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「始末書の提出は明日の昼までだ。私に提出する前にトイトニー隊長に見せて確認して貰うように。」
「はい。」
第二騎士団兵舎前に帰り着いたところで、あちらも兵舎前で解散を言い渡していた団長殿下にちょいちょいと呼ばれて言われたのが、先程の台詞だった。
言い訳のしようもない程の命令違反だったので、始末書は必須だと思っていたが、何処から何処まで書くべきなのか分からず戸惑ってしまった。
「ケインズ、サークマイトを連れて会議室だ。」
そこへ団長達を迎えに出ていたトイトニー隊長から声が掛かる。
「はい。」
これにも素直に頷いて、にこりともしてくれないトイトニー隊長に続いて兵舎に入って行く。
無言のままのトイトニー隊長の背中を追い掛けて歩いて行くのは何とも気詰まりだ。
階段を登って会議室の扉が漸く見えて来たところで、トイトニー隊長が不意に足を緩めた。
「ケインズ、お前はどうしてここ10日余りも会議室に缶詰だったのか覚えているか?」
この一言で、これから始まるお説教の方向性が読めて来た。
「はい。メルから増幅魔力を受け取って魔力暴走し掛けたからです。」
「そうだ。散々皆に案じられて、サークマイトから受け取る魔力がお前にどんな悪影響を及ぼすか分からないから、慎重には慎重を期していた。」
言って本格的に立ち止まったトイトニー隊長がこちらを振り返った。
「お前は実験動物じゃない。我々の仲間の第二騎士団の騎士だ。だから、お前はサークマイトの魔力を受け取るしかなかったとしても、もっとゆっくり魔力を慣らしながら様子を見ながら受け取って、使うのも慎重にものを選びながら進めていくべきだった。何故か分かるか?」
そう唐突に問われて、考えを巡らせる。
「王城内で、魔力暴走を顧みなかったと非難されない為、でしょうか?」
そんな批判が上がっているとは聞いていた。
「まあそれもなくはない。だがお前はこの間の事故のような受け取りの時も、機転を利かせて結界魔法を展開してみせただろう? それは、一定の評価を得ている。」
そこで言葉を切ったトイトニー隊長は、憂い顔になった。
「ケインズお前は、レイカ殿下と違ってもう少し慎重な行動を取れる人間だと思っていた。」
これには、グッと胸に罪悪感が湧く。
「私達はお前に聖獣達の、もっと言えば聖獣達を通して、レイカ殿下の抑え役になってくれることも期待していたんだぞ? それが、レイカ殿下並みに一緒に突っ走ってどうする?」
これも胸に来る。
「済みませんでした。」
他に言葉もなくて少し項垂れつつそう返すと、トイトニー隊長の顔がますます歪んだ。
「お前まで制御不能になって我々の手を離れるな。そう言っているんだ。第二騎士団としてお前とサークマイトのことに責任を持つ、そう大々的に宣言して守ろうとして下さっている団長殿下の厚意を無にするな。団長殿下の下に収まっているから、お前に対する風当たりはこの程度で済んでいる。それを忘れるな。」
「はい。」
これにも大いに反省だ。
深々と頭を下げて答えると、溜息を吐かれた。
「今後は何があっても指示と許可の前に独断で動くな。第二騎士団の規律を乱さず、上手く溶け込め。お前が何を持っていてどれだけのことが出来るのだとしても、第二騎士団の元にある限り、共に戦い、守ることを我々は誓おう。」
トイトニー隊長の重い言葉には頭が下がる。
「はい。私も誓います。第二騎士団の方針に従い、この能力を捧げると共に、もっと思慮深さを身に付けて、第二騎士団に貢献出来る人間になっていきたいです。」
心からそう伝えると、トイトニー隊長がしっかりと頷き返してくれた。
「後始末は大変だが、結果としては概ね悪くなかったと聞いている。お前の活躍の部分をどう周りから反感を持たれないように上に上手に報告するか、頭が痛いところだが。良くやった。」
最後の言葉を口にするトイトニー隊長はほんの少しだけ口元に笑みを浮かべていた。
「お前や聖獣が駆け付けていなければ、どうなっていたか。下手をすれば団長を含めその場にいた皆が全滅で、とんでもない負の遺産が残されることになっただろうと。」
確かに、後々団長殿下と状況確認をして、本当に危なかったということが分かった。
「正直、甘く見ていたな。魔王信者共の集大成があそこにまだ眠っていたとはな。」
魔石を抱えて起き上がった遺体、あれが呪詛も攻撃魔法も放って来たのだ。
「呪詛に関してはラスファーン王子が気付いて団長殿下を庇って下さらなければ、それこそ全滅だったかもしれません。」
「そうだな。今回ばかりはあの王子殿下の改心を信じてみる気になったな。」
ただ、そのお陰でラスファーン王子は失血で死に掛けて、その上で魔力の巡りも良くないようだ。
「ケインズ、ラスファーン王子のことは、後はレイカ殿下が診るしかないことだ。余り気に病むな。なるようにしかならない。」
「・・・はい、そうですね。」
あの状態のラスファーン王子を見て、レイカさんは何を思うのだろうか。
個人的には大分同情する気持ちが高まってしまっているが、レイカさんに今回のことを伝えるなら、あくまでも冷静に客観的な視点から説明した方が良いだろう。
ラスファーン王子は、厄介な仕掛けの呪詛を魔王信者達が完成していたことを知っていた。
そして、もしかしたら犯罪者達がそれを何処かに仕掛けてくるかもしれないと予想していたのではないかと思う。
だからあの場で、団長殿下を庇うことが出来たのだろう。
対象がレイカさんだったとしても命掛けで庇って引き受けたのだろうとそこは信じられる。
だが、彼はやはりレイカさんや団長殿下を始め、このカダルシウスの人々を苦しめた魔王信者達を率いていた人でもあるのだ。
「ラスファーン王子のことは、正直どう考えて良いのか分からなくなってきました。」
「ああ、それはな。皆が思っていることだ。安易な同情も、極端な嫌悪も良くないことだと頭では思っていても、実際にはその時々の流れに飲まれてしまう。」
トイトニー隊長の言う通りだ。
「実は細々と長い付き合いの団長殿下がそれには一番苦慮しておられる。いっそ改心などしてくれなかった方が、扱い易かったかもしれないと思う程にな。」
それもそうだ、誰よりもサヴィスティン王子と長い付き合いのあった団長殿下が一番戸惑っただろうし、今の状況がやるせないのではないだろうか。
「ただな。あの王子様のことも色々と漏れ聞こえて来ることを寄せ集めると。もしかしたら生まれて初めて人間らしく生きていられる時間が今のこの短い時間なのかもしれないんだろう? それなら自由に生きる権利があのお方にもあるということだ。」
「それを与えたのが、レイカ殿下だから。だから彼は、レイカ殿下に擬似恋愛のような感情を持っているのかもしれない、ということですよね?」
そう繋げてみせると、トイトニー隊長には苦い顔で肩を竦められた。
「本人から牽制でもされたのか?」
「いえ。熱に浮かされて、そのようなことを漏れ聞いてしまって。イルディさんに訊いてみたら、ラスファーン王子ご自身は、そのお気持ちをレイカ殿下には知らせるつもりはなく、墓場まで持っていくと。」
それを自ら決意するくらいだから、レイカさんに対する気持ちが半端なものではないと確信した。
「やれやれ、憎み切れない人間に生まれ変わってくれるとは、逆に迷惑だ。」
そう皮肉ったトイトニー隊長だが、隊長もやはりラスファーン王子のことを嫌ってはいないようだ。
「だが、私は絶対に同情はしない。私はな、団長殿下をもう少しで失うところだったあの時のことを一生忘れられないだろう。それを主導したのは他ならぬあの王子だ。」
きっぱりと言い切ったトイトニー隊長に、はっと目が覚めたような気がした。
「お前も、あの王子様のことで煮詰まったら私のところで吐き出して行け。そうしたら何度でも思い出させてやる。足元を揺るがすなと。特に、お前はレイカ殿下の前ではな。」
言ってふっと笑ったトイトニー隊長は、流石だと思った。




