ぼっちは、助けた相手に過去を語る。
「……俺からも聞いていいか?」今度は、大和が俺に問いかける。
「俺にか? なんで力があるのかは知らん」
「そうじゃない。それはそれでいい」
こいつが俺に聞く事はそのぐらいだとは思ったから、先回りしたのだが違うのか。
「俺の頼みを聞いてくれたのは…違うな、澪を助けたのはなんでだ?」
「は?」頼んだのは大和なのに何を言っている?
「何かあるのかと思ってな…」
コイツは何を言いたいんだ?
「誰かだとか忖度はしてない。訳は知らないが、俺には力があって助けられる可能性があったんだから、やるしかないだろ」
「怪物と戦うんだぞ? 普通の奴は嫌がるはずだろ? それに俺が頼んだのにだ」
助けてくれないかと頼んだ時には確認できなかった事を、今しているのかもしれない。普通の奴が拒否する様な事を、俺が引き受けた理由が、氷室にあるのかという事なのだろう。
「進んで戦いたい訳ではない……、いや、氷室が理由かと聞いたよな? 俺が氷室に好意を持っているかってことか?」
「……そうだ」
ええい、まどろっこしい奴だ。なんでお前みたいなイケメンが俺みたいな奴の好き嫌いを探る真似しやがる。
「さっき答えた通り、俺は氷室だから助けたわけじゃない」
「じゃあ、特別な感情は無いということか?」
「無い。逆になんでそんなに気になるんだ? お前ほど氷室の側に居る奴はいないだろ」
「…近いから気になるものだろ?」
「あー、あれか…浮気が気になるって事か?」
もしかしてコイツ束縛系か? 氷室はかなり美人なので心配しているのだろうか。
「いや、そうじゃない。幼馴染だからな。澪に下心で近づく奴はかなり多い」
「あ? お前ら付き合っているんだろ?」
「…いや、澪にはそういった感情はないし、ただの幼馴染だ」意外な答えだな。知らない奴らの方が多いだろうな。
「気になってもいないのか?」こういった関係はどちらかが片思いの場合もある。
「ああ、澪にはない」
何か含みがありそうな言い方だが、まぁいい。イケメンの色恋なんてものは知った所で、なんの役にも立たない。
「まぁ、氷室の容姿じゃ気になるのはわかるが、俺が下心で誰かを助けるなんて事はないだろ。お前の頼みだろうが、俺しか何とかできないなら、やるってだけでしかない」
おそらくだが、遺恨のある大和の頼みなのに、俺が動いて助けたのであれば、氷室の方に助けた動機があると思うのは当然の流れだろう。
昔のある事件の事を鑑みれば、俺の動向が心配なのもわかる。
ただ、もし、その疑いだけで、この話をしているのであれば、俺は大和を殴るかもしれない。助けを求めた相手から疑いを向けられて、平常心は保てない。
「そうだな。確かにお前はそうなんだよな。……ありがとう。澪を助けてくれて」
「……まぁ、いいさ」気構えた分、毒気を抜かれて、こちらも久しぶりに警戒を緩めた。
確かに大和はこういう奴だった。疑うことが染み付いていたのは俺の方だったのかと、少しだけ自己嫌悪する。
ふと、寝ている氷室の方を確認する。同級生の女子の寝顔を見る機会というのは、案外少ない、凝視するつもりはないが、倒れた奴を心配する程度には見る。
ただ、氷室の目の端がピクリと動いた気がする。起きたのかと、今度は凝視すると、氷室の目がギュッと閉じられた。目を無理やり閉じた時に不自然に強張る表情になっている。コイツ……。
「…おい。バレてるぞ」何をとは言わずに、それだけを言ってみる。
「……ごめんなさい」氷室は所在なさげに目を開き、状態を起こす。
氷室はとうの昔に起きていたようだ。どこまでの話を聞いていたのかはわからないが、少なくとも、寝たふりをしたのだから、さっきの話は聞かれたと見るべきだ。
大和はやってしまったという具合に、少し頭を抱える。幼馴染だからだといって、色恋沙汰に踏み込む真似をしたのが、当人にバレたのだから当然の反応だろう。
「澪…」大和は少し戸惑いながらも氷室へ声を掛ける。
氷室は少し目を泳がせた後、プイとそっぽを向く。
喧嘩にはならないだろうが、夫婦喧嘩は犬も食わない。俺は知らん。
夜も遅いので、氷室を送っていく事になる。
時間が遅いので氷室を心配した大和は身体を引き摺ってでも、氷室を送っていくと言ったのだが、当然の如く氷室はそれを辞退する。大和は電車通学であるので終電が近いのと、昨日の戦闘ダメージが抜け切ってないらしい。
「無理しないで大和」氷室も心配から遠慮する流れになっている。
「いや…俺は…」
大和が無理しているのは俺でもわかる。これを放っておくのも違う気がした。
どうにもならない気がしたので、俺が送っていくとだけ提案して話を終わらせたのだ。
「待てよ、俺が…」大和は何か言いたげに食い下がった。
「病み上がりが何言っても説得力なんかないだろ。俺なら帰る方向自体は一緒のはずだ。それにその後自転車で家まで帰られる。私服だから補導されにくいだろ」
「わかった。すまな…いや、澪を頼む」
大和のいい所は無駄なこだわりがない所だろう。




