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「おい、弟子!」


 部屋を出た途端、追い掛けて来たタイナーさんに呼び止められました。


「タイナー師匠せんせい? どうかしたんですか?」


 廊下の端に寄ってタイナーさんが近付いて来るのを待っていると、護衛さん達がおい弟子発言に思うところがあったのか、タイナーさんに厳しい目を向けています。


「エダンミールの王子様のあれは、お前がやったのか?」


 少し厳しい口調のタイナーさんには、きちんと説明した方が良さそうです。


 確かに、延命措置というにはちょっと杜撰過ぎるものなのかもしれません。


「えっと、そっちの空きの会議室に入りましょうか。」


 一部屋挟んだ向こうの会議室に向かうと、護衛さんが扉を開けてくれて、室内の安全確認もしてくれました。


 無言で部屋の中までついて来るのは今回もリーベンさんだけのようです。


「ラスファーン王子のことは、タイナーさんにはきちんと説明しておきますね。そもそもの話があんまり公にしたくない類のものなので。部屋を出たら内緒にして下さい。」


 そう断ってから、ラスファーン王子とサヴィスティン王子の生まれた時の話まで遡って説明を始めました。


 ただ、サヴィスティン王子が本当は生きて産まれてこなかったことは話しましたが、遺体に魔力を循環して生かしていたということにして、魔人の身体として世界システムを出入りしていたことは話さないことにしました。


「それで、二つの身体を維持するには魔力が足りなくなって、一つに纏めた結果があれか。」


 タイナーさんが苦々しい口調でそう纏めてくれましたが、全く納得がいっていないような顔付きです。


「腕輪は双子の片割れ王子に魔力を送り込む為に意図的に圧を掛けてあった訳だろう? それをそのまま引き込むのは乱暴過ぎるとは思わなかったのか?」


「そうなんですけど、腕輪の魔法文字を書き換えるとしてもその程度を指定するのは難しいって言われたんです。」


 だから慌てて減圧の為の魔法を古代魔法で掛けてしまったのですが。


「言われたっていうのは?」


「・・・ウチの魔人にです。」


 隠してもバレそうなので正直にそう話すと、タイナーさんが呆れたような大きな溜息を吐きました。


「お前、今ここに呼び出せその魔人を。大体何のつもりであんな怪しいのを側に置いてるんだ?」


「怪しいですけど、概ね優秀だし、色々知ってるし、秘密を何でも共有出来るし、呼べば何処にでも来て答えてくれるから・・・」


 並べ立ててみると、驚く程ノワに依存していたことに気付いて、自分でも驚いてしまいました。


「・・・あー、まあそうかもしれないけどな。お前は寵児で、無理矢理こっちに連れて来られたんだったか? そりゃそうもなるよな。」


 タイナーさんのお怒り気味だった声音が落ち着いて、ポンと頭の上に手が乗りました。


「お前が、しれっと何でもない顔して色々熟すから、俺ですらスカッと忘れてしまうことがあるけどな。ま、いきなりお前みたいな立場に立たされたら、誰かにべったり頼りたくもなるよな? 悪かった。もっとちゃんと側について見ててやらなきゃならなかったな。弟子だからな、お前は。」


 そんな思い掛け無い優しい言葉が来て、不覚にもうるっと来そうになりました。


「そ、そうですよ? こう見えて、私実は物凄く大変なんですから。」


 慌ててそう強気で言い切って見せましたが、タイナーさんには小さく肩を竦められました。


「だったら、逃げてくれば良いって言ってやっただろ? 全く、不器用な奴だな。手掛けることは何でも無駄に小器用に熟す癖にな。」


 褒めているのか貶しているのか微妙に良く分からない言葉を吐き出しながらも、タイナーさんの手は優しく頭を撫でてくれます。


「だったらこれからでも良いので、ずっと側にいてアドバイザーになって下さいよ。」


「それは無理。ラフィツリタにエイミア待たせてるし。」


 ここでやっぱりあっさり捨てて下さる師匠は本当に良い性格してらっしゃいます。


「とはいえ、このままほっとく訳にもいかないからな。ここらで真面目に行っとくか。」


 そう言って頭から手を下ろしたタイナーさんは、こちらをジッと見つめ返して来ます。


「だから呼び出せって。お前の魔人様をな。」


 その流れでどうしてノワに話が向いたのか分かりませんでしたが、これは断れそうにないです。


 そして、ノワにも文句を言われそうなのですが。


「ノワ?」


 控えめに呼び掛けてみると、肩の上にそれは偉そうに足を組んで座っているウチの魔人様が現れました。


 そして、腕を組んで睨み合うノワとタイナーさん。


 これは最近では珍しいことに、他人に見えるバージョンのノワさんのようです。


「覚えがあるんだよな。そのチビのやり口と言動にはな。」


「嫌ですねぇ。これだから長生きなお爺さんは。老害って言葉覚えた方が良いんじゃないでしょうかねぇ。」


 人の肩口でドンパチやり合うのは是非止めて貰いたいです。


「どっちが老害だよ。俺より相当長生きして漸く死んだって聞いてたのにな。先代大神官のレン様だったか?」


「我が君、こういうガラの悪い大魔法使いとはお友達になっちゃいけませんよ?」


 そんな低次元な言い合いをしている二人には冷たい目を向けておきました。


「え? ノワって現役の大神官様だった時もこんな人格だったの?」


 それはちょっとどうでしょう?


 長く生きてその末に魔人になってしまったから、人格者の大神官様が歪んだのかと思っていました。


「まさか。現役時代にはきちんと模範的な大神官を踏襲しておりましたよ? ですから、マルキスにもあれ程慕われていた訳です。」


「ん? あんたが大神官だった頃は確かにファデラート大神殿は世界中の人々からの信仰を一身に集める一大勢力だった。それに相応しい救済活動も色々とやってたみたいだし、大神殿が世界から求められる長く安定した時代だった。ところがな、その大神官様は何故か、世界に降り立って活躍中の寵児からは必ず距離を置いて、救援を求められても一切それに応えようとはしなかった。」


 それは、何故なのか分かる気がします。


「同じく、困窮する長命種にも手を差し伸べようとはしなかった。まるでな、長命種を消そうとしている世界の意思を尊重していますとでもいうようにな。」


 これにはむすっとした顔で黙り込んだノワですが、まあ色々とあるのでしょう。


「そんなあんたが、何で今更コイツの側にいる? どういうつもりだ?」


 タイナーさん、これは大分ノワに対する鬱屈とした感情を抑えていたようです。


「可哀想だと思ったんですよ。最初は、本当に純粋に。災厄をもたらす魔王に仕立て上げられる予定だったレイナードが、自らの保身の為に用意した身代わりは、何も知らされず身を守る術も持たず、ただ何の悪戯か本当に神々の憐れみなのか、魔力と感知能力だけは、古を生きた竜族かと思う程のものを与えられていたんです。」


「魔力量はレイナード譲り、だが魔力自体は元からレイカの持ちものかと思っていたが、こちらに来てから与えられたものだったのか?」


 自分の分析をこんな形で他人から聞くのは、何とも落ち着かない気分になるものです。


「多分、としか言いようがありませんが、そもそもあちらの人間には魔力器官がない筈ですからね。」


「うーん? それじゃ、どうやって生きてるんだ? 全身を魔力が回らないなら生命活動も出来ないんじゃないのか?」


 そう言われると、訳が分からなくなってきましたよ?


「待って、それじゃ中身入れ替わりの理論が成り立たないんじゃないの? 魔力と魂の関係って?」


 混乱しつつ言葉を挟むと、ノワが小さな肩を竦めています。


「ま、その辺りは確かめようもないことですし、今となっては我が君にも関係のない話ですけどね。」


 そんな傍に逸れた話になりましたが、ノワは本当にどうして側にいることにしたんでしょうか?


「まあ、何でしょうね。簡単に言うと、余りにも可哀想だからせめて他の寵児並みに生きられるようにと手を貸している内に、情が湧いたんでしょうね。それに、我が君は色々と予想外の言動をして世界都合の誘導を振り切って引っ掻き回すし、面白くて目が離せないってところでしょうか?」


「それを適当に手伝ってる内に、自分が世界に対してしてやったっていう気になれるからだろ?」


 勝手極まりない展開がされているノワの分析に、切り口鮮やかに斬りつけるタイナーさんの一言で血の雨が降りそうです。


「あのね。もうその辺り深掘りしても痛いだけなので、目下の相談事に戻っても良いですか?」


 態々会議室を出たのは、メルちゃんとケインズさんのことをノワにこっそり相談してみる為でした。


 そこにタイナーさんが加わるならそれはそれで良い気がします。


 物知らずな素人だからこそ出る非常識な対策案が、何かを生むって信じていようと思います。

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