第31話 幼馴染王子を籠絡するなんて簡単です
宮殿の使用人に、ペンと紙を持ってきてもらった私は、さらさらとイブラーク王子への手紙を書く。
イブラーク王子様
先日は、私ともう一度結婚したいと言って下さって嬉しかった。
あの時は、素直になれませんでしたが、もう一度二人の将来についてお話がしたいと思います。
最近、夫は冷たく、今の生活を悲観しております。
どうか、助けて下さいませ。
宮殿の2階のバルコニーで、お待ちしております。
もし、来て下さらなければ、身を投げて死にます。
シェイラ・アースキン
考えてみれば、2階のバルコニーから身を投げたくらいでは死なないだろうが、まあ、いいだろう。
あの甘えん坊で女好きの王子様なら、引っかかるに違いない。
私は、使用人に手紙をイブラーク王子に渡してくるように頼むと、舞踏会が行われている宮殿の2階のバルコニーに出た。
夜風が少し寒く感じる。
「シェイラ!」
私のいるバルコニーに飛び出して、叫ぶイブラーク王子。
「待っていたわイブラーク!」
私は、子供の頃のように、彼を呼び捨てにした。
イブラーク王子は、私をしっかり抱きしめた。
「ああ、来てくれて嬉しいわイブラーク」
私は、そう言った。
「馬鹿な事を考えるんじゃないよシェイラ」
王子の私を抱きしめる腕に力が入る。
「アンリーヌなんか見てないで、もっと私を見て」
私は、そう王子に訴えかける。
「すまないシェイラ。私は彼女を愛してしまった。もう君が幸せでも不幸せでも、私には何も出来ないんだ。私と彼女の結婚を祝福してくれ」
王子は、そう言う。
はあ?何よ、ちょっとは迷いなさい!
「駄目よ。あの女は、恐ろしい悪魔かもしれないの。国王とお兄様を毒殺しようとしたのは、あの女に違いないわ。目を覚まして、イブラーク。私が、欲しくないの?」
私は、食い下がる。
「君の気持ちは嬉しい。そうだ、君を公妾にしよう。一生身分は保証する」
欲しくないの?という私の言葉に反応したイブラーク王子が、暴走気味になってきた。
その言葉に腹を立てた私は、彼の突き飛ばし、顔をひっぱたく。
「アースキン伯爵家の娘を舐めるんじゃない!誰が、あんたの妾になんてなるものか!私は、あの女が危ないって教えてあげてるの!いい加減、目を覚ませ馬鹿王子!」
ああ、もう誘惑も籠絡もあったもんじゃない。
私は正直者なのだ。
やはり、嘘はつけない。
「君こそ、アンリーヌを侮辱するんじゃない!見た目も高貴さも知性も、全て君より彼女の方が上だ!嫉妬で、そんな事を言っても、君を正妻には出来ないぞ!」
イブラーク王子が、言い返してきた。
最初は、こっちが誘惑したせいで、何かおかしな事になっている。
「嘘に決まってるでしょ、ちょっと、からかっただけで調子に乗るんじゃないわよ!そういうところ、昔から変わらないわね。この女好き!」
私は、逆切れした。
「そっちから誘い出しておいて、なんだその態度は!そんなんだから、君とは離縁したんだ!」
イブラ―ク王子が、怒った。
「何よ!あんたなんか、こっちから願い下げよ!」
私は、王子の綺麗な金髪に掴みかかって引っ張る。
幼馴染だけあって、遠慮はない。
「あいたたた!!」
それを振り払うと、王子は逃げ去った。
「あー疲れた」
私は、疲れた顔で、ジョナルド様の横に戻る。
「駄目だったか…」
何かを悟った旦那様は、そう言った。
「あら、先ほどはイブラーク王子と逢引きなされていたようねシェイラ様」
アンリーヌが、自信満々の顔で、私に近寄ってきて言った。
「私、夫の浮気には寛大なの。どうぞ、これからも仲良くしてやって下さいね、シェイラ様。妾でも愛人でも、お好きな形で結構よ。あなたみたいな年増じゃ、もう正妻は無理ですものね」
彼女は、高笑いしながら私をからかった。
「あーどうでもいい。そういうの、どうでもいいわ。あなた、悪魔なんでしょう?さっさと正体見せなさいよ」
私は、ジト目で彼女を見ながら、無気力気味に言った。
「やめてくれ、シェイラ。私はいくらでも文句を言われてもいい。それだけの事を君にした。しかし、アンリーヌを侮辱するのはやめろ。彼女ほど素晴らしい方は、他にいない」
アンリーヌの後ろから現れたイブラーク王子が、彼女を後ろから抱いて言った。
「嬉しいわ、私のイブラーク王子様」
きらきらした瞳で、アンリーヌがイブラーク王子を見上げる。
二人は、そのまま去っていった。
「あいつら、許せない!」
私は、ワイングラスを地面に叩きつけた。
使用人が、割れたグラスを素早く片付ける。
「えーん!あいつら、ひどすぎる!」
私は、ジョナルド様の胸に顔を埋めて泣いた。
今日のところは、負け犬の様に帰るしかない。
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