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 朝目を覚ますと、ベッドのすぐ側に置いた檻の中でコルちゃんが前脚を揃えて静かに座っていた。


 そして、それをこれまた寝袋の上で半身を起こして座りつつ無言で監視しているトイトニー隊長とカルシファー隊長がシュール過ぎる。


「おはようございます。」


 一先ず声を掛けてみると、その声でオンサーさんがピクリと動いて飛び起きた。


「ああおはよう。」


 カルシファー隊長が返してくれるが、トイトニー隊長は相変わらずコルちゃんから目を離さないようだ。


「あの〜、起こして下されば良かったのに。」


 居た堪れなくてそう声を掛けてみると、トイトニー隊長がチラリとこちらを向いた。


「いや、声を出したり身動きした所為であの聖獣を変に刺激するのも良くないと思ってな。」


 そう返して来たトイトニー隊長に目を瞬かせてしまう。


「あ、そうですよね? トイトニー隊長もカルシファー隊長も、コルちゃんとは寝泊まりしたことがないんでしたね。」


「・・・そういう問題じゃないんじゃないか?」


 と、オンサーさんが口を挟んで、首を傾げることになった。


「ケインズは、この聖獣が得体が知れないとは思わないのか?」


 トイトニー隊長の言葉にえっ?と目を見開いてしまった。


「あの同族のサークマイトのこととなると、レイカ殿下の制御を外れるんだろう? そうなると、最早手を付けられない。あのレイカ殿下と同等の聖なる魔法を駆使してくるんだからな?」


 カルシファー隊長の言葉に返す言葉がない。


 確かに、メルのことになるとコルちゃんは我を忘れたようになる。


 これまでコルちゃんが自由を許されていたのは、レイカさんの聖獣になってレイカさんの為だけに動いていたからだ。


 そして、決して人に危害を加えることがなかった。


 だが、この調子でメルを庇い続けたとして、メルの存在が許されなくなってもしも最悪殺処分などということになった場合に、コルちゃんがどうなるのかは誰にも分からない。


 それを危ういと言われてしまうと何も言えなくなってしまう。


「コルちゃんもメルもこのまま側に置き続けられる方法が見付かると良いんですが。」


「まあな。気持ちは分かる。だが、今回のことで聖獣といえどもやはり魔物の一種だと印象付けられてしまったのも事実だ。」


 カルシファー隊長が冷静にそう返してくれて、どうして良いのか分からなくなる。


「とはいえ、聖獣はレイカ殿下の大事なペットだ。それに、神殿でもその聖獣に助けられた者が沢山いる。出来ることならこのまま何事もなく以前の聖獣様に戻って欲しいさ。」


 これにも頷くしかない。


「俺がメルの魔力をどうにか出来れば良いんですよね?」


「そう簡単な問題じゃないだろう? ラスファーン王子の持ち込んだ資料通りなら、サークマイトは魔力を受け渡した対象の魔力器官を作り替えるらしいからな。それにお前自身やお前の魔力器官が耐えられる保証はない。」


 そうだ、これは人体実験に近いものだということは分かる。


「一か八かの賭けにお前が身を捧げる必要があるとは私には思えない。」


 カルシファー隊長がはっきりとそう言ってくれたのは、正直嬉しいかもしれない。


「ありがとうございます。でも俺は、メルがもう可愛いんです。何もせずに諦めたくありません。それに、レイカ殿下をコルちゃんやメルのことで悲しませたくありません。」


「・・・まあ、そうだろうなケインズなら。」


 カルシファー隊長が脱力したようにそう言って、ふっと緩めた表情で小さく笑みを向けて来た。


「それで?レイカ殿下とはどうなんだ?」


 素っ気無い口調になって聞いて来るカルシファー隊長に、こちらも苦笑が浮かんだ。


「言葉を尽くして口説き中です。」


 まさか元上司に恋愛進捗を聞かれて答える羽目になるとは思わなかったが、不思議と隠す気にはならなかった。


「そーか。まあ頑張れ。団長もお前に期待しているようだしな。」


 そんなごく軽い調子のやり取りをトイトニー隊長とオンサーさんが若干引き気味に見ていたのにはまた口元が苦くなった。


「さて、身支度して会議室だ。」


 トイトニー隊長の掛け声に皆で起き上がって本格的に動き始めることになる。


 今日も一日気を揉むことになりそうで、キビキビと動きつつも気持ちは晴れない。


 と、野営セットの片付けと身支度を終えたオンサーさんが近寄って来る。


「ケインズ、今日も一日頑張れ。後でレイカちゃんとも会えるんだろ? ここを頑張って乗り越えたら、きっともっとレイカちゃんとの距離が縮む。そう思って頑張れな。」


 そんな激励をくれたオンサーさんに微笑み返して、それもそうだと気持ちを切り替える。


 昨晩も隊長2人が昨日の出来事について話し合っている間に、オンサーさんとはレイカさんのことを始め色々と話をした。


 たった数日の間に思わぬ出来事が重なって、やはりレイカさんがいるだけで物事が急に動き出すのだとオチが付いた。


 きっとこれからも、レイカさんの側にいればあっと驚くような出来事に度々出会すことになるのかもしれない。


 それにも動じずに付き合えるようになりたいから、やはりぶつかった出来事から何もせずに逃げ出すのはやめようと思う。


「うん、ありがとうオンサーさん。一先ず今日も一日頑張ってみます。」


 そう答えて部屋を出て行くオンサーさんを見送ると、檻に近付いてコルちゃんを出してあげることにする。


 隊長2人が見守る中、扉から出て来たコルちゃんは少し警戒気味に、だがいつもと変わりない様子でこちらに近付いて来る。


「キュウ。」


 控えめな啼き声に、そっと頭を撫でてあげると、スリっと一度だけ腕に頭を擦り付けて扉の方に向かった。


「大丈夫そうか? 落ち着いているようには見えるが。」


 トイトニー隊長の問いに、一先ず頷き返す。


「扉開けてみます。」


 いきなり走り出すようなことがあるかどうか分からないが、警戒しつつも扉を開くと、コルちゃんはきちんとこちらを見上げてこちらの動きに合わせるように扉を潜って部屋を出た。


 ふと、昨日会議室でレイカさんがコルちゃんは物凄く賢くて、人の言葉を完全に理解していると言ったことを思い出した。


「コルちゃん、メルのことが心配なのは分かるけど、レイカさんの言うことはちゃんと聞かないとダメだよ。」


 そう言ってみると、こちらをジッと見上げていたコルちゃんが小さく頷き返して来たように見えた。


「俺も出来るだけ頑張るからな。」


 そう付け加えると、やはり知性のある目でこちらを見返しているような気がする。


「やれやれ本当に言葉を理解して従ってくれるなら有難いのになぁ。」


 カルシファー隊長が溢しながら傍を通って先を歩いて行った。


 無言のトイトニー隊長とコルちゃんを挟むように廊下を歩いて行くと、同僚の騎士達が不思議そうな顔で避けて通してくれる。


 確かに、険しい顔のトイトニー隊長と聖獣コルちゃんを挟んで歩く自分は、最早何があった案件以外の何ものでもないだろう。


 何だあれ?という呟きを時折背後に聞きながら、遮られることなく会議室に辿り着いた。


 ノックして開けた扉の向こうには、寝起きの王城魔法使い達が数名、やはり寝袋から上体を起こしてこちらを見ていた。


「おはようケインズ。」


 そう声を掛けて来たのは、きちんと起き出して資料を手にメルの檻の側で何か記録を取っているコルステアくんだった。


「おはようコルステアくん。ちゃんと寝た?」


 ふと心配になってそう続けてしまうと、キョトンとした目を向けられた。


「ん?ちょっと前に起きたとこ。もう少ししたらおねー様も来るでしょ? その前にちょっとでも調査を進めておきたかったから。」


 この意外な真面目さというかマメさとレイカさんに対する献身度にはいつもながら感心してしまう。


「そっか。」


 そんなやり取りの間に、コルちゃんはそっとメルの檻に駆け寄って、檻の中で蹲っているメルに小声で啼き掛けている。


「ケインズ、ごめん。メルがケインズの魔力取り込んでるの気付いてたのに、多分問題ないだろうって流してて。」


 いきなり始まったコルステアくんの謝罪に、驚いて首を振る。


「いや、当事者の俺も大丈夫だろうって楽観視してたし。コルステアくんの所為じゃないよ。」


「それでも、もっとサークマイトの特性のことしっかり調べて可能性を探ってたら、こうなる前に危険に気付けたかもしれなかったし。」


 珍しく素直に落ち込んでいる様子のコルステアくんが妙に可愛らしく感じる。


「もしもを言い出したらキリがないよ。前向きに考えよう。幸いレイカさんが俺とメルのことを一生懸命考えて手を打ってくれるつもりでいるから。」


 そう返すと、コルステアくんの唇の先が少しだけ尖った。

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