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王女宮に戻ってすぐにアレクシスさんからラスファーン王子に第二騎士団行きのお誘いをしに行って貰っている間に、アンネリアさんからの報告の時間になりました。
「殿下、ライアット殿から連絡がありまして、本日ハザインバース達にお時間を割いて貰えないかとのことでしたが、如何致しますか?」
「そうですよね? 昨日も一昨日も時間が取れなくて会ってあげていないですから・・・。夕方・・・無理かもしれないので、昼前にちょっとだけお空の散歩に行って、第三騎士団の中庭に降りるのはどうでしょう? シル兄様と補佐官のお2人と護衛さんには第三騎士団で待っていて貰うというのは?」
思い付きでそう捻り出してみると、アンネリアさんが扉の側で控えているリーベンさんに視線をやったようです。
「・・・急ぎ準備致します。第三騎士団と第二王子殿下へのご調整はアンネリア殿にお願い出来ますかな?」
確かに、事前根回しがこれからでは大変そうで申し訳ないです。
「アンネリアさん、まずライアットさんにお空の散歩と第三騎士団への降下が出来そうか確認してみて貰えますか? 第三騎士団のルーディック団長には私からも一筆書きますから。」
とそこへリーベンさんと一緒に控えていたバンフィードさんが前に出て来ます。
「殿下、ハザインバースとのお空の散歩は大丈夫なのですか? また宙吊りで王都を滑空というのは余りにも外聞が・・・」
冷静を装ってそんなことを言ってくれるバンフィードさんには冷たい目を向けておきました。
「イースとエールが上空を飛ぶのには王都の人達も慣れてきてる筈だし。わたくしが乗っているかどうかは分からないでしょう? こちらはいざとなれば魔法もあるし、第三騎士団営所に降りるまでエールの背中にしがみ付いていられれば良いんです。」
そんな台詞を強がり混じりに口にすると、アンネリアさんとリーベンさんの口元がピクピクしています。
「わたくしだって、翼竜で強制的にお空の旅も経験しましたし。以前よりも空を飛ぶことにも慣れましたから。」
そう力説してみましたが、何か微笑ましげな視線をいくつも貰って不本意な気分になりました。
そこへアレクシスさんとコルドールさんが戻って来て、それぞれの報告の後、この後の予定変更について話すことになりました。
コルドールさんが手配したお店の名前と場所をリッセンさんに伝紙鳥で送り、コルドールさんとクランシオンさんは昼前シルヴェイン王子や護衛騎士さん達と一緒に第三騎士団に向かって貰うように段取りを組んだところで、ラスファーン王子の準備も整って第二騎士団に移動です。
道中、ラスファーン王子やイルディさんと、ケインズさんとメルちゃんのことを話しましたが、リッセンさんの確保したサークマイトの研究者に魔力器官の作り替えが具体的にどういうものなのか聞いてみるのが一番だという結論に至りました。
「そもそもサークマイトが自分の魔力器官で増幅させた魔力をもう一度自らの魔力器官に戻すから、副作用もなく魔力器官の作り替えが出来るのだろうと想像出来るのですが、これを他者が受け入れて問題ないように魔法なりで補助するのは、かなり難しいのではないかと思います。」
イルディさんの見立てには残念ながら頷くしかありません。
「ただ、対人用として研究されていた訳ですから、少しくらいは何か対処方法が確立されていた可能性もあるのではと期待したいところですが。」
「・・・そうですね。話を聞いてみて、土台無理だと想像が付いたら、何とかメルちゃんが魔力を受け渡す前の状態に戻すことが出来ないか模索します。」
聖なる魔法の還元で手に負えるものなのか無謀でも試すしかないでしょう。
そんな話をしながら辿り着いた第二騎士団の会議室では、ケインズさんとメルちゃんが装着予定の魔力遮断の魔道具の着脱設定をカリアンさんが追加していたようです。
「それでは、まずはケインズ殿が腕輪を装着後、檻の中でサークマイトに魔道具を着けて下さい。」
そんなタイミングで会議室に踏み込んでしまったので、ぱっと皆の視線がこちらに来て、居た堪れない気分になってしまいました。
「おはようございます。」
「ああ、レイカおはよう。」
すかさず返事をくれたのはシルヴェイン王子です。
「殿下、おはようございます。」
くたびれた風なカリアンさんは徹夜でしょうか?
「レイカ殿下、おはようございます。もうお身体は大丈夫ですか?」
この優しい気遣い付きの挨拶はケインズさんですね。
ご自身も酷い目に遭っているのに、こちらのことまで。
「ゆっくり休んだのでもう大丈夫ですよ。」
そう笑顔で返してから近寄って行くと、ラスファーン王子が後ろを付いてきて、カリアンさんの持つ魔道具を覗き込みました。
「発動の為の魔力はサークマイトが増幅したものを使う。どちらかが必ず作動している状態を保つ。着脱出来る者を予め設定しておくこと。・・・ならば、ケインズよりも先にサークマイトに魔道具を着けさせるべきでは?」
魔道具に刻まれた魔法文字を読み取ってのご意見のようですが、確かにそれはそうでしょう。
「そうなのですが、増幅された魔力が溢れる檻に魔道具装着していないケインズ殿に入って貰うのは危険ではないかと。」
その懸念も尤もですね。
そんな会話を耳にしつつ、メルちゃんの檻に近寄ってみます。
「キュウッ」
心配そうな顔でこちらを見上げて来る檻前のコルちゃんの頭を優しく撫でてあげつつ、覗き込んだ檻の中ではメルちゃんが元気なく身を伏せるように座り込んでいます。
「魔力の取り込みが出来てないから辛いみたいだ。」
檻の反対側から回り込んで来たコルステアくんがそう解説してくれて、こちらも心配になってしまいます。
檻の中に充満していた増幅した魔力は、昨日コルちゃんと還元魔法で綺麗にしたのですが、一晩の間にまた増幅された魔力が排出されているようです。
「魔力をロクに取り込めてないのにまたこれだけ増幅した魔力を作れるものなんだね。」
そう困ったように溢すと、コルステアくんも苦い顔で頷き返して来ました。
「メルに刻まれてる魔法文字は見える?」
続けて問われて目を凝らしますが、少しずつ排出されて来る魔力に遮られてその根本の文字ははっきりと読み取れません。
「胸の辺りから増幅した魔力が出てて、その根元に何かチラッと見える気がするんだけど、魔力が邪魔で良く見えないんだよね。」
そう困ったように返すと、コルステアくんも何か考え込むように顔になりました。
「おねー様が一時的に魔力排出を止める魔法をかけて、溢れてる魔力を取り除いて、根元を確認したらまたその魔法を解除するってことは出来るの?」
最終的にはそれしかないと思うのですが、ただでさえ弱っているメルちゃんに負担がかかるということと、聖なる魔法の消費がどれ程になるか、魔力切れを起こさずにやり切れるのかは分からないです。
昨日のように倒れ掛けてその後の魔法文字の読み取り作業が出来なければ意味がありません。
「最終手段としては試してみる価値があると思うけど、やっぱり先にサークマイトの研究者から話を聞いておきたいかな。」
そう答えると、コルステアくんが微妙な顔でこちらを窺い見ているようです。
「あのさ。そこまで慎重になるってことは、魔力消費がやっぱり半端ないってことじゃないの? 昨日みたいに倒れるならやらせないからね?」
じっとりした口調で釘を刺して来るコルステアくんには苦笑いを返しておきました。




