7 spoonfuls
ここは、カフェ・ポルミ。
森と川に囲まれた小さな田舎町、フィルネッタにひっそりと佇む、小さな喫茶店。
クリーム色の壁に淡い緑色の屋根。白い窓枠には蔦が絡まり、庭先では色とりどりの花々が風に揺れている。
窓から差し込む柔らかな朝日が、木製のテーブルを温かく照らしていた。
厨房からは、焼きたてのスコーンの香ばしい匂いが漂ってくる。
小鳥たちのさえずりが聞こえる、穏やかな朝。
そんな静かな空気を、軽やかなベルの音がくすぐった。
チリリン♪
「いらっしゃいませ!」
フランがすぐさま顔を上げ、にこやかに入り口へ向かった。
「おはようさん、今日も元気だねぇ、フランちゃん」
扉から顔を覗かせたのは、白い口ひげを蓄えた、小柄なおじいさんだった。
その隣には、ふっくらとした頬が愛らしい、白髪のおばあさん。
二人とも、カフェ・ポルミには毎日のように顔を出す常連客だ。
「おはようございます。いつものお席、空いておりますよ」
「おお、そりゃありがたい。ほら、ばあさん。今日も窓際が空いとるぞ」
「あらあら、そんなに急がなくても、お席は逃げませんよ」
おばあさんがくすくす笑う。
「この人ったら、朝からずっと『今日もポルミのスコーンを食べるんじゃ』って楽しみにしていたのよ」
「ほっほっほ。毎朝の習慣になっておるからな」
おじいさんは白い口ひげを撫でながら、窓際の席へ目を向けた。
「ポルミのメニューは何でもうまいし、お茶も格別じゃ。それに、あの席から眺める庭も見事じゃ。いつ来ても色とりどりの花が咲いとって、小鳥たちが遊びに来る。」
おじいさんはおばあさんの方へ顔を向け、優しく続けた。
「そんな庭を眺めながら、ばあさんとゆっくりお茶を飲むのが、わしの一番の楽しみでのぉ」
「あらあら、そんなことを言って」
おばあさんは少し照れくさそうに微笑んだ。
フランも、二人の様子に思わず頬を緩める。
おじいさんは目を細め、窓の向こうへ視線を向けた。
丁寧に手入れされた庭には、季節の花々が咲き誇り、その間を小さな小鳥たちが楽しそうに飛び交っている。
花壇の縁にちょこんと止まった一羽が、澄んだ声でさえずると、もう一羽が応えるように鳴いた。
「ふふっ。ちょうど今、カルシティルがスコーンを焼き上げたばかりですよ」
「おおっ! そりゃますます楽しみじゃ!」
二人を窓際の席へ案内すると、フランは手際よく椅子を引いた。
おばあさんが腰を下ろすのをそっと支え、おじいさんの杖も、手の届きやすい場所へ立てかける。
「さて、ご注文はいかがなさいますか?」
フランがにっこりと微笑み、注文帳を開いた。
「わしはスコーンを二つじゃな。今日は何がおすすめかね?」
「本日のおすすめは、はちみつミルクのスコーンと、焼きりんごとシナモンのスコーンでございます」
「ほほう! どちらもうまそうな名前じゃのぉ」
「はちみつミルクは、外はさっくり、中はふんわり。蜂蜜とミルクの優しい甘さが特徴です」
フランは説明しながら、焼きたてのスコーンを思い浮かべた。
さっくりとした生地を割ったときに広がる、甘い香り。ふんわりとした中身に、蜂蜜とミルクの風味がじんわりと広がる。
……ああ、なんだか自分まで食べたくなってきた。
そんな気持ちをそっと胸にしまい、フランは何事もなかったように説明を続ける。
「焼きりんごとシナモンの方は、甘酸っぱいりんごをたっぷり練り込んでおりまして、しっとりとした果肉の食感と、香ばしい生地の組み合わせが楽しめます。シナモンの香りも、とってもいいんですよ」
「おおお………! 聞いているだけで腹が減ってくるわい!」
おじいさんは白い口ひげを嬉しそうに撫でた。
「よし! それなら一つずつ頼もうかの!」
「かしこまりました! はちみつミルクのスコーンと、焼きりんごとシナモンのスコーンを一つずつですね」
フランが注文帳にさらさらと書き込む。
「それと………」
おじいさんは少し顔をしかめ、腰をとんとんと叩いた。
「最近、どうも腰が重くてのぉ。今日は腰にいいお茶をお願いできるかね?」
「もちろんです。リュネに相談してみますね」
「おお、ありがたい。あの子の淹れるお茶は、香りも味も格別じゃし、飲むと不思議と体の痛みが和らぐんじゃよ」
「ふふっ。伝えておきます。きっと喜びますよ」
フランは微笑んでから、おばあさんへ顔を向けた。
「奥様はいかがなさいますか?」
「そうねぇ。私は季節の花のクッキーをいただこうかしら」
「今日は秋のコハクリアを使ったクッキーです。キャラメルのような甘く香ばしい香りがするんですよ」
「まあ、素敵! それをお願いするわ。それから、お茶はいつものを」
「かしこまりました! 少々お待ちくださいませ」
フランは注文帳をぱたんと閉じ、軽やかな足取りで厨房へ向かった。
「カルシティル! 本日のスコーンをそれぞれ一つずつと、季節の花のクッキーを一皿お願い!」
「はぁい! すぐ用意する、よぅ!」
厨房の奥から、カルシティルの明るい声が返ってきた。
「それから、ルテリュは………」
フランが調合棚の方へ目を向ける。
けれど、そこにリュネの姿はなかった。
「あら? また薬草畑かしら」




