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いらっしゃいませ!田舎町の小さな喫茶店です(裏では魔法や発明など何かしらが得意な仲間たちが悪事以外のご依頼を承ります)  作者: memsho


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9/12

8 spoonfuls


カフェの裏庭。


小さな木の柵に囲まれた薬草畑では、朝露をまとった葉が、朝の光を浴びてきらきらと輝いていた。


その畝の間に、小さな人影がしゃがみ込んでいる。


淡い桜色を帯びた、綿菓子のように柔らかな長い髪。

その髪の間から覗く、ふわふわの狼の耳には、小さな花飾りが添えられている。

背中では、柔らかな毛並みの尻尾が、ゆったりと左右に揺れていた。

くるぶしまで届く和風メイド服の裾をそっと押さえながら、白く細い指先で、一枚の葉を丁寧に確かめている。


摘み取った葉を鼻先に近づけ、そっと香りを確かめる。

そして、満足そうに目を細めた。


「………うん」

小さく頷くと、摘みたての薬草を籠の中へ丁寧に収める。


籠の中には、淡い緑色の葉や小さな紫色の花、細長い銀色の葉を持つ薬草が、種類ごとに綺麗に並べられていた。

どれも、この薬草畑で大切に育てられた植物たちだ。


「ルテリュー! ちょっといい?」


そのとき、カフェの裏口からフランの声が聞こえた。

ふわふわの狼の耳が、ぴくりと動く。


「………ん?」

「いつもの旦那様が、腰にいいお茶をご希望なの。お願いできる?」


ルテリュは少し考えるように目を伏せた。

それから、にっこりと微笑んで、小さく頷く。


「………うん」

「ありがと! じゃあ、よろしくね!」


フランはひらりと手を振り、店内へ戻っていった。


ルテリュは目の前の畝へそっと手を伸ばした。

柔らかな葉を数枚。

香りのよい小さな花をひとつまみ。

必要な分だけを丁寧に摘み取ると、籠を持って立ち上がった。


「………できた」


ふわふわの尻尾が、嬉しそうにゆったりと揺れる。

ルテリュは摘みたての薬草を抱え、カフェの中へ戻っていった。



カフェスペースでは、おじいさんとおばあさんが楽しそうにおしゃべりをしていた。


「それでねぇ、昨日、この人が大事に育てていたカボチャが、ようやく立派に実ったんですよ」

「そりゃあ見事なカボチャでのぉ! わしの顔より大きかったんじゃ!」


おじいさんは嬉しそうに両手を広げてみせた。


「それで、いつものようにひょいっと持ち上げようとしたんじゃが……いやはや、思ったよりずっと重くてのぉ」

「ふふふ。この人ったら、いつもどおり持てると思っていたみたいなんですけど、あんまり重たくて、腰を痛めちゃったんですよ」

「ば、ばあさん! そこまで話さんでもよかろう!」

「あらあら。でも、腰にいいお茶をお願いしたのは、あなたでしょう?」

「むむ……それはそうじゃが……」


おじいさんは困ったように白い口ひげを撫でた。


「ふふふ。だから二人で運びましょうって言ったのに」


おばあさんはくすくすと笑ったあと、向かいに座るおじいさんの目を優しく見つめた。


「でも、それだけ立派に育ったってことですものねぇ。よかったですね、あなた」


その眼差しには、長年連れ添ってきた相手を気遣うような、柔らかな優しさがにじんでいた。

おじいさんはそんなおばあさんの顔を見て、少し照れくさそうに笑った。


その様子を見ていたフランも、思わず頬を緩めた。


黒い猫耳が小さく揺れ、尻尾の先がぴこりと弾む。

いつものお二人は、今日も仲睦まじい。


フランはそんなことを思いながら、そっと微笑んだ。


そのとき、奥の扉が静かに開いた。


ルテリュが、小さな籠を両手に抱えて姿を現した。


「………おはよう」


柔らかな微笑みとともに、小さく会釈する。


「あらぁ、ルテリュちゃん! 今日も可愛いわねぇ」


おばあさんが嬉しそうに手を振った。

ルテリュは少し頬を染め、ふわふわの狼の耳を小さく揺らした。


「………ありがとう」

「ルテリュちゃん。今日も頼むぞい」

「………はい」


ルテリュはにっこり微笑むと、調合台へ向かった。


まずはおじいさんのために。

籠から摘みたての薬草を取り出し、一枚ずつ丁寧に水で洗う。

小さな陶器の器に葉を入れ、香りを確かめながら、別の薬草を少しずつ加えていった。


さらさら。

ことん。


小さな匙が器に触れ、澄んだ音を立てる。

やがて、温めたティーポットへ薬草を移し、ゆっくりと湯を注いだ。


ふわぁ………。


甘く爽やかな香りが、カフェいっぱいに広がった。


ルテリュはポットの中をじっと見つめ、頃合いを確かめる。

そして、淡い琥珀色に染まったお茶を、白いティーカップへ静かに注いだ。


続いて、おばあさんのために、いつもの花茶を淹れる。

こちらは淡い黄金色のお茶で、熟した桃を思わせる、甘くみずみずしい香りが特徴だ。

二つのお茶ができあがると、ルテリュは客席から見えない調合台の奥へ、そっとカップを寄せた。


それから静かに目を閉じた。

胸の前で両手を重ね、静かに心を澄ませる。


――おじいさんの腰が、早くよくなりますように。

――おばあさんが、今日も穏やかで安らかなひとときを過ごせますように。


その願いに応えるように、ルテリュの指先に、小さな光がぽっと灯った。

淡い桜色の光。

ルテリュがそっと両手を開くと、それは春風に舞う桜の花びらのように、ひらり、ひらりと指先を巡っていく。

やがて光の花びらは、二つのティーカップの上へ静かに舞い降りた。


一枚、また一枚。


お茶の表面に触れると、花びらは小さな光の粒となり、すうっと溶け込んでいく。


琥珀色のお茶には、体をいたわる優しい癒やしを。

黄金色の花茶には、心を穏やかにする安らぎを。


最後の光が消えると、ルテリュはゆっくりと目を開けた。

ふわふわの狼の耳が小さく揺れる。


「………うん」


二つのカップからは、先ほどと変わらない、柔らかな湯気が立ちのぼっていた。

ルテリュは満足そうに微笑むと、二つのカップを小さなトレーに並べ、静かに窓際の席へ向かった。


「………どうぞ」


おじいさんとおばあさんの前に、それぞれのカップをそっと置く。


「おお、ありがとう!」

「ありがとうねぇ、ルテリュちゃん」


ルテリュはにっこり微笑み、小さく頷いた。

おじいさんは湯気をふうふうと冷まし、ひと口飲んだ。


「ほぉぉ………!」


白い眉が、嬉しそうに持ち上がる。


「これはうまい! 体の芯まで、ぽかぽかしてくるわい!」

「まあ、素敵! よかったわねぇ」


おばあさんも花茶をひと口飲むと、ほうっと安らかな息をつき、満足そうに目を細めた。


「いつもと同じ、変わらない味といい香り。やっぱりルテリュちゃんのお茶は美味しいわねぇ」


ルテリュは二人の嬉しそうな表情を見て、ほっとしたように目を細めた。


もう何年も顔を合わせている、大好きなおじいさんとおばあさん。

それでも、人見知りなルテリュは、二人を前にすると、今でも少し緊張してしまう。


言葉数が少ないのは、いつものこと。


ルテリュにとっては、それがごく自然な話し方だった。


おじいさんとおばあさんも、そんなルテリュのことをよく知っている。

だからこそ、短い言葉にも優しく耳を傾け、いつも温かな笑顔を向けてくれるのだった。


ふわふわの狼の耳が少しだけ持ち上がり、尻尾が嬉しそうにゆっくりと揺れた。


「………よかった」



ルテリュは小さな声でそう呟くと、少し照れくさそうに微笑み、ぺこりと頭を下げた。

窓から差し込む柔らかな朝の光が、この優しい空間を包み込んでいた。


そのとき、厨房の方から、焼きたてのお菓子の甘く香ばしい香りがふわりと漂ってきた。


「お待たせいたしました!」


明るい声とともに、フランが大きなトレーを手に姿を現した。

トレーの上には、こんがりと焼き上がった二種類のスコーンと、小さな花の形をしたクッキーが、可愛らしく並んでいる。


フランの黒い猫耳がぴんと立ち、尻尾の先が楽しそうに揺れた。


「スコーン二種と、季節の花クッキーをお持ちしました!」

「おお、これはまた、美味しそうじゃのぉ!」


おじいさんは嬉しそうに目を細め、向かいに座るおばあさんも柔らかく微笑んだ。


お茶の優しい香りに、焼き菓子の甘い香りが重なっていく。


カフェ・ポルミの穏やかな朝は、まだまだ続いていた。






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