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凶悪なタコのギョロ目と目が合って、ヤバいと叫ぶ暇もない内に、タコ足が叩き付けられた木の幹が見事にボキリと折れて傾ぎ始めます。
「ジャック魔法陣真上にジャンプ!」
そう頼みつつ、手の平に魔力を集めます。
「魔法陣修復!」
聖なる魔法を急速展開して、魔法陣に向けて飛ばします。
落下衝撃に備えて目を瞑っていると、ジャックが風魔法で逆噴射をかけた煽りで、タコの魔物が井戸に沈み込んで行ったようです。
「あ!・・・」
当然、タコ足に捕まっていたアルティミアさんも一緒に引き込まれたかと思っていましたが、上空に投げ出されていたようでゆっくりと井戸に向かって落下して行きます。
「逆噴射!」
「風の手を!」
「運びの風!」
自分を含め三つの魔法がアルティミアさんに飛びましたが、何故か反応せず、アルティミアさんは井戸の中に落下して行きました。
「ジャック!」
言って魔法陣上の井戸の直ぐ側に降り立って覗き込みましたが、井戸の水に光が反射して水の中の状況が分かりません。
「アルティミア!」
直ぐにバンフィードさんの叫び声が聞こえて隣から覗き込まれますが、やはり見えないことに小さく舌打ちして、マントを外して飛び込もうとしたところで、井戸の水が盛り上がって来ます。
「バンフィード殿、下がって!」
ヴァイレンさんが後ろからバンフィードさんを引き戻し、こちらも数歩後退ります。
タコの復活かと思いましたが、何か神々しい光に押し上げられるように、アルティミアさんが井戸から押し上げられて来ます。
「アルティミア!」
「アルティミア様!」
バンフィードさんとヴァイレンさんが叫んでそちらに手を伸ばしていますが、そこで衝撃の事実に気付きました。
ヴァイレンさん、伸ばした方の反対の腕の先が、付いてないです。
よく見ると地面に血溜まりが出来ていて。
「ヴァイレンさん! 腕!」
慌てて叫ぶと、悲しげな顔を向けられました。
「私のことより、アルティミア様が!」
悲痛な叫びが聞こえてこれまたギョッとしつつアルティミアさんに目を向けると、はためくアルティミアさんのドレスの腹部が大きく裂けているようです。
ただ、水から上がって来たからか血は付いていないようですが。
「我が君、受け止めてあげて下さい。」
そんな台詞が肩から聞こえて、アルティミアさんの方に手を伸ばすと、すっと光がこちらに滑り寄って来て、直後アルティミアさんの重みが来ると共に、光が掻き消えました。
ドキドキしながら覗き込んだ腕の中のアルティミアさんは、ちゃんと胸が上下していて、生きているようです。
素早く全身に不調がないか見るつもりで視線を巡らせましたが、腹部も含め異常箇所はないようです。
ホッとしつつ振り返ると、バンフィードさんにアルティミアさんごと抱き抱えられました。
「アルティミア! 無事で良かった。」
微妙に頬擦りするようにそう言われて、のけぞってしまいます。
「あの、ここに私要らなくないですか? アルティミアさんはお渡ししますので、離して?」
「アルティミアもですが、殿下もご無事で良かったという意味です。」
いえいえ、どんな省略の仕方ですか?
全く言葉には含まれてなかったと思います。
「はあ。とにかくアルティミアさんどうぞ。」
言ってアルティミアさんをお引き渡しすると、呆然とこちらを見守っている腕から血を流しっ放しなヴァイレンさんに近寄ります。
「ヴァイレンさん腕は? 千切れた先何処かに落ちてます?」
「あ・・・はい。あの、アルティミア様は、本当に生きておいでなのですか?」
それでもまだ呆然とバンフィードさん達に目を向け続けるヴァイレンさんの目の前で手を振ります。
「失血で思考回路死んでます? 落ちた腕は何処ですかって聞いてるんです! 見付かったら今なら繋ぎ直せるかもしれないから!」
声を大きくして問い掛けると、漸くヴァイレンさんがハッとしたようにこちらを見ました。
「え? 繋ぎ直す?」
言いながら、ヴァイレンさんは先程まで戦っていた場所に戻ろうと動き始めます。
「あ! いきなり動かないで! どの辺りですか?」
先回りしてその辺りを見回していると、落ちていました。
「ノワ先生お願いします!」
「我が君思いっ切り他力本願ですね?」
それはそうです。
医者じゃないんです、傷口は直視したら貧血になりそうですし、組織繋ぐとか血管繋ぐとか、気が遠くなりそうです。
「まあ良いですけど、今回だけ丁寧に解説付きで指示出しして差し上げましょう。」
何か妙に機嫌の良いノワが気になりますが、頷き返して慎重に落ちていた腕を拾いました。
結構重いそのヴァイレンさんの腕を拾って彼の元に戻ると、一先ず言われた通りに落ちていた腕に還元魔法を掛けて落ちる前の状態に戻しつつ、ご本体の血管と神経回路に限定して還元魔法を掛けます。
落ちた腕とご本体をくっ付けて、今度は促進魔法を使います。
綺麗に繋がったところで、なぜ還元魔法だけでの修復を試みなかったのかと訊いてみましたが、こちらの魔力消費の問題と、切り離されてしまったことで別個体として世界から認定されてしまうので、還元魔法の難易度が上がるのだと教えてくれました。
これは何か色々と難しい理論が存在しそうですが、一先ず今日のところは治って良かったと思っておくことにしようと思います。
「王女殿下、アルティミア様をお守りし損ねた私のような者の腕までお治し下さり、ありがとうございます。心より感謝申し上げます。」
その場に膝を付いて深々と頭を下げたヴァイレンさんは、それから頭を上げて更に真面目な顔付きになりました。
「アルティミア様は、あのような重症を負って、何故助かったのでしょうか?」
そのヴァイレンさんの言葉に、えっとバンフィードさん達の方を振り返ってしまいました。
「重症を負っていたんですか? でも、今は傷一つ不調一つないと思いますよ?」
「・・・そんな筈はございません。私がお逃しするのが間に合わず、腹部を深々と一撃かなりの出血がありました、私は同じ一撃でこの腕をやった程ですから。」
これにはゾッとしつつ肩の上に目を向けました。
「ノワ? どういうこと? あの井戸の魔法陣の作用?」
「魔法陣をご覧になればお分かりになりますよ。」
その言葉に井戸を囲む魔法陣を振り返ってみると、魔法陣が砕けて完全消失していました。
「王都側の湖に水源が繋がっている井戸なのですが、竜の産湯と言われていて、魔法陣に一度きり復活の奇跡を起こす古代魔法が施されていました。まあ、魔法陣は長くその一部が壊れた状態になっていた訳ですが。」
「ノワ、事前説明なくまたやってくれたわね?」
低い声でそう詰ってみると、にこりと良い笑顔を返されました。
「まあまあ。時には大聖女様のお仕事もしておかれませんと。」
じっとりした目で睨んでやりましたが、これは関係者には口止め必須ですね。
「えっと、このことは絶対に内緒で。」
何はともあれ、ヴァイレンさんに口止めしておくと、バンフィードさんに近付いて行きます。
「アルティミアさんは、いつも通りですか? ショックで眠ってるだけ?」
その問いに、バンフィードさんは少しだけ苦い笑みを返して来ました。
「私のアルティミアです。何があろうとどう変わろうと。貴女様に助けて頂いた私が今の私であるように。」
その意味深な言葉には怖くなりましたが、確かに今更そういうことにするしかないのかもしれません。
「バンフィードさん、それでも一度だけ謝っておきますね。アルティミアさんをこんなことに巻き込んで、済みませんでした。」
「いいえ、何がどうであろうとも、私とアルティミアにとって、貴女様には一生返す事の出来ない程のご恩があるということです。これまで通り、貴女様に忠誠を。」
そう言ってやはり深々と頭を下げられました。
「王女殿下! 魔力に余力がございましたら、消火活動にご協力をお願い出来ないでしょうか?」
リーベンさんが言いながらこちらに走り寄って来ました。
「良いですよ!」
返事をして、井戸の水を吸い上げて屋敷に散水ホースの要領で噴射して行きましたが、途中で何か頭が丸くて8本足の手の平サイズのものが混ざっていた気もしますが、きっと気の所為です。
良いたこ焼きが出来そうですね。
という訳で、ヤケクソ気味に消火活動が完遂したところで、リーベンさん達と今度こそ帰城することになりました。




