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 部屋の中に3人でポツリと残されたところで、対面に座っていた王太子がこちらに身を乗り出して来ました。


「レイカ、お前には今の内に話しておかなければならないことがある。お前のことだから、腹を立てるかもしれないが、冷静に最後まで話を聞いて欲しい。」


 そんな念入りな前置きが入って、嫌な気持ちになります。


「実は、私とシルヴェインがこういった王族だけが集う会議に揃って参加するのは今回が初めてなのだ。」


 これには首を傾げてしまいました。


「ん? ではこれまでこういう共有事項があった時はどうしていたんですか?」


「個別に父上か叔父上から知らされていた。しかも、その情報は精査されたものだったのだと思う。」


 どうしてそうなっていたのか目を瞬かせてしまいます。


「私とシルヴェインにはそれぞれの派閥が後ろに付いているのは分かるな? 次代を担う私達の力加減パワーバランスはこれまで不安定で、ちょっとしたことでどちらかに天秤が傾いてどちらかが倒壊してしまう可能性があったのだ。」


 そこまで危うい状態だったとは思えないのですが。


「言い辛い話だが、主に権力面の後ろ盾は私の方が強かったが、シルヴェインの魔力量と第二騎士団長として果たしている役割が大きいことがまあ問題だった訳だ。だから、父上と叔父上は私達の危うい均衡を崩してしまわないように最大限の注意を払って来た訳だ。」


 なるほどという話でしたが、それはいずれは決着を付けるべき問題で、王太子が立太子した時点で落ち着くべき問題だったのではないでしょうか?


「アーティお兄様が立太子されているのに?」


 そう疑問のままに口にしてしまうと、王太子とシルヴェイン王子が揃って苦い顔になりました。


「色々と複雑な事情があるのだ。それは後で詳しく話すとして。この間の“守護の要”の半壊事件が起こって、レイカに言われた通りシルヴェインと恐らく初めて腹を割って話をしてみるまで、情け無いことながら私はシルヴェインを心から信用することが出来ていなかったようなのだ。」


 これにはちょっと呆れると共に、王位を巡って微妙な関係の王子同士ならそれも不思議ではないのかもしれないと思い直しました。


「そうしてみるまで、私達は父上達ご兄弟の関係性の本当の意味に気付いていなかった。」


 そこで顔を見合わせた王太子とシルヴェイン王子は、今確かに何かを分かち合っている関係に見えました。


「国王は一人で国を治めている訳ではないと。レイカはあの時そう言って私に将来の為にシルヴェインのことを無条件に助けることを提案してくれたな。あれは本当にその通りだった。」


 真っ直ぐじっとこちらを見返して来る王太子は、優しい笑みを向けてくれた。


「父上の代は、父上と叔父上、それから伯父上であるファーバー公、この3人でこの国を支えて来たのだと、最近になって見えるようになった。」


 これには少し驚いて目を瞬かせてしまいました。


 あの感じの悪かった、しかもエダンミールと繋がっていたファーバー公が、この国を治める一役を担っていたとは知りませんでした。


「王城魔法使いは国にとって重要な存在だが、余り政の中心に近付け過ぎたくない存在なのだ。エダンミールのように振り切れた国家ならばそれで成り立つのかもしれないが、国家というのは民の為にあるものだ。少なくともこの国はそのように治められて来た。私の代でもそうありたいと思う。」


 だから、政からは少し離れた場所にいたファーバー公が王城魔法使い達を支援してきたことには意味があったのでしょう。


 とそこまで考えてから、ん?と首を傾げてしまいました。


「私の代??」


「・・・そうだ。レイカ、魔法使い関係は頼む。」


 は?と見返した先で王太子が少しだけ引きつった笑みを頑張って浮かべ続けています。


「レイカ、私も兄上も、これまで王城魔法使いには表立っては深く関わらず、可も不可もない関係性を築きつつ慎重に避けて来た。それは、均衡を崩さない為だ。」


 ここでシルヴェイン王子も参加して来ますが、それは確かにどちらが近付いても面倒なことになったでしょう。


 ただ、それをこちらに投げて来るつもりというのはちょっと嫌かもしれません。


「ええ? “魔法使い協会”のことで最近、私は王城魔法使い達には煙たがられてますよ?」


「だから、王城魔法使いや第二騎士団ナイザリークから人を出すことになる魔法捜査部隊も傘下に入れることで、王家の魔法使い担当という立場を明確にして、どちらの不満も収めようとしている訳だ。」


 ものは言いようですね。


「はあ。良いようにこき使い過ぎでは?」


 少しむすっとして返してみると、二人が微妙に焦ったような顔になりました。


「確かに、レイカには負担を掛けることになってしまって悪いとは思う。だが、私達やこの国にとって、もうレイカはなくてはならない存在なのだ。」


「まあ、都合の良い存在ですよね?」


 王太子が慌てて言い募るのに冷たく返すと、隣のシルヴェイン王子からも強い視線が返って来ます。


「そう言わないで欲しい。確かに、負担は掛けるが、その代わりレイカの望みは可能な限り尊重するし。王家としてレイカを守ると誓う。」


 そう言ってくれるシルヴェイン王子ですが、絶対にそうするという誓いは無意味なことだと知っています。


 状況が変われば環境は容易に変化しますからね。


「そうであることを祈っていますけど、先のことは分からないでしょう? 私としてもいつまでも絶対とはお約束出来ませんが、それで良ければしばらくはご協力します。それで良いですか?」


 ここははっきりとそう宣言しておくと、二人には溜息と共に肩を竦められました。


「そうだな。レイカはそのくらいで良いのかもしれないな。私達は考えの全てを同じくする訳ではない。だが、血の繋がりはなくとも王家の次代を担う王家の者になった。この上は、最低限この国に生きる民の為に協力し合う良き関係を築いていきたいと思う。」


 これなら良いかと問い掛ける目を向けて来る王太子に、ふっと微笑み返してあげます。


「そうですね。今のところはそういうことにしておきましょう。」


「・・・相変わらず上から目線だな全く。シルヴェインこれは苦労しそうだぞ?」


 ゲンナリと王太子が同意を求めたシルヴェイン王子はにこりと良い笑顔を返しました。


「まあ私は、兄上よりはレイカには甘いですから。厳しい役は兄上に譲ります。甘やかす専門でいきますので。」


「なに?! それは不公平だぞ? 私だって妹は初めてなのだ。偶には甘やかしてみたくなるかもしれないだろう?」


「いえいえ。兄上は常日頃からレイカを可愛いとはお思いにならないでしょう? 私には常にレイカは困ったことばかりする可愛い妹ですから。つまり、役割分担は大事だということです。」


 そんな実のないやり取りに入った二人を呆れたように眺めつつ、ふと初めて王太子に会った時の事を思い出していました。


 あれは、朝の政務区画を横切って王城魔法使いの塔に向かう途中でした。


 すれ違う時に気さくにシルヴェイン王子に声を掛けたように見えた王太子に、シルヴェイン王子の方は硬い口調で受け答えしていました。


 そして、レイナードに気付いた時の王太子の態度と逃げるようにそれを遮ったシルヴェイン王子。


 あの時は、お互いに表には出せない色々をそれぞれが抱え込んでいたのだと、今なら分かります。


「はあ。ファーバー公は置いておくとしても、お父様と叔父様も微妙な関係だった時期があったりしたのかな?」


 ポツリとでた疑問に、王太子とシルヴェイン王子がお互い目を合わせてから、妙な顔になりました。


「そこは、父上が叔父上のこともファーバー公のことも結果上手く掌握していたのではないかと思う。」


 王太子の苦笑い混じりの言葉は何となく納得です。


「確かに、そんな感じはしますね。」


 王族一腹黒いのは、王弟殿下ではなく国王陛下だと判明しましたからね。


 しかもそれを感じさせない完璧な隠蔽ぶりは流石だと思います。


「ああそれからレイカ。」


 と、ここで王太子が妙に緊張を滲ませた様子で何かを切り出すようです。


「エダンミールに、ラスファーン王子の怪我のこととそれに伴って具合が思わしくないことを伝える伝紙鳥を送った。」


 昨晩の王女宮での状況を聞いているのでしょう。


 一晩明けて更に落ち着いたところで、流石に情けなかったと反省しました。


 軽いパニック状態に陥ってしまったのは、昨日色々とあり過ぎて、余裕をなくしてしまっていたのだと思います。


「はい、ありがとうございます。昨日はわたくしも取り乱してしまって。宮の皆を心配させてしまいました。」


「・・・レイカ、無理をしなくて良い。これから私もラスファーン王子を見舞おうと思っているから。一人で抱え込まなくて良いのだからな?」


 すかさずシルヴェイン王子が眉下がりの心配顔でそう言葉を返してくれました。


「そうだ。ラスファーン王子のことは、カダルシウスが国として迎えているのだから、何があってもレイカ一人の所為などではない。それはエダンミールも分かっているから心配するな。あちらもそれを受けて急ぎでクリステル王女をこちらに派遣するそうだ。」


 王太子までそんな言葉をくれる程なので、昨晩のことは大々的に伝わってしまっているようです。


「クリステル王女には、ラスファーン王子が私を庇ってこのようなことになったのだときちんと私の口から説明するから、何も心配しなくて良い。」


 そんな少し的外れだけれど優しい慰めをくれる二人に、少しだけ困ったような笑みを返しておきました。

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