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 メルが檻ごと会議室に運び込まれて来たのは、夕方近くになってからだった。


 その間に、タイナーさんや魔人(ノワ)と相談して来た様子のレイカさんとメルのことについて更に話し合ったが、最終的には実際のメルの様子を確認してからという話になった。


 その時にレイカさんからは幾つか大きな選択肢を提示された。


 先程ラスファーン王子からされた話にも重なるが、メルから送られて来た魔力を活用出来るものならしたいか、そもそも受け取りたくないか。


 受け取りたくない場合は、魔道具か何かを自分側かメルの側で装着して遮るか、メルに刻まれている魔法文字を弄るか。


 どちらの場合もメルの命が危険に晒される可能性があること。


 その他の可能性もメルを確認してみないと分からないと言いながらも、レイカさんは決して始めからメルを始末する選択肢を上げることはなかった。


 そしてレイカさんは、メルが増幅した魔力を送り始めたのは、昨日レイカさんやジャックと会ったことで危機感を感じてしまったのだろうと謝ってくれた。


 例えそうだったとしても、レイカさんが悪い筈などない。


 いつかは何かの形で発動していたのだろうし、その前にレイカさんがメルの異常に気付いてくれていたから、直ぐにこうして対策を打つことも出来たのだ。


「ケインズ、メルの檻には魔力遮断結界を張ってあるけど、そっちは大丈夫?」


 コルステアくんがメルの檻が運び込まれる直前に会議室に入って来て確認してくれる。


「ああうん。多分大丈夫だと思う。」


 自分の魔力の変化には実は余り実感がないのだが、訓練場から戻って以降も特に変化は感じない。


「それじゃ、運び込んで!」


 コルステアくんの言葉に従って、クイズナー隊長の隊の騎士達がメルの檻を運び入れるが、駆け寄った先で見えたのは怯えたように檻の中で小さくなったメルの姿だった。


「メル。」


 そっと呼び掛けると、身を縮めたままのメルがチラッとこちらを見上げたようだった。


「ケインズくん、悪いけど離れて。」


 檻に付き添って来た様子のマニメイラさんに言われて、仕方なく数歩後ろに下がった。


 運んできた騎士達が出ていくと、入れ替わりに王城魔法使い長カリアンさんとトイトニー隊長も戻ってきたようだ。


 直ぐに団長殿下の方に向かって行くトイトニー隊長は何か報告がありそうだ。


 王城魔法使いの3人が取り囲むメルの檻にレイカさんとタイナーさんが近付いて行く。


 そして、リーベンさんがレイカさんの後方にさり気なく待機している。


 コルステアくんの隣に並んで檻を覗き込むレイカさんに皆の視線が集中する。


「おねー様、どう?」


 コルステアくんが遠慮のない口調で取り繕わずに問い掛けていて、思わず会議室内を見渡してしまったが、皆微妙な苦笑いをしつつも口を挟まなかった。


「・・・一先ずメルちゃんが檻の中一杯に広がるくらい溜め込んでる増幅させた魔力を還元魔法で元に戻して、増幅機能だけ一時停止してみてから、ケインズさんに宥めて貰ってメルちゃんを落ち着かせるのはどうでしょう?」


 考えながら簡単に口にするレイカさんだが、周りの皆が引きつった顔になっている。


 そのレイカさんがやってみると言った魔法のどれもが聖なる魔法で、かなり魔力消費が必要だということが分かっているのだろう。


「それ、大丈夫なの?」


 ここでも遠慮なく突っ込むのはコルステアくんのようだ。


「・・・うん、多分。」


 言ってからチラッと肩の辺りに目をやるレイカさんは魔人ノワに確認を取っているのだろう。


「聖獣の方は、まだ来ていないのか?」


 タイナーさんがそう誰にともなく問い掛けているのに、団長殿下が頷きつつやはりこちらに近付いて来る。


「クイズナーがそのサークマイト搬出を見届けてからその足で迎えに寄っているが、まだのようだな。」


 メルが研究施設跡で処分され掛けていた時に駆け付けたコルちゃんとの間には何かの絆があるのではないかと思っていたが、今回は駆け付けられなかった理由があったのだろうか。


「ジャック、手伝ってくれる?」


 レイカさんの呼び掛けに姿を消していたジャックがいつの間にレイカさんの足元にいて、その手でレイカさんの上着の裾を掴んでいる。


 この隠密能力には皆が首を傾げているが、余程特別なクワランカーなのだと思っておこうと思う。


 レイカさんの魔力の影響は自分を含め、余り大々的にしない方が良いことのような気がする。


「本当に、聖獣の手助けがなくても大丈夫なのか?」


 最終確認のように団長殿下がコルちゃんのことを確かめるのに、レイカさんは少しだけ困ったように団長殿下を見返しているように見える。


 いつも非常事態の時にはレイカさんが何とかしてきてくれたが、きっと本人に絶対の自信や成功の確信があった訳ではないのだろう。


 大抵のことは何とか出来ると口にするレイカさんだが、結果の全てを読み切れる訳がないのだ。


 本当は不安もあるのだろう。


 それを読み取ったのだろう、団長殿下が続けて口にする。


「では、もう一度整理しよう。檻の中のサークマイトは、今魔力遮断結界を張られている檻の中でケインズから貰い受けた魔力を増幅させて排出している。これは結界がなければケインズに真っ直ぐ飛んでいた筈だということだな?」


「ええ、恐らく。」


 そう答えたレイカさんもメルに刻まれた魔法文字の確認はまだ出来ていないということだろう。


「どの程度の増幅割合なんだ? 仮にそれが飛んで来たとして、ケインズは受けとめ切れるものなのか?」


 と、これはいつの間にかこちらに近付いていたラスファーン王子のようだ。


 これにレイカさんは振り返ってタイナーさんと肩の上にチラチラっと目を向けたようだった。


「ケインズさんがメルちゃんから送られて来た魔力をどう受け取っているのか、実際に見てみないと分かりません。」


「魔力器官で受けるのか、魔力回路に途中注入されるのか、ということか?」


 ボソッと呟くように溢したラスファーン王子は何か考えているような顔だ。


「あ・・・」


 唐突に何かに気付いた様子のレイカさんがこちらを見て、次にラスファーン王子に目を向けてから、肩の上にムッとしたような顔を向けたようだ。


 何かに気付いたようだが、それをここで話すつもりはなさそうで、不本意そうに口を引き結んでいる。


「・・・レイカ、状況確認をする為に、今絶対に必要なことだけをしておこう。現状維持で一先ず問題がないなら、何をどう進めるかを話し合った後にするべきだ。」


 団長殿下が冷静にそう突っ込んでいて、レイカさんは苦い顔で頷き返していた。


「ええ。では、魔力遮断結界だけ絶対に途切れないように維持をお願いします。それから、対策会議を再開しましょう。」


 何かを思い悩むような曇った瞳のレイカさんは心配だが、一先ず自分にもメルにも今直ぐ何かが起こる訳ではなさそうで正直ホッとした。


「おねー様、大丈夫?」


 檻の前から踵を返したレイカさんにコルステアくんが案じるように声を掛けていて、それにレイカさんが眉下がりに困ったような笑みを返している。


 それを微妙に羨ましい顔で眺めているのは、自分だけではなさそうだ。


 と、そんなふっと緩んだ空気の中で、自分もメルに声だけでも掛けようと一歩踏み出したところで、外の廊下が騒ついていることに気付いた。


 バンッと前触れなく開いた扉からスルッと白い影が飛び込んで来る。


「コルちゃん?」


 レイカさんの呟きにも止まることなく檻の前に滑り込んだコルちゃんがツノを光らせる。


「殿下済みません! 聖獣が!」


 クイズナー隊長の叫びと共に、檻の側を起点に目を焼くような真っ白な光が迸った。


「コルちゃん待って!」


 レイカさんの叫び声が聞こえて、レイカさんの真珠色の魔力が自分でも感知出来る程大量に動いたのを感じた。


「レイカ!」


「レイカさん!」


「殿下!」


 複数のそれに気付いた者達の声が上がるが、光が収まった檻の前ではコルちゃんを抱えたレイカさんが倒れていた。


「全く!」


 その肩の上で腕を組んだ魔人ノワの姿が見えて、忌々しそうに悪態を吐いていた。


「ノワ? レイカさんは大丈夫なのか?」


 駆け寄ってそう問い掛けると、こちらを睨むように見上げたノワが深々と溜息を吐いた。


「まあ。あの下僕には後でお説教するとして、我が君のあのお人好し体質は何とかならないのか。全く、昔の・・・とそっくりで嫌になる。」


 そう吐き捨てるように言ったノワだが、言葉とは裏腹に案じるような目でレイカさんを見下ろしている。


「レイカの魔人殿、何があったのか説明してくれ。」


 団長殿下がそう丁寧に声を掛けるのに、ノワは嫌そうな溜息を吐いて、それでも小さく頷いたようだった。

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