第30話 理想のハイスペックイケメン貴族は死なない
私達夫婦は、シールド名誉騎士団の本部にあるクライシ―卿の事務室に呼び出されていた。
「結局、エミリアン卿だった海魔は死に、アンリーヌ・マドロディが事件に関わっているかの確たる証拠は無いままだ。イブラーク王子が庇っているので、手も出せない」
クライシ―卿が、現状を説明する。
「エミリアン卿が、海魔だった事については、どう言ってるの?さすがに言い訳出来ないんじゃない?」
私は、エミリアン卿が海の悪魔だった事についてアンリーヌが、どう答えたのか聞いた。
「兄が海魔と入れ替わっていたなんて信じられない。どうりで、あんな恐ろしい事が出来るわけだわ…だそうだ」
クライシ―卿は、ため息をついた。
「イブラーク第二王子の婚約者という立場は、とても強い。王子は彼女に夢中の様だし、簡単ではないな」
ジョナルド様が、言った。
「そこで、シェイラ様には、再び王子の開催する舞踏会に出席して貰いたい。それとなく、アンリーヌ・マロディの動向を探って欲しいのだ。参加者への聞き込みも頼む。当然、報酬も出る」
クライシ―卿が、私に頼んできた。
「報酬が出るという事は仕事。ジョナルド様、私も仕事を持つ身になりました。使用人を増やして、私を家事から解放して下さいませ。お金は、私が払います」
私は、胸を張って言った。
「うーむ、仕方ない」
ジョナルド様は、了承してくれた。
これで、毎日を家事で忙殺される事も無くなる!
私達夫婦はまた、イブラーク第二王子の主催する舞踏会に出席した。
王子は、アンリーヌに入れあげており、彼女の為に舞踏会を開催する回数が増えている。
得意になって、美しい彼女を連れまわし、自慢していた。
少し前までは、私に復縁を願っていたというのに!
ジョナルド様は、会場に用意された軽食にパクついている。
「また、そんなに食べて!少しは、細くなりなさい!」
私は、旦那様の腹の肉を、思いきりつねった。
「あいたたた、これが変身の力になるんだ」
旦那様は、そう言って冬眠前の熊の様に食べ続ける。
確かに一度変身すると綺麗に腹筋が割れ、絞れた体になる。
太って見えるのは、筋肉が多すぎるからで、いくら食べて貯め込んでも脂肪はすぐに無くなってしまう。
しかし、私の理想は長身の細マッチョだ。
こんな筋肉ダルマの旦那様を、どうして好きになったのだろうか?
「美しいお嬢様、一曲踊っていただけませんか?」
そう、こんな感じで、すらっと長身の…。
私は、誘ってきた紳士に目をやって思った。
「なっ!!」
私は、息を飲んだ。
そこには、笑顔で立つエミリアン卿の姿があった。
「おほほほ、イブラーク王子が探索隊を出してくれて、森で倒れているお兄様を見つけて下さったのです。悪魔と入れ替わられて、打ち捨てられていたのですわ。お可哀想に。見つけて下さったイブラーク王子には、感謝の言葉もありません」
横には、アンリーヌとイブラーク王子が立ち、笑顔で事情を説明する。
ちょっと待て。
なんでそんな理屈が通るのだ?
そんなのもう、なんでもありじゃないの。
この女、王子の寵愛をいい事に好き勝手やっている。
「せっかく誘って下さっているんだ。踊ってきたらどうだ?」
いつの間にか食事をやめて、私の横に立つジョナルド様が、そう言った。
今度は、無関心を決め込んでいるのではなく、私に情報を集めてこいという事だと悟った。
「ええ、喜んで。長い間、森に打ち捨てられていたにしては、お元気で何よりだわ」
私は、嫌味たっぷりに言った。
「ははは、猟が好きでサバイバルが得意なのですよ。特に熊狩りが好きでして。倒れ込んでいましたが、体力は残しておりました」
エミリアン卿は、そう言って笑った。
適当な事を言っているのが、丸分かりだ。
「本当に、なんて美しい方だ」
歯の浮くようなセリフを言いながら、エミリアン卿は私と踊り出した。
ああ、またこいつと踊る事になるとは思っていなかった。
「あなた本当は侯爵家の人間では無いでしょう。女性の誘い方が、スマートじゃないわ」
私は、そう言ってカマをかける。
「ほう、それは失礼いたしました。あなたの様な男性を金で選んでいるような女性を誘うのには慣れておりませんので」
エミリアン卿が、体を離そうとする私の腰に廻した手に力を入れて引き寄せる。
「女性のプライバシーに、お詳しいのね」
私は、心底嫌そうに言った。
「あなたの事は有名ですので、この国に来てすぐに耳に入りました。自分の美しさを利用して、金で男を乗り換える毒婦だと」
エミリアン卿が、不敵に笑いながら言う。
「あら、あなたの方が毒は得意そうよ」
私は、そう返す。
エミリアン卿とのダンスは、最悪の雰囲気で終わった。
「どうだった?」
ジョナルド卿が、戻ってきた私に聞く。
「どうも何も、失礼な男だわ!」
私は、憤慨している。
「そうか、何か事件につながる話はあったかい?」
旦那様が、私の剣幕にちょっと引き気味で言った。
「何もないわ。あったとしても、イブラーク王子がアンリーヌにぞっこんなんじゃ、意味が無いかも」
私は、大きく溜息をついた。
「そうか、やはりイブラーク王子とアンリーヌの仲をどうにかしないと駄目だな。シェイラ、イブラーク王子を誘惑して、二人の仲をどうにか出来ないか?」
ジョナルド様は、さらっと言ってはならない事を言う。
「ちょっと、あなた!大事な奥様になんて事させようってのよ!私を愛してないの!」
私は、旦那様の胸倉を掴んで言う。
「ちょっと!ちょっと!人前だ」
旦那様が悲鳴を上げる。
見回すと、周囲が私達を冷ややかな目で見ていた。
私は、さっと旦那様から離れる。
いやでも、私の美しさなら可能かもしれない。
何しろイブラーク王子は、子供の時は私に夢中だったのだ。
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