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「ただいま戻りました。」


 声を掛けつつ入っていった会議室には、予想外の顔触れが増えていて、思わず立ち止まってしまいました。


「お帰りなさいませ、王女殿下。シルヴェイン王子殿下のご許可を頂いてこちらでお待ち申し上げておりました。」


 アンネリアさんにそう声を掛けられましたが、その他の補佐官達とラスファーン王子が互いに腹黒い笑みを隠しつつ何かにこやかに語り合っている様子が見えて胃が痛くなりそうになりました。


 いつの間に接触していたのでしょう。


 そして、それをこれまた張り付けた笑顔で内心オロオロと見守っている様子のケインズさんには、本当に申し訳ない気持ちになってしまいました。


「どうしたんですか? 補佐官の皆さんがお揃いで。」


 一先ずさっさと用件を聞いてしまおうと声を掛けます。


 と、補佐官の皆さんが目の前にズラッと並びました。


 何事かと身構えていると、右代表でアレクシスさんが一歩前に出て礼を取りました。


「王女殿下、それぞれ前所属部署での手続きを終え、王弟殿下、宰相閣下より正式に王女殿下の補佐官に任命されましてございます。これよりは、我々一同補佐官として殿下のお側にお仕えさせて頂きます。」


 そのアレクシスさんの発言に続いて他の3人も一斉にこちらに礼を取ります。


 この仰々しいご挨拶には身が引けそうになりましたが、頑張って笑顔を張り付けて頷き返しました。


「ええ、宜しくお願いしますね。でも、皆で張り付いてくれなくても良いかと思うのですけれど。」


 護衛さん達の同行も大袈裟だと思うのに、補佐官さん達にゾロゾロ付いて来られるかと思うとちょっとゾッとします。


「勿論、基本的には王女宮が我々の仕事場となりますので、仕事部屋に詰めさせて頂き各々の業務をこなす事になりますが、殿下が宮を出られる際には誰か一人は必ずお供するようにと、王弟殿下より厳命を頂いております。」


「え? 叔父様からですか?」


 リーベンさん達もいるのに、何故そんな面倒な命令を出したのか気になります。


「はい。王弟殿下よりはお側に付いていれば分かると伺いましたが、先程第二王子殿下より、殿下がこちらにいらっしゃる理由を伺いまして、何となく理解致しました。」


 とこれは、バステルさんですね。


「王女殿下の周りには驚く程の早さで様々な物事が持ち込まれたり、動いたりするのだと。」


 これはにこやかにコルドールさんが言ってくれました。


「流石に、朝我々と顔合わせをされた直後にこのような大問題が発生するとは、予想もしておりませんでした。補佐官として、こういった現場には誰かが立ち会って、他の者に共有が必要だとはっきりと認識致しました。」


 最後は若干不機嫌顔に見えるクランシオンさんですね。


 手が掛かるとでも思われているのでしょうか?


 それでも、確かにこう急ピッチで物事が発生してくる体質だということは、誰か補佐官の一人に知っておいて貰うのも悪くないのかもしれません。


 確かに、共有の手間が省けます。


「分かりました。では、そのようにお願いするとして、今日は誰が残りますか?」


 この後、この場はちょっと人でごった返す予定なので、一人だけ残って貰った方が良さそうです。


 さっと目を見交わした補佐官さん達、そこですっと素早く視線を返して来たのはバステルさんでした。


「では、私が。法律関連の書物の手配は済みまして、殿下の執務室に既にお届け済みですので、この後特別な業務はございませんから。」


 確かに、他の皆さんにはオブザーバーさん達から宿題が出ていましたね。


「では、バステルさんお願いします。他の皆さんはご苦労様でした。お戻りになって頂いて構いません。」


 そう纏めると、他の補佐官さん達が微妙な顔のまま頭を下げて解散の運びになりました。


「王女殿下? 少し宜しいでしょうか?」


 アンネリアさんに呼び掛けられてそちらを向くと、にこりと笑みを向けられていました。


「アンネリアさんもローテーションに入るんですか?」


 思わず気の毒になってそう問い返してしまうと、くすくすと笑われました。


「いいえ、お気遣いありがとうございます。私は王女宮での殿下の補佐業務と王弟殿下との調整が主な務めになりますので。ただ、王女宮と雇用契約のあるライアット殿の件につきましては私の管轄となりますので、ライアット殿との面談などの際にはお供させて頂きます。」


 それを話す為に声を掛けてくれた様子のアンネリアさんにはこちらも笑みを返しました。


「それにしても、殿下が新たな補佐官達と良好な関係を築いていけそうで良かったです。流石は慣れておられると感じましたが? 以前もこのようなお立場で職務をこなして来られたとか?」


 そんな何処から聞いたというような期待値もりもりな言葉を貰って顔が引きつってしまいました。


「良好に、いければ良いですよね? それに、こんな国家の中心での責任重大な職ではなかったですよ? 大体、男性の部下はちょっと、まだ苦手意識が残ってますし。」


 最後はボソボソっと溢すと、アンネリアさんが目を瞬かせて、シルヴェイン王子が近寄って来ました。


「私には堂々と一癖も二癖もありそうな補佐達を使い熟せそうな様子に見えたが? それにあいつらは大人しくしているような顔触れではないぞ? それがまあ、大人しくお前の下に付いただけでも快挙だと思うが?」


 にやにやとそんなことを言い出すシルヴェイン王子からはそっと視線を逸らしておきます。


 と、ここでこの場に一人だけ残った補佐官のバステルさんが前に出て来た。


「第二王子殿下、ウチの王女殿下は正直びっくりするような優秀なお方です。本日の午前中、我々補佐官は全員、それをしっかりと胸に刻むことになりました。」


 そんなこれまたとんでもない評価が来て、ギョッとしてしまいます。


「え? 止めてください。そういう過剰評価は胃が痛くなるので。」


 すかさずそう返しておくと、バステルさんにふっと笑われました。


「あの後、些細を報告しましたところ、王弟殿下に散々鼻で笑われました。本当にお人が悪い、王弟殿下は王女殿下がどのようなお方がご存知の上で、我々には何もそういった情報を下さらないままあの場に臨むように仕向けられたのですから。」


 そんな後日談のような話を少し苦笑いで語ってくれたバステルさんには居た堪れない気持ちで一杯になります。


「ま、叔父上の気持ちも分かるな。私も叔父上もレイカには散々振り回された挙句、今の境地に至っているからな。」


 うんうんと何かを分かち合おうとしているシルヴェイン王子にも解せません。


「レイカ、まあ難しく考えるな。優秀な補佐官がお前の下に付いてくれると誓ってくれたのだ。ドンと上に座って、こうしたいああしたいと言ってみれば良い。」


 そんなそれこそ部下に恨まれそうなことをこともなげに言って下さるシルヴェイン王子には一睨みです。


「庶民感覚が抜けないのに、そんなの無理ですよ。お仕事と割り切って頑張って椅子にしがみ付きますけど。」


「レイカ、過去のことはもう忘れろ。ここでは誰にもお前を陥れるようなことはさせない。王家がそんなことは許さない。だから、思うまま好きなように動いて良い。」


 そんな優しい言葉が来ますが、流石にそのままは頷けなくて、口元で小さく笑います。


「思うまま好きにだと、叔父様に怒られて氷漬けにされます。」


「・・・そうだな。周りを時には顧みることも大事だな。」


 そう瞬時に軌道修正したシルヴェイン王子には笑ってしまいました。

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