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妹? 13

「酷いですわ、お兄様! 私をどこぞの馬の骨とまぐわえというのですか! この高貴な、わた……く……グウゥゥーー……」


 大文字は縛られた体で立ち上がり、お腹をテーブルにくっ付けて向かいに座る俺に、その見目麗しい顔を近づけていたが、唐突に鳴った空腹の音色が彼女の言葉を掻き消す。ここに居た全員がお腹の鳴った音だとはっきりとわかったはずで、そのことに羞恥心を抱いた彼女は(たちま)ち顔を真っ赤に染める。俺たちに聞こえた健康的な響きは、彼女にとっては脈絡のない虫の知らせだったようだ。


大文字は何も言わずに自分のもと居た席に腰を下ろした。このように潮らしくしていたら本当に可愛いと思うのに、どういう足かせか、口を開くたびに幻滅する有り様である。


「あー、よし、飯にしよう! 俺は腹が減っちまったよ!! 腹が減りすぎてお腹がなっちまったぜ!!! ぐうぅぅぅーーー!!!!」


 俺はお腹を押さえ笑いながらお腹の音を気合で鳴らす。苦しいだろうがこの場の空気を変えるにはこの手しかないと俺は思ったわけで、皆にも目配せを送る。頼む皆! ここで()かさず俺を茶化して俺の腹が鳴ったと思い込んでいる振りさえしてくれれば、大文字の自尊心を保たれるはずだ。例えば、「夏樹ったらそんなにお腹すいたの? ほんと昔っから食いしん坊なんだから」とか「ナツは四六時中お腹の音を鳴らす異常者だから仕方ないね」とか「夏樹お兄ちゃんもお腹すいてたんだね。実は僕もお腹すいてたんだよ、ぐうぅぅーー!」ぐらいのパンチでお願いするぜ。


 俺の熱い視線が通じたのか春香の瞳に光彩が宿り、正気を取り戻す。春香は俺と目線を合わせると少し顔を赤くしてから小さく頷くと口を動かし始める。ウォイウォイ、目が合うだけで照れてんじゃねえよ。俺が照れちまうだろうが!


「そうね、もうこんな時間。私もお腹空いてきちゃった……ぐぅー……あっ、意外と鳴らせた……。それじゃあ私、支度(したく)するね」


 春香はそう言うと席を立ち、台所へ向かってしまった。春香、違うんだ。お前にはいつも通り、子供をあやす母性を求めていたんだ。俺のマネをしてお前の品位を下げるようなことは望んでないんだ。


 俺が春香の奇行に(でもさっきの春香、可愛かったなぁ)興奮していると、秋穂が口開けて硬直している。そう言えばこいつ、春香に憧れてよく春香のマネをしていたなぁ。そんな憧れの存在がなんか変なことしてたら幻滅するというか、開いた口が塞がらないというか。まあ、どうでもいいか。


 秋穂は意を決したのかプルプルと体を震わせながら口を動かす。


「ナツ、私もお腹空いた。グウゥ」


 秋穂はお腹の音を鳴らすと顔が”ボッ”と音でも出したかのように一瞬で真っ赤になり、”ガタッ!”と音を立てて席を立つと春香のいる台所へと駆け寄っていった。名演技だよ秋穂。お兄ちゃん感動した。お前の鳴らした腹の音は真に迫っていたよ。


「なんだ、みんなお腹空いてたんだ。実は僕もお腹空いてたんだよね。グウゥゥゥーーー!!」


 そう言って冬樹が俺の期待通りの反応をしてくれる。流石だよ冬樹。お前は俺の期待を裏切らずによくやってくれたよ。お前は本当に良い子だ。でもダメなんだ。お前までそれをやってしまうとみんな食いしん坊のおバカさんになっちまう。誰かツッコミ役がいないと可笑しなことになっちまうんだ。もういい、そんな『夏樹お兄ちゃん。僕、やってやりましたよ』みたい顔で俺を見るな、ぶん殴りたくなる。


(ああ、もう、仕方ねえ。このまま無理やりにでも押し通すしかねえ!)


 俺は仕方なく気合で押し通すことにした。


「いや、皆、お腹空いてたか! 今なら皆で腹の音ハーモニーが出来ちまうなあ!!」


 俺が大きな声でそう言うと大文字がテーブルに突っ伏していた体をむくりと起き上がらせると無表情で淡々と口を動かす。


「お兄様、皆というと所には語弊(ごへい)がありますわ。私は別にお腹の音は出していませんので適切にはお兄様、春香さん、秋穂ちゃん、冬樹君の四人です。私をその枠には入れないでいただきたいです。それとお腹の音は、とても聞くに堪えないのでお止め頂いてよろしいですか? みっともなくて仕方ありません」


 大文字は堂々とした態度で言い切った。なんだコイツ? お前のためにみんな恥を忍んで行動に移ったのに、”いや、私、今のお腹の音じゃないですから”と開き直りやがった。


 さすがの俺も今の発言には怒りを(あら)わにし、制裁を加えるべく大文字の元へと足を運ぶ。

 

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