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可愛すぎる。
思わず口から漏れてしまった言葉と込め過ぎてしまった力に身動ぎしたレイカさんが見上げて来た顔は、もう反則級の可愛さだった。
腕の中にすっぽり収まった可愛いレイカさんに、その衝動のままにキスしに行かなかった自分を褒めてやりたいと思う。
まあそうなっていたら、リーベン殿に冷たい視線と共に咳払いか何かで止められていただろう。
それはともかく、レイカさんに会いに来た久々の王女宮は、落ち着かない雰囲気だった。
ラスファーン王子の怪我のことと、レイカさんの様子がその原因だったのだとは、応接室に入って来た余裕のないレイカさんの表情を見て直ぐに分かった。
役得ではあったが、この様子ではレイカさんのことが心配だ。
ラスファーン王子が持ち直せば良いが、魔力を落ち着かせるには、本人が目覚めて魔力を使う必要がある。
こればかりは、ラスファーン王子の体力次第ということになりそうだ。
長く寝付いていたラスファーン王子の身体は元から余り体力はなかっただろうし、ラスファーン王子自身が身体に戻ってからこちら無理をしていた可能性もある。
最悪の場合も想定して、レイカさんの心の支えにくらいはなりたいと思う。
しばらくはレイカさんの様子を毎日見に来る言い訳が欲しい。
「レイカさん。明日からまた、前みたいに毎日夕方コルちゃんを連れて来ても良いかな? メルのことも少し落ち着いて来たというか、方向性はもう決まって来たような気がするから。外出許可も出ると思うし。」
これには驚いた顔を向けて来たレイカさんに微笑み返す。
「あの、私もケインズさんの指輪の確認と魔力補填の為に第二騎士団に毎日通おうと思っていたのですけど。」
そのレイカさんの返事には有難いと思うが、それはレイカさんにとって仕事や役目の延長だ。
「それは有難うございます。でも、それとは別に、レイカさんにもジャックにもコルちゃんとの時間が必要じゃないかな?」
少しズルい持って行き方だが、これくらいの方がレイカさんは遠慮なく甘えてくれるだろう。
「・・・そう、ですね。ケインズさんがご負担でなければ。」
「全然。むしろ、こうしてレイカさんと仕事ではない場所で会える時間が貰えるなら、凄く嬉しい。」
はっきりと言い切ったこちらに、レイカさんが驚いた目を向けて来た。
「ケインズさん・・・」
また難しいことを考え出した様子のレイカさんの顔を覗き込む。
「はい。それ以上色々考えるのはやめて、一先ずこれを渡しても良い?」
トイトニー隊長のアドバイスに従って貰ってきた料理長力作の摘めるお菓子の包みをレイカさんに差し出す。
目を瞬かせるレイカさんの前で、包みを開いてみせる。
包みの中からは、キラキラと表面が輝く一口大のコロコロとしたものが出てきた。
「あ! カラメリゼコーティングされたフルーツ?」
マジマジと観察してみると、確かにキラキラの中身は各種フルーツのようだ。
「料理長から是非レイカさんにって預かって来たんだ。」
「わあ。可愛い〜。」
レイカさんの上げる嬉しそうな声には自然と微笑んでしまう。
「さあ食べて。」
言って、一粒摘み上げてノリでレイカさんの口元まで運んでみると、流れるような動作でパクリとレイカさんが口の中に入れた。
ほんの一瞬だけ触れた柔らかな感触に固まっていると、隣からふふふと笑い声が立った。
ダメだ。翻弄されているのは、間違いなく自分の方で、勝てる気がしない。
そして、今日はこの手を洗えない。
「ケインズさん、ほら次、順番待ちしてますよ?」
言われて狼狽えつつ見返したレイカさんの視線の先に、いつの間に足元に整列していたのか、前足を揃えて待つコルちゃんとジャックが期待に爛々と目を輝かせて待っている。
これはもう引きつった笑みを解しつつ、笑顔で一つずつ2匹にも食べさせてあげた。
「コルちゃんとジャックって、人間の食べ物をあげても大丈夫なのかな?」
ふとそう思い付いて聞いてみると、レイカさんが頷き返してくれた。
「食卓の皿から直接食べさせたりするのは食事を荒らすようになるから良くないみたいなんですけど、基本的に雑食で、実は食事からは必要な栄養素を必要な分だけ摂取するから何をあげても問題ないんですって。」
「へぇ。誰か魔物の生態に詳しい人に聞いたの?」
コルちゃんを預かった時に魔物のことは色々と調べたが、図書館の書物にもそういうことは書かれていなかった。
「あーえっと、今度ウチの侍従に迎える人なんですけど、エダンミールで翼竜とか魔物を人工的に育ててた過程で分かったみたいで。」
それは、リッセンのことではないだろうか。
「そっかぁ。」
思わず乾いた笑いが浮かんだ。
「頂きまーす。」
その間にレイカさんが軽食を皿に取って食べ始めていて、給仕に控えていた侍従長達が露骨にホッとした顔をしているのが分かった。
「ウチの料理長のお料理美味しいんですよ? ケインズさんも少し食べませんか? サンドイッチ美味しい。」
それは美味しそうに幸せそうに食べるレイカさんは、料理長が餌付けしたくなるのも分かる可愛らしさだ。
「さっき夕食を食べて来たところだけど、少しだけ頂こうかな。」
レイカさんが食べ切れなさそうなものにだけ手を出すように気を付けて少しだけ皿に取って食べていると、レイカさんが嬉しそうに微笑み掛けて来た。
なんでこんなに可愛いんだろうか。
これから帰ってから下書きするつもりの始末書も、明日色んな人から貰うことになりそうなお説教も、この笑顔で相殺出来てしまえそうな程の威力だ。
「そういえば、さっきのカラメリゼコーティングのフルーツの中身、柑橘だったんですけど、あれこちらに来てから脂っこいスープに辟易してて、食堂で絞り込んでた果実なんですよ? 懐かしいなぁ。」
そういえばそんなこともあったと思い出した。
「ごめん、あの時はちょっと抵抗感しかなかったけど、あれで少しは美味しくなってたのかな?」
改めてそう聞いてみると、レイカさんはちょっと目を逸らして困った笑みを浮かべていた。
「まあ、食材の問題もあったみたいだし、料理長もあれから色々工夫してくれて、物凄く良くなったと思いますよ?」
「そうだな。レイカさんのお陰だって料理長はいつも感謝してるよ。いつかまた料理長の作った料理を食べて欲しいって。だから、今日の差し入れも短時間で出来るものでって物凄く気合いが入ってたみたいだ。」
料理や菓子の良し悪しや作業時間や難易度は分からないが、料理長としては納得の出来栄えだったようだ。
「ふふ、嬉しいです。凄く可愛くて綺麗で、美味しかったです。お礼を伝えておいて貰えますか?」
「ああ、勿論。そうしたら、また作りたいって言いそうだ。そうなったら、また持って来ても良いかな?」
料理長ならきっとそう言い出しそうだと先回りしてみる。
「それは、ちょっと嬉し過ぎるかも。」
少し赤い顔になってはにかんだような笑みを見せるレイカさんに、何というか微妙にもやっとした気持ちになるのは何故だろうか。
「ケインズさんは、そうやって私を甘やかし過ぎるから。勝手に舞い上がり過ぎて、変な誤解をしても、知りませんから。」
言いながら、赤い顔で俯くレイカさんに、目を見開いてしまう。
きっと同じくらい真っ赤になっている自分に、ちょっと落ち着こうと言い聞かせて、唾を飲み込む。
「レイカさんは、無自覚に煽る天才だよね? あーダメだ。ちょっと冷静に、そうだ、今日の出来事を最初から報告します!」
結局、報告会になってしまった最後は、リーベンさんに呆れ果てた顔をされていた気がするが、これ以上はまだお互い踏み込めない以上、仕方ないではないかと自分に言い訳してみることにした。




