6.毒属性はモテたい
いつも間にか「毒使い」ということで街で有名になっていた。
毒使いなんて二つ名は危険な香りしかしないが、決して嫌われているわけではない、と信じたい。
俺は毒の治療もできるので、毒がらみで何かあれば、みんな俺のところに来るのだ。
教授が必死に研究していた解毒を簡単にやってしまうのは少し悪い気もしたのだが、教授自身気にしていないようで、人が救われるならそれに越したことはないと、言ってくれた。
ほんの少しだけ寂しそうに。
吸収した毒は瓶さえあれば保存できるのだが、非常に少量だ。
例えば嚙まれると患部が腫れあがる赤毒蟻だが、腫れた個所から毒を吸収しても一滴にも満たない。
一応各魔獣の毒はサンプルとして保管はしてあるが、自分で作る毒の方が汎用性が高い。
ただとても大きな問題がある。
毒使いはモテないのだ。
毒の治療とかもしてるのに。
「何故だ…」
「いやお前、性格悪いからな」
冒険者組合で愚痴っていると顔見知りの冒険者が真顔で教えてくれた。
「俺のどこが性格悪いんだよ!」
「お前気に入らない奴に容赦ないからな」
他の冒険者も話に加わってくる。
「そうそう、お前に喧嘩売ってきた奴、半日ここで麻痺させてただろ」
「ああ、あれは酷かった。麻痺が解けたとたんに漏らしてたよな」
「あれは喧嘩売ってきた方が悪いだろう」
「確かに喧嘩売った奴の方が悪い。もともとそいつは評判よくなかったしな」
「だろ?」
「でもなあ、限度ってあるよなあ」
「受付のお姉さんも引いてたぞ」
「ちゃんと掃除もさせたじゃないか」
「いやいや、漏らして逃げようとしたあいつをもう一回麻痺させてその場にすっころばせて掃除してから帰れって」
「あいつ転んだもんだから、自分の小便まみれになって掃除してたよな」
まあ、敵には容赦しなかったのは事実だ。
だからモテないってのはおかしいと思う。
そんなある日、薬師組合に街の代官からの使いが来た。
「毒使いに仕事を頼みたい、ということなのよ」
この世界、貴族が「統治」はしているが、住民の大半を占める平民が貴族に接触することなどない。
貴族と接する平民は大商人か徴税人位であろう。
平民は貴族を敬っている、というより恐れている。
切り捨て御免が認められているからだ。
平民の生殺与奪権を貴族が持っているといっていい。
たまたまその日、俺は冒険者組合の依頼をこなしていたので、薬師組合にはいなかったのだが、明日迎えに来るので待っていろと伝言を残してその日は帰ったそうだ。
「えー、いやだなぁ。行かないと駄目ですかね」
「あんた何言ってるのよ!貴族様の依頼を断れるわけないでしょう!頼まれたのは私なんだから、明日は絶対いてよね!」
貴族の頼みはどうでもいいが、受付のお姉さんの頼みなら断れない。
「教授、なんだと思いますか」
「まあ、身内が毒にやられたとかじゃないかな」
「そうですよねー、でも治療に失敗したらどうなりますかね」
それを聞いて、教授と受付のお姉さんの顔が青くなる。
「ヴェノムなら大丈夫よ!どんな毒だって治せるんだから!」
「毒なら治す自信はあるんです。でも毒じゃなかったら多分どうしようもないんですよ」
そこで二人は事の重大さに気づいたようだ。
「教授!夜逃げしましょうか!」
「夜逃げ!」
受付のお姉さんがわりとマジで教授に提案する。
「そこで二人にお願いがあります」
「な、なんだ。なんでもいってくれ」
「俺はたまたまここに住まわせてもらってるんですけど、薬師組合とは何の関係もない、ただの旅人だってことにしてもらえませんか?」
「ちょっと、何言ってるのよ!」
「何かあったとき、ここに迷惑かけたくないんですよ。お世話になりましたから」
二人が顔を見合わせる。
「夜逃げもしないでくださいね。できれば帰ってきますから」
翌日
教授が自分の一張羅を用意してくれたが、断った。
なぜか顔見知りの冒険者や街の人たちが大勢見送りに来て遠巻きに見守っている。
俺はこれから戦場にでも行くのか?それとも逮捕された逃亡犯か?
護衛に囲まれた迎えの馬車に乗り込むとあちこちから声が上がった。
「ヴェノム!」
「帰って来いよ!」
「待ってるわよ!」
馬車の中には執事(?)が一人。
「皆に好かれているのですね」
「いえいえ、ただの野次馬ですよ」
「失礼、申し遅れました。私、代官屋敷の執事長セバスと申します」
セバスキター!どっからみても執事だもんね
「ヴェノムと申します。一応職業は冒険者ということになるんでしょうか」
「急なお呼び立てをしましたが、ご都合はよろしかったでしょうか」
「正直なところ行きたくはないんですが、周りがそれを許してくれないので」
「ふぉっふぉっふぉ、そうですか。では街の者にも感謝しなければいけませんね」
「ははは、では依頼内容をお聞きしても」




