8.毒属性と辺境伯
辺境伯が来てしまえばお役御免になると思っていたのだが、当日も残れとのことだ。
盛大なお出迎えをしているようだが、俺は厨房で待機していた。
食事の準備はほぼ終わっている。
代官屋敷に勤める者で、俺の目の前で毒を盛るやつなんていないだろう。
ボケっと待っていたらようやく食事会がはじまった。
厨房の中は大忙しなので、邪魔にならないように隅の方でボケっとしていた。
いよいよデザート、もうすぐお開きだ。
デザートは辺境伯が準備した果物が出されるとのことで、事前に運びこんでいたものを辺境伯の給仕たちが運ぶためにやってきた。
食事会場。
「辺境伯様、この度は珍しい果物をわざわざお持ちいただきましてありがとうございます」
代官がデザートを辺境伯が用意してくれたものであることを伝えつつお礼を述べる。
「なに、うまかったのでな、是非皆にも食べてもらおうと思ったのだよ」
食事会の参加者が口々にお礼を述べている。
「ちょっとすいません」
そこにヴェノムが飛び出した。
「代官、この者は」
「こ、こやつはあの」
口ごもる代官。
セバスが助け舟をだす。
「こちらは毒の専門家で、辺境伯様がいらっしゃるとお聞きした際に予防のために臨時で雇ったものでございます」
「そうか、代官よ。そんなに気を使わなくてもよいのだぞ」
「恐れ入ります」
「して、毒の専門家よ。毒でも盛りにきたか」
辺境伯の冗談に場が和む。
「恐れながら辺境伯様。発言をお許しいただけますでしょうか」
「うむ、食事ももう終わりだ。余興ということで特別に許そう」
「ありがとうございます」
代官は脇であたふたしている。ヘタレだからな。
「辺境伯様。ヒ素という毒をご存じでしょうか」
「ああ、聞いたことはあるな。無味無臭だが、少しづつでも食べ続けると体に溜まり、いずれ命を奪うと」
「さすがは辺境伯様。博識でいらっしゃいます」
「おお」
「流石だ」
皆が辺境伯を褒めそやす。
「ご覧になったことは」
「流石にそれはないな」
「辺境伯様の果物にかかっているのがそれでございます」
「何!」
場が凍り付く。
「おい!ヴェノム。いいかげんにしろ!」
代官が慌てふためく。
「そしてそこの給仕の指にも同じものが」
ヴェノムが指差した女給仕が目を見開いて硬直する。
「そのものを捕らえよ」
すぐさまセバスが指示を飛ばす。
「ヴェノムとやら、儂のからだにはもうヒ素が溜まっているのか」
「はい、少しですが」
「そうか。なんとか取り出すことはできんか」
「できますよ」
「そうであろうな、からだに溜まった毒をとりだすなど…、できるのか?」
「できますけど私の見立てでは、健康に害をなすほど溜まっているようには見えません」
「そうか、だが解毒できるなら頼みたい。望みの褒美をだそう」
「ところでこの給仕は最近雇ったのですか」
他の従者に問いかける。
「いや、彼女、トリートは昔から代々仕えている者だ」
「彼女があんなことするなんて信じられません」
「妹思いの優しい子です」
周りの侍従達がトリートを擁護する。
「辺境伯様、お話を聞く限り、この子は誰かに脅されていたのではないでしょうか」
「う、うむ、そうかもしれん」
「貴族殺しは家族もろとも縛り首だ!」
空気の読めないヘタレ代官は無視。
「そうすると、この子を処分しただけでは何も解決しません」
「そうだな。黒幕を見つけなければならない」
「ということで、この子を預からせていただいてもよろしいですか」
辺境伯の食事にヒ素を混ぜていた給仕トリートは17歳。
代々辺境伯に仕えていた。
ただ父母はすでに亡くなっていて、残る身内は幼い妹ひとりきりだった。
将来的には妹も給仕になるはずだが、働くにはまだ幼すぎた。
彼女は若いながら働き者で、仲間内の評判もよかった。
辺境伯からの信頼も篤く、若くして食事の給仕役になるほどであった。
ある日、あきらかに彼女の様子がおかしくなった。
彼女曰く、妹が病気になったらしい。
給仕仲間は、仕事を休んで看病することを進めたが、彼女が規定以上に休むことはなかった。
仲間もそんな彼女を心配していたが、働くという彼女の意思を尊重した。
それが1月ほど前のことだ。




