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「サークマイトはもう既にケインズに何かしらの影響を与えているということだな?」


 目を覚ましたレイカさんとノワのやり取りに割り込む形で団長殿下が口を挟む。


 メルが増幅させた魔力を受け取ったことで魔力器官に影響を与えられたと言われたが、全く実感はなかった。


「サークマイトの巨大進化は、魔力器官に他者の魔力を取り込んで増幅した魔力を体内循環させて、魔力器官に戻すことを繰り返す内に魔力器官が強化されることで可能になるのだそうです。メルちゃんの場合、それを自分の魔力器官に戻すのではなく、取り出して受け渡すように改造されていて。その目的は・・・受け手側の魔力器官の作り替えだったみたいです。」


 レイカさんが少しだけ言いにくそうに、ただ濁さずにはっきりと伝えてくれた内容は衝撃的だった。


「元々は、魔力を魔法変換出来なかったレイナードに刺激を与えて魔法を使えるようにすることが目的だったようですね。」


 これまた淡々と続けたレイカさんだが、思うところがあったのは間違いがない。


「・・・知らなかった。カダルシウスに長期で潜り込んでいた者達が、独自で進めていた研究だったのだろう。“饗宴”の上にも報告が上がっていたのか怪しいな。」


 これまた冷静に口を挟んだのはラスファーン王子だ。


 彼は、こうして知ること全てを包み隠さず明かしてしまって、我が身の心配はないのだろうか?


 そう見返した先で、レイカさんを傷ましそうに見詰めるラスファーン王子のその視線に気付いて、何か胸につかえるような気がした。


「そのサークマイトが目的を果たせぬままたまたま打ち捨てられていて、関わったケインズの魔力を増幅させて作り替えを始めてしまったと、そういうことか?」


 シルヴェイン王子がこれまた苦い口調で纏めていく。


「ええ、恐らくそうなっているんじゃないかと。」


 レイカさんが同意するのに、会議テーブルを囲む視線が厳しくなる。


「弟子の王女殿下は、一体いつ何処でそれを知ったんだ?」


 取り敢えず取り繕うつもりがあるのかどうか怪しい言葉使いでタイナーさんが突っ込んでいる。


 他の皆も小さく頷いていたりして、倒れたばかりのレイカさんが気の毒になる。


「えっと、それは・・・。さっき倒れた時に。多分、聖獣の能力の一つなのか、過去の映像を見せられたんじゃないかと思います。魔法使いが2人そんなことを話していました。」


 これには唸るような未消化な声がそこここで上がります。


「・・・分かった。一先ず現状維持で明日まで大丈夫なら、レイカは宮に帰って休みなさい。後のことはケインズの意思確認も含めて引き受けるから。」


 団長殿下にそう説得されたレイカさんは、こちらに躊躇うような視線を向けて来るのに、微笑んで頷き返す。


「大丈夫ですから、レイカ殿下はお休み下さい。」


 そう返すが、それでもレイカさんは不安そうな揺れる瞳を向けて来る。


「おねー様、そんなに心配だったら、そのチビ魔人を貸して。そいつはおねー様の参謀役なんでしょ? おねー様の代わりになるんじゃない?」


 見兼ねたコルステアくんがそう口を挟んでくれるのに、レイカさんと肩の上のノワが視線を交わして。


「「え?」」


 同時に何か嫌そうな声を上げた。


「ちょっと我が君、そこは何で嫌そうなんです?」


「え? それはちょっとほら、不安しかないじゃない? 危険物は手綱も付けずに野に放っちゃいけないと思うし。」


「はい? 我が君、この超頭脳明晰品行方正な役立つ貴女の下僕を捕まえて何が危険物ですか。」


「へぇ、品行方正の意味、ググってこ〜い。てゆうか、そも残る気ないでしょ?」


「当たり前です。私は我が君限定の優秀な下僕ですから、その他大勢には全く興味はございません。勝手に野垂れ死のうが刻まれようが煮炊きされようが全く良心は痛みません。」


 言い切ったノワに、レイカさんがワナワナと震えている。


「知ってたけど! あんたはもう表に出て来ないで! 今後は非公開仕様でお願いします!」


「喜んで〜!」


 この勝負は、笑顔で言い切ったノワの勝ちだと何故か分かってしまった。


 レイカさんが拳を握って何か苦悩の表情を浮かべている。


「この変態魔人の個人情報やら彼自身のことを追求しないことと、情報の出所リソースを探ろうとしないこと。それと、あくまで頭から信じずに今後の方針の参考にするだけなら、置いて行っても構いません。」


 そう唐突に方針転換したレイカさんには戸惑いつつもノワに目を向けると、黙って少しだけ嫌そうな顔で肩を竦めている。


 もしかしたら、ノワとしては初めから引き受けるつもりだったのかもしれない。


 ノワは恐らく、レイカさんが感じている以上にレイカさんを大事に思っているのではないだろうか。


 だからレイカさんが大事にしているものや人も、素直ではない態度の裏で尊重しようとしているのかもしれない。


「そういう訳だから、ノワ、頼んだわよ? 頼りにしてるからね?」


「もっと褒めて良いんですよ? ご褒美も絶賛受付中です。」


 にこにこ笑顔で調子に乗るノワには、若干イラッと来るが、これもワザとなのかもしれない。


「・・・仕事しろ。」


 低い声で言い放ったレイカさんが椅子から腰を浮かそうとすると、さっとリーベンさんが近付いて来る。


「殿下、失礼致します。」


 一声掛けてから流れるような動作でサッと抱き上げてしまうリーベンさんは流石だ。


「え? 歩きますよ?」


「ご冗談を。大人しく運ばれて下さい。」


 そんなやり取りを経て護衛の騎士達に囲まれて去って行くレイカさんを見送った。


「さて、これまでの話を受けて、ケインズの意思を聞くことになるが、その前に皆の意見を聞いておきたい。」


 団長殿下が会議テーブルに座る面々を見渡す。


「では、私から一つ宜しいでしょうか?」


 王城魔法使い長のカリアンさんが手を挙げた。


「サークマイトの魔力器官作り替えは、正直非常に興味があります。我々サポートの下で是非取り組んで頂きたい、と言いたいところですが。これを試すのは非常に危険だとご忠告させて頂きます。検証さえもされているか怪しいですし、失敗すればケインズ殿のお命はないでしょう。」


 カリアンさんのこちらのことを尊重した公平な見解には頭が下がる。


「俺もやめておくべきだと思う。」


 続いてタイナーさんが口を開く。


「ただ、そうなるとケインズのことを考えてサークマイトは始末するべきだが、そうなった時の聖獣の出方が分からない。最悪聖獣まで始末する羽目になるかもしれないが、それをレイカが良しとするとは思えない。」


 それもそうだ。


「僕は、レイカ殿下立ち合いの下で、様子を見ながらもう少しだけ試してみるのはどうかと思う。上手く行けばメルを殺さずに済むし、レイカ殿下の聖獣も安泰だ。何より、レイカ殿下は何か秘策を用意しようとするような気がする。」


 コルステアくんが言って、チラッとノワに目を向けた。


「我が君は、魔法はど素人ですが、センスはあるんですよね、あれで。そこのお気に入りの騎士とあのサークマイトの為と限定すれば、一生懸命何か捻り出すでしょう。」


「ノワが考えてあげてるんじゃないの?」


 コルステアくんのツッコミに、ノワはふっと少し皮肉げに笑った。


「これでも色々と制約持ちなんですよ。我が君がボンヤリとでも構想を出してくれないと私が一から誘導は出来ないんですよ。」


「・・・そう。そういうこと。」


 ボソッと呟いたコルステアくんだが、それ以上の追求は控えたようだ。


「ケインズ、試すのは良いが、そういう人工的な操作は、間違いなく命を縮める。その覚悟はしておいた方がいいだろう。」


 懸念の滲むこの発言はラスファーン王子だ。


 彼に言われると何か説得力がある。


 ただでさえレイカさんとのことで気にしている寿命のことを言われると、胸にズンと来た。


「まあ、我が君の手が入らなければ間違いなく失敗するでしょう。魔力器官の作り替えなんて本来なら許されざる禁忌だ。」


 ノワの追い討ちに、更に気が重くなる。


「世界の禁忌か。それならこれまで何故エダンミールだけはそれが許されてたのやら。」


 タイナーさんの皮肉げな言葉はノワとラスファーン王子に向けられているようだ。


「許されてなかったんですけどね。ねぇエダンミールの王子様? だから、我が君の手が特別に入らなければ、彼も死んでた。我が君は彼の延命にそれは一生懸命だったんですよ?」


 にこりと笑いながら軽い口調で話すノワだが、レイカさんが油断ならないと言う理由が何となく分かるような気がする。


「んー、何となく分かって来たぞ? レイカの魔法関与があれば禁忌が許されるのは、他の人間では再現出来ない事が条件なんじゃないのか?」


 タイナーさんがそう溢すと、ノワがまたふっと笑った。


「中々良い勘をしていますね。私の感触でも概ねそうではないかと読んでいますよ。」


 そう答えたノワにタイナーさんが首を傾げる。


「初めから条件を知ってる訳じゃないのか?」


「当たり前です。私は神でも世界そのものでもありませんからね。境界線を感じ取りながらそれを越えてしまわないように我が君を誘導するのが役目なのだと思っていますよ。」


 これには、居合わせた皆が息を呑んだ。


 魔人の立ち位置が漸く分かったということだろう。


「つまり、レイカがもう手遅れかもしれないと言ったのなら、何かしらレイカの手を加えて落ち着かせる必要があるといことだな?」


 団長殿下の纏めに、皆が何とも言えない顔で頷き返す。


「その上で、ケインズがこの先を進めるのかどうかを決断して欲しい。」


 団長殿下の視線が真っ直ぐこちらに来る。


「明日、レイカの体調に問題がなければこの続きをレイカを交えて行う。それまでに心を決めておくように。」


「はい。」


 正直今すぐ答えろと言われても答え切れないと思っていたので、考える時間を貰えたのは助かった。

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