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「・・・やはり生後の魔力器官の移植や増設は今の魔法技術では不可能。と言って、妊娠初期の魔力器官が形造られる時期に刺激を与えて器官の発達を促進する方法は、成功率が非常に低い。成功率が1パーセントにも満たないのでは、試す価値自体がほぼない。そもそもあれだけばら撒いて成功事例が一件しかないのだからな。」


「では、サークマイトを用いた魔力器官の作り替えの方が見込みがあるとお認め頂けると?」


「それも、相当条件が揃わなくては難しいだろうな。作り替えに耐え得る魔力器官を持ち合わせていなければ意味がない。」


「まあそうですが、唯一の成功例の魔王の魔力持ちがあの通り魔法発動が出来ないようでは。他の代替案を模索する他ありません。」


「そうだな。だからこそ、そのサークマイトで魔力器官に再度刺激を与えてやることで、本物の魔王に化けるかどうかを見極めることになったのだ。それも見込めなければ、予定通り研究の長期化に向けた実験場の確保に切り替えれば良いだけのこと。」


「さて、元から魔王の魔力だけは備えている者に使うよりも、いっそ魔力量がある程度以上の者の魔力器官を作り替えた方が宜しくはございませんか?」


「誰でも良いという訳ではないのだぞ? 失敗は許されないのだ。サークマイトが確実に作り替えを出来る方法が検証出来るまでは、下手な対象で試す訳にはいかない。」


「まあ左様でございますな。サークマイトの魔力器官作り替えに耐え得る魔力器官、ですか。これまた偶然の産物でもなければ、検証に時間が掛かりそうです。」


「そうぼやくな。一先ず、王城魔法使いの塔までサークマイトを運ぶ段取りは出来たのだ。後は、対象をどうやって王城魔法使いの塔まで誘き寄せるかだが、それはこちらの副王城魔法使い長殿にお任せするしかあるまい。」


「あーあの者ですか。気位だけは高いですが、口程もない。10年以上も対象に近付くことすら出来ずにいるような役立たずですよ?」


「それでも、計画には必要だ。無事に実験場が手に入った暁には、堂々と鼻っ柱を折ってやれば良い。」


「そうですな。それまでは精々持ち上げて利用し尽くしてやりましょうか。」


 頭上から聞こえて来るやり取りに、身を寄せて来る大事な存在を守るように首を伸ばして上から覆い被さる。


 自分達を閉じ込めて時々痛い針を刺したり変な餌を食べさせたりする奴らの言葉は、育つ中で段々と分かるようになって来た。


 一緒にいる大事な子よりも奴らの言葉が理解出来たが、奴らが欲しがったのは大事な子の方だった。


 いつもくっ付いて過ごす自分達を引き離す奴らが、嫌いで嫌いで堪らなかった。




 眉間に皺を寄せたまま重い瞼を押し開けると、視界がやけにぼんやりとしていて、何度か瞬きを繰り返すと、端正な顎のラインから遠くにやった澄んだ茶色の瞳が目に入りました。


 意思を宿した光を放っている瞳を縁取る長いまつ毛の密度が凄くて、時折挟まれる瞬きの度にバサハザと音が聞こえそうです。


 髪色と同じく少しだけ赤く色の抜けた茶色のまつ毛でしたが、セオリー通り爪楊枝乗せてみるとサラッと落ちそうな持ち上がってない直毛ですね。


「まつ毛長くて綺麗。」


 ぼんやりした後ポツリと呟くと、バッとその視線がこちらに落ちて来ました。


「レイカさん?! ・・・大丈夫?」


 驚きの声の後、眉下がりな心配顔になったケインズさんですが、顔が真っ赤です。


「殿下!」


「おねー様?」


 リーベンさんとコルステアくんの声が聞こえて来ます。


「はあ。我が君、ケインズの膝枕でイチャイチャしないで下さいよ。」


 ブスッとした顔でこちらを覗き込んで来たのは何と皆様にお姿公開中のノワです。


「あら、ノワが皆に姿見せてるの珍しい〜・・・ん? 膝枕?」


 と、唐突に言葉の中身が脳に落とし込まれて、ハッとします。


「ちょ! ごめんなさいケインズさん!」


 慌てて頭を持ち上げて腹筋に力を入れて半身を起こそうとすると、一瞬くらっと来て目を瞑りました。


「レイカさん危ない!」


 座ったままギュッと抱き寄せられる格好になって、コツンと硬い胸板に横顔が当たりました。


「あはは、済みません。」


 これまた慌てて頭を起こそうとしましたが、ケインズさんの腕が問答無用で押し戻して来ます。


「危ないからこのままもたれていて下さい。」


 唐突に口調が改まってしまいましたが、ケインズさんが少しだけムッとした顔付きになっているのは何故でしょうか?


「えっと、済みません。じゃ、ちょっとだけこのままで。」


「・・・駄目だ、我が君寝ぼけてますね? 全く。」


 手を腰に当ててのノワの発言に苦笑いです。


「あ、えっと。そういえばノワ、衝撃の新事実が発覚したんだよ?」


「はい?」


 いつもよりぶっきら棒なノワに、にこりと笑顔を向けます。


「あのね。コルちゃんって、人語がしっかり理解出来てるみたい。」


「・・・は? 我が君、また何処で何を見て来たんだか。」


 呆れ顔のノワがくるっと後ろを振り返って、その視線の先に目をやったところで、漸く現状が見えて来ました。


「え? ・・・・・・ごめんなさい。目が覚めたところからやり直して良いですか?」


「・・・いや、気にするな。ケインズ、レイカを椅子まで運んでやってくれ。」


 シルヴェイン王子の声が聞こえて、ケインズさんが頷き返しています。


 直ぐに何でもないようにケインズさんに抱き上げられて、会議テーブルの椅子にそれはそおっと運び下されました。


 物凄く気まずい気分になりましたが、皆が気にしていないよという何か微笑ましげな笑みを向けてくれて、穴があったら入りたくなりました。


「レイカ、辛いようなら背もたれにもたれていると良い。」


 そんなシルヴェイン王子の優しさが痛くなりつつ、確かに物凄く怠いのでお行儀悪いですが、後ろにもたれかかっていることにします。


「さて、先程のノワの話を聞く限りでは、聖獣は聖なる魔法で檻の中の増幅した魔力を還元して、増幅魔法の一時停止をしたということだったが。レイカ、これは間違いないか?」


 倒れてからそれ程時間は経っていなかったようですが、コルちゃん視点で見た夢の中身はどう話しましょうか。


 チラッと檻の方に目をやると、檻にもたれるようにして眠っているコルちゃんと同じく檻の中で眠っているメルちゃんの姿が見えます。


 コルちゃんは人語を話すことは出来ないようですが、もしかしたら過去に聞き知ったことを知らせようとしてくれたのかもしれません。


「ええ、多分そうだと思います。コルちゃんだけでは魔力切れを起こしそうだったので、手伝いましたけど。」


「つまり、聖獣は単体で相当な知能を持っているようだな。」


 そう口にしたシルヴェイン王子は懸念の滲む難しい表情です。


 その気持ちも分からないでもないですが、コルちゃんに余り警戒心を抱いて欲しくありません。


「これまでレイカに忠実だった聖獣が、あのサークマイトのことは特別だと。それは非常に危ういことだ。これは分かるな?」


 シルヴェイン王子がはっきりとこちらに向けて言う言葉に、苦い気持ちになります。


「それでも、メルちゃんを排除しようとするのはやめて下さい。もしかしたら、もう手遅れかもしれないので。」


 言わずにおく訳にもいかずに、コルちゃんから共有された情報を開示することにします。


 そのままケインズさんに目を向けて魔力器官に目を凝らしてみます。


 魔力器官は心臓とは別器官だそうですが、普通は目視出来ないそれは心臓と重なり合うように存在しているのではないでしょうか。


 だから生き物が亡くなると心臓が魔石化するというなら、説明が付く気がします。


 ケインズさんの心臓の辺りから循環する魔力回路が見えますが、相変わらず特に異常があるようには見えません。


 メルちゃんが増幅した魔力を流し込んだ状態でないと分からないのかもしれません。


「ノワ、ケインズさんの魔力器官には異常はない?」


「・・・それを訊きますか?」


 そのじっとりしたノワの言い方に嫌な予感がします。


「だって、私には魔力器官は見えないから。メルちゃんから魔力を受け取る前と後で変化があったか分からないのよ。」


 こちらも少し苦い顔でそう限定的な聞き方をすると、ノワが察したようにぴくりと眉を上げました。


「・・・見えないですか。」


「見えないですよ? 魔力器官の概念がさっぱり飲み込めないから。」


 正直に返してみると、ノワがあーっと痛そうな顔になりました。


 ラスファーン王子の魔力回路が見えた時も、心臓の辺りを起点として出所の違う2本の魔力回路が伸びているから、魔力器官が2つあることが分かっただけで、魔力器官は見えていなかったのだと、今はっきりしました。


「・・・そうですか。結論から言いますが、サークマイトから魔力を送り込まれたことで、微弱な変化はあります。」


「それなら、今直ぐに切り離せば、ケインズさんに支障はない?」


 慎重に詰めていきたいと思います。


「さあ、と申し上げておきますよ? 検証もされていないことをはっきりと影響なしとは言えませんからね。逆も然りで、これ以上サークマイトの魔力を受け入れ続けてケインズに支障がない保証は全くありません。」


 きっぱりはっきりと言い切ってくれたノワに、こちらも困った顔になってしまいました。

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