2spoonfuls
魔法と発明が存在する世界の、
小さな田舎町にある喫茶店を舞台にした、
ほのぼのしてたい異世界転生ファンタジーです。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
至らぬ点や不行き届きも多々あるかと存じますが、
何卒ご寛容のほどお願い申し上げます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
朝日が差し込む部屋で、 チタンはゆっくりと目を開けた。
カフェ・ポルミの三階。
廊下の一番奥に、チタンの部屋がある。
室内には大小さまざまな時計が並び、 規則正しい針の音が響いていた。
備え付けの本棚には、 数えきれないほどの書籍が分野ごとに整然と並べられ、 窓際の机には時間魔法の研究書やノートが きちんと揃えて置かれている。
その隣では、銀色の砂が下から上へと流れる不思議な砂時計が、 淡い光を放っていた。
どこを見ても手入れが行き届いており、 部屋の主の几帳面な性格がうかがえた。
そんな部屋の主であるチタンは、 すらりと背の高い青年だった。
銀色に淡いラベンダーを混ぜたような長い髪を、 うなじのあたりでひとつに束ね、腰まで垂らしている。
チタンはベッドから起き上がると、 枕元の銀縁の眼鏡を手に取り、そっとかけた。アクアマリンを思わせる透き通った淡い青色の瞳がのぞいている。
身支度を整え、白と濃紺を基調とした服に袖を通す。 最後に、銀色の懐中時計を内ポケットへしまった。
カチ、コチ。
カチ、コチ。
今日もまた、穏やかで正確な時間が流れていた。
いつもと変わらない朝。
……のはずだった。
「……?」
突然、見覚えのあるような、ないような光景が脳裏に浮かんだ。
窓の向こうに、見上げるほど高い建物が並ぶ街。
道を走る、馬のいない乗り物。
人々は小さな板のようなものを手に持ち、 誰かと話したり、画面を指先で操作したりしている。
そして、ある部屋の机には、 黒くて薄い、不思議な板のようなものが置かれていた。
その表面には無数の文字や記号が光り、 傍らには茶色い液体の入ったカップがひとつ。
「……これは……?」
チタンは眉をひそめた。
知らないはずの景色。
けれど、なぜだろう。
そこにあるものの名前も、使い方も、 なぜか知っている気がする。
そのとき――。
――ズキンッ。
「……っ!」
突然、頭の奥に鋭い痛みが走った。
「……パソコン……?」
思わず口にした言葉に、自分でも驚く。
そうだ。
あれはパソコンだ。
画面に映る文字を読み、 キーボードを使って文章を入力する。
調べ物をしたり、計算をしたり、 さまざまな作業を行うための道具。
使い方を教わった記憶などない。
それなのに、指先の動かし方まで分かる。
チタンは額を押さえた。
視界が揺れ、次々と新しい光景が浮かび上がる。
電気の明かりに照らされた部屋。
人々でにぎわう駅。
道路を行き交う自動車。
空を飛ぶ飛行機。
そして、青く美しい星。
「……地球……?」
その名前を口にした瞬間、胸の奥で何かが静かに動いた。
地球。
日本という国。
そこで過ごした日々。
朝の街並みや、誰かと交わした会話。
何気なく目にしていた景色。
それらが、次々とよみがえってくる。
けれど、不思議なことがあった。
その記憶は、遠い昔の出来事のようには思えなかった。
まるで、ほんの少し前まで、そこにいたかのように。
「……妙ですね」
チタンは静かに目を閉じた。
見覚えのある街並み。
聞き覚えのある声。
そして、そこで暮らしていた自分自身。
その一方で、フィルネッタの町で過ごしてきた日々も、カフェ・ポルミの仲間たちとの思い出も、変わらず鮮明に残っている。
どちらの記憶も、奇妙なほど自然だった。
「……これは、いったい……?」
そう呟いたときだった。
頭の中で、何かが静かにつながり始めた。
地球で学んだ知識。
ミュルネフィアで身につけた魔法の理論。
今まで別々だったはずのものが、互いを補うように結びついていく。
地球で知っていた物理法則が、時間魔法の仕組みを考える新しい手がかりになる。
逆に、魔法の知識を重ねることで、地球の技術にも、これまで思いつかなかった可能性が見えてくる。
まるで、ばらばらだった本のページが、正しい順番に並び直されていくようだった。
やがて、頭の奥の痛みがゆっくりと消えていく。
二つの異なる場所で得た記憶と知識が、どちらも失われることなく、自然に溶け合っていった。
新しい何かを覚えたというよりも、ずっと知っていたことを思い出したような、不思議な感覚。
そして、いつしか、その違和感さえ薄れていく。
「……ふむ」
チタンは机の上の研究ノートを開いた。
そこには、昨夜まで考えていた時間魔法の計算式が途中まで書かれている。
この先を、どうしても書き進められなかったことを思い出す。
しかし、今なら。
「……この考え方を応用すれば……」
チタンはペンを取り、数行の式を書き加えた。
そして、しばらく眺める。
「……なるほど」
小さく頷いた。
今まで思いつかなかった考え方が、驚くほど自然に浮かんでくる。
もちろん、すべてを理解したわけではない。
まだ知らないことも、分からないことも、数えきれないほどある。
それでも、これまでの知識を組み合わせれば、新しい発見ができるかもしれない。
チタンは研究ノートを静かに閉じた。
窓の外には、朝日に照らされたフィルネッタの町が広がっている。
石畳の道。
遠くに見える森と川。
ここはミュルネフィア。
魔法が存在する世界。
そして、今の自分が暮らしている場所。
先ほどまで浮かんでいた数々の疑問も、いつの間にか遠のいていた。
地球の記憶は、もう特別なものではなくなっている。
まるで、最初から自分の中にあったかのように。
窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
チタンは小さく息をついた。
「……さて」
チタンは内ポケットから懐中時計を取り出し、銀色の蓋を開いた。
カチ、コチ。
カチ、コチ。
秒針は、いつもと変わらない速さで時を刻んでいる。
懐中時計を閉じ、部屋の扉へと向かう。
窓の外からは変わらず、 小鳥のさえずりが聞こえる。
一階の厨房ではカルシティルが 開店準備をしている頃だろう。
今日もまた、いつもと変わらない一日が始まる。
――はずだった。
ドッゴォォォォンッ!!
突然、建物全体を揺るがすような轟音が響き渡った。
「きゃあああああああっ!?」
一階から、カルシティルの悲鳴が聞こえてくる。
「……っ!? いったい何事ですか!?」
チタンは一瞬身を強張らせたものの、 すぐに冷静さを取り戻し、部屋の扉を開けた。
このたびは、お読みくださり誠にありがとうございます。
何分にも執筆を始めたばかりの未熟者でございますゆえ、
誤字脱字や拙い表現、読みづらい箇所など、
至らぬ点も多々あるかと存じます。
お見苦しい点もあるかと存じますが、
何卒ご寛容のほどお願い申し上げます。
まだまだ勉強不足ではございますが、
一つひとつ学びながら、精進してまいる所存でございます。
今後とも温かくお見守りいただけましたら、
幸いに存じます。
引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。




