり前だが、私刑を実行される事はない。退部という罰が下された以上、目に見えた害を成(な)すことはない。それでも、裏での陰口や手回しをされ、教室では俺に構おうとする奴はいなくなり、孤立するのが当たり前になった頃には、俺からも誰かに話し掛ける事すらなくなった。

 全てが面倒になったとは、俺の強がりなのだろうか、それすらわからなくなっている。


「あなたは…」氷室は何かを話そうとしだすが、戸惑ったようだ。

 少し待っても続きを話出さないので、流し目で氷室の方を確認すると、少し驚かされる。

「なぁ、なんで泣いてるんだ?」

「え?」氷室は頬(ほほ)に手を当て、一筋の伝った涙を確認する。

「大和を心配しているのか?」違うとは思ったが、俺を心配しているとも思わなかった。

「そうじゃない…と思うわ」

 氷室自身もわからないのだろう。女子は理由がなくともよく泣く。偏見ではあるが、決して間違ってはいないはずだ。

「もし、変な同情ならいらな…」

「そんな…」否定のように上げた言葉のようで、少しだけ大きく響いた気がする。

「わかってる……。だけど、全部説明すれば味方になってくれる奴はいるだろうけどな。でも、俺はそれに意味があるとは思わない」

 一番信頼していた奴らから、疑われたのだ。知らん奴らを味方にしても意味がない。

「でも、そんなことをしていれば、アナタは辛いだけよ」

「言っただろ。疲れたんだ。後は時間が解決するだろ」

「あなたは…どうして…」氷室はもう泣いていると言っていいほど涙を流している。

 きっと、俺の境遇とバカさ加減に、同情しているのだろうとは何となくわかった。

「じゃあ…、じゃあなんで私を助けてくれたの?」

「なんでだろうな」

 俺しか助けられないという状況だったというのは、理由としては一番簡単だろう。だが、俺も誰彼構(だれかれかま)わず助けるわけでもない。今の俺の状況では、普通の奴なら見捨てていた可能性は十分にある。こんな不思議空間で戦えという事ならば、それはより顕著(けんちょ)だ。

 ただ、おそらくだが、俺みたいな奴にも優しくして、バカみたいにお人好しの氷室だからなのかもな。これは自分でもよくわからない。

「あなたは、あなたを大事にしないといけないと思う…」

「そうかもな」

「あなたは…あなたは十分に優しいのだという事も知っていた方がいいと思うわ…」

「それは買いかぶり過ぎだ」

 そう応えると、氷室は少しだけ泣き笑いのような顔になる。俺のような奴の為に泣いているのは少し落ち着かないから、それには安堵した。

 それから十分程は特に何も話さない静かな時間になった。黙々と歩いていると、氷室の家の前まで着いた。やけに大きな家だったので、少し驚いたが何か感想を伝える事もない。

「今日はありがとう」

「ああ、気にしなくていい」

「それで……大和とは仲直りは…したい?」探るようにオズオスというように氷室から聞かれる。

「許せてはいない。でも、また、話ぐらいはできるようにはなりたいとは思ってしまってる感じだな」

「そう」氷室はそれを聞いて、安心したような顔になった。

何をするとは言ってはいないが、それでも俺の予感の中にも大和との仲が改善するのに、氷室の存在が影響していく気がした。

「じゃあ、また明日」

「ああ、また明日」

 そうして、俺は帰路に着く。

 夜中に急に飛び出したからだろう。寝ていたはずの母さんが俺の事をリビングで待っていた。そっと玄関に入ったとは思ったが、それでも起こしてしまったようだ。

「おかえり」

「ただいま。ごめん。起こした?」

「いいわよ…それより何かあったの?」

「まぁ、同級生からのSOSがあって、少し首を突っ込んだ」

「そう。うん? あんたなんか変わった?」

「いや? 特に何もないな」

「そう?」

 やはり母さんには、何かを隠すのは難しそうだとは思った。もう寝る宣言をして話を切り上げてしまう事にする。

「…明日も学校だから寝る。風呂だけ行ってくる」

「あっそ。」

 特に何も追求はなく。俺はシャワーだけを浴び、走り回ってドロドロになった汚れを落とし、自室へ戻る。

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