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 政務区画を出て人を見掛けなくなったところで、久しぶりに見た気がするバンフィードさんが近付いて来ました。


「殿下、先程声高に話していたチラッとお姿が目に入ったかもしれないルトディック伯爵ですが、土木建築の高官です。余り直接的にお関わりにならない方が宜しいかと。」


 これまた久々に貴族家の子息なバンフィードさんが顔を出しましたね。


「ふうん。それで?その娘さんがアーティお兄様の婚約者候補の1人だったとか?」


「まあ。二番手から三番手くらいでしょうか? アルティミアには遠く及びませんでしたが、全てに於いて。」


 バンフィードさんが付け加えた一言には乾いた笑いしか浮かびませんが、まあ、アルティミアさんの出来が良すぎるんでしょうね。


「ま、まあ。侯爵令嬢で魔力見の姫で性格良し顔良し親も有能となれば、本当は王家に欲しかった人だよね。」


「・・・殿下、ちょっと外に出ましょうか?」


 バンフィードさん、途端に声音が低くなって、怖いオーラが出てる気がします。


「嫌ですけど? 私はアルティミアさんが幸せならそれで良いと思ってますから、バンフィードさんが是非幸せにしてあげて下さい。」


 はっきりとそう返しておくと、途端にバンフィードさんが笑顔になりました。


「流石は殿下です。よく分かっていらっしゃいます。キースカルク侯爵が戻り次第、一刻も早くアルティミアとの式の段取りを組みたいと思っております。」


 何故か話は逸れていきましたが、態々バンフィードさんが話し掛けて来たのは、ルトディック伯爵を敵に回すなという忠告でしょう。


 土木建築のお偉いさんにヘソを曲げられるのは、これから“魔法使い協会”の施設建設を計画しているところで賢い選択とは言えないですからね。


「まあとは言っても、アーティお兄様とマユリさんの幸せを阻むつもりでああいう横槍を入れて来るのは、ちょっと黙っていられないわよね?」


「それは、王太子殿下がご自分で対処なされば良いことです。自ら撒いた種なのですから。」


 中々辛辣なバンフィードさんは、やっぱりアルティミアさんを袖にした王太子を許していないのでしょう。


 そのお陰でアルティミアさんとの今があるのにちょっとくらいは優しくなれないものでしょうか。


「分かりました。これからは無闇に喧嘩を売らないように気を付けます。」


 そこで引っ込んでいったバンフィードさんの代わりに、そっとアレクシスさんが寄って来ました。


「殿下は、まだ社交の場にはランバスティス伯爵令嬢だった頃に一度夜会に出られたきりでしたか?」


「ええ。叔父様にまだ時期尚早と止められていますね。貴族社会の事情も殆ど分かりませんし、勉強していずれは踏み込まなければならないとは言われていますけれど。」


 全く気は進みませんが、王家からお嫁に出されることはなく一生王女だそうですから、必要性は理解出来ます。


「確かに、今はお忙しくていらっしゃいますから。ただ、いつまでもというわけにはいかないでしょうし。あのように殿下は人目を気になさらないとなりますと、保身の為にも最低限は学ばれるべきでしょう。宜しければ、私がお手伝い致しましょう。」


 今朝までとは違いいきなりグイッと踏み込んで来たアレクシスさんに目を瞬かせて見返していると、ふっと微妙な笑みが返って来ました。


「我らが王女殿下には、補佐官の能力は余す処なく使い切るくらいの気概で臨んで頂きたいのですよ。」


「・・・期待値が高過ぎでは? 叔父様じゃあるまいし。わたくしはそれはそれは優秀な補佐官様達が頑張っているのを微笑ましく眺めつつ優雅に上に座っているのが目標ですから。」


 こちらもにっこり笑顔で言い切って見せますが、それにも何故か余裕の笑みが返って来ました。


「目標を持たれることは崇高で宜しいことかと存じます。一先ず、我々補佐官がご機嫌取りをしながら飾っておく必要がないというのは喜ばしいことだと感謝申し上げております。」


「アレクシスさんは慇懃無礼って言葉はご存知かしら? 取り繕うのやめたっていうならそれでも良いですけれど、わたくし過労で倒れるのはごめんです。きちんと支えて下さい。それに、出来れば時には優しさとか適度な距離感もお願いします。」


 ついでとばかりに色々と要求しておくと、アレクシスさんは小さく肩を竦めたようです。


「仕事のことはともかく、王女殿下は我々相手には全くその気はないようですね。こう言っては何ですが、それぞれ悪くない顔触れだと個人的には思っておりますが?」


 唐突に始まった売り込み営業に、顔が引きつります。


「職場内恋愛は厳禁でお願いします。あ、対象が私の場合だけです。他は業務に支障をきたさない範囲でお好きにどうぞ。」


「・・・何故です? 少し驚きましたが、殿下は我々の能力を疑っている訳でもなく、適切に適所に振り分けようとなさっておられる。尊重もして下さろうとしているのが読み取れる。ならば、我々の中から一番気の合う者を生涯のパートナーとして選ばれても問題はないのではありませんか?」


 そんな何かを履き違えたようなことを言い出すアレクシスさんを困った様に見返したところで、ふと気付きました。


「あ、そうか。政略結婚ならそもそもそういう感覚でも不思議じゃないんですね? 結婚もお仕事の延長みたいなものって認識ですもんね?」


 これは、結婚観が違うのだから、論議の余地がない訳です。


「あはは、そういう意味合いでの結婚なら、わたくしは今のところ全く興味がないんですけど。」


「・・・先がどうなるかも分からない相手と、先に恋愛を始めなければなりませんか? それでもしもその相手とのことが許されなかった場合にはその時間は無駄になるのでは?」


 なるほど、そういう考え方も貴族の子息なら普通なんでしょうね。


 恋愛と結婚は別って割り切って無責任に恋愛を楽しむ人よりは、全く興味なしなアレクシスさんのみたいな人の方がまだマシかもなのしれませんが。


「そうですか? でも、私は結婚してしまってから失敗はしたくないので、お互いに愛情を育める人か事前に確かめておきたいですけど。」


「なるほど。恋愛の真似事をしてみてからというなら、我々もそれにお応えしなければなりませんね。」


 大真面目にそう返して来るアレクシスさんは、乙女心が分からないって言われるタイプなんでしょうね。


「ですから、職場内恋愛は遠慮しますって言ってますよ? わたくしが皆さんに期待するのは補佐官としてのお仕事能力です。恋愛を絡めるつもりはカケラもありませんので悪しからず。」


 きちんと言い切って話を終わらせると、微妙な顔でこちらをチラ見していたリーベンさんに気付きました。


 分かってますよ? ケインズさんのことですよね? 言いませんけどね、彼等には。


 だから何度も言いますが、今はまだラスファーン王子と婚約予定のままなんです。


 彼が蔑ろにされる様な材料は作るつもりはありません。


 彼の引き延ばした命には、こちらも責任がありますからね。


 彼の力を借りることと、彼を見送ることからは絶対に逃げてはいけないと思っています。


「さて、お仕事の話に戻りますよ? 貴族社会のことは、折に触れて必要なところから有り難くアレクシスさんに教えて貰うことにしようと思います。が、今は目下の魔法使い問題の解決が先です。会議資料は順調ですか?」


 切り替えてそう話を振ってみると、アレクシスさんがすんと先程までの少しだけ砕けた表情を引っ込めました。


「立ち上げ部門の理想の形は作り上げて文章に纏めましたが、試算結果を待って、もう少し具体的な数字や目に見えた旨みを盛り込みたいところです。これは夕方の会議でもう少し掘り下げてみて、それを元に肉付け出来ればと思っておりますが。」


 確かに、昨日の話し合いだけではさわりのところしか書けなかった筈です。


「そればっかりは相談役のお2人にも助けて欲しいですよね。わたくし御前会議の雰囲気も話の転がし方も分かりませんから、資料作りも手伝いにならないでしょうし。」


 そこはしゅんとして返すと、アレクシスさんが目を瞬かせてから、ふっと小さく笑ったようです。


「お可愛らしいところもお有りでしたね。」


「褒め言葉と受け取っておきましょう。」


 少しだけむすっとして答えると、これまた小さく笑われたようでした。

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