表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

525/543

525

 イルディさんが持って来てくれた資料に目を通してみましたが、概要と観察記録が連綿と綴られていて、結果やその後の活用については記されていませんでした。


 不完全な資料である以上、それ以外のことは想像するしかありません。


 あとはラスファーン王子がレイナードに仕掛ける予定だったこの後のことを何処まで知っているかと、これに関わった人達の情報が得られれば探してみても良いかもしれません。


 それはともかく、正直に言ってかなりショッキングな資料でした。


 王城魔法使いの塔で出会ったのがコルちゃんではなくメルちゃんだったなら、自分は今ここにいなかったかもしれません。


 実はノワが裏で誘導した聖獣化もコルちゃんだったから出来たことだった可能性もあるでしょうし、そもそもノワに出会う前に魔力暴走して王城魔法使いの塔を跡形もなく吹き飛ばした挙句、危険な魔王として追われてましたね、きっと。


 そうならなかったのは良かったとして、それなのに今になってそれがケインズさんに降り掛かって来たのには責任を感じてしまいます。


 エダンミールの魔法使い達の暴挙を全て暴き立てることは出来なかったにしろ、これはエダンミールから大人しく帰って来すぎてしまったのかもしれません。


 少なくとも“饗宴”のカダルシウスへの手出しの行方にもっと気を配れていれば、今回のことももっと対処の選択肢が増えたかもしれません。


 憂鬱な思考を振り払っている内に、皆さんお揃いで、コルステアくんがラスファーン王子に突っ掛かりにいっていたのには驚きました。


 ラスファーン王子がサヴィスティン王子とイコールだって情報は、意外と知られていないようですね。


 まあその方が有難い訳ですが。


 コルステアくんに対する脊椎反射的な受け答えが波紋を呼んでいたようで、これには大いに反省です。


 結果、シルヴェイン王子とケインズさんに場を収めてもらって事なきを得ましたが、情け無い限りでした。


 どうしようもないこの事態に、思った以上に途方に暮れていたようです。


「ケインズさん済みません。」


 一にもニにもまずはそれです。


「え?」


 驚いたように目を瞬かせるケインズさんに、どう続けようか迷ってしまいます。


「サークマイトが契約者として選んだのがレイカ殿やシルヴェイン殿でなかったのは不幸中の幸いだろう。」


 と、何故か隣からラスファーン王子の発言が来て、驚いてそちらを振り向きました。


「資料の通りの完成版のサークマイトだったなら、尚のことだ。魔力暴走で王都を丸ごと消し飛ばす可能性すらあるレイカ殿やシルヴェイン殿が対象にならなかったことはまず喜ぶべきところだ。だから、代わろうなどとは思わないで欲しい。」


 そうこちらを見詰めながら付け加えたラスファーン王子は、こちらのケインズさんに対する罪悪感に釘を刺したようです。


「代わることは出来ないと思ってますけど、それでもケインズさんで幸いだったとは思えません。」


 そこははっきりと言い返してしまいました。


「個人的な感情は、少し抑えた方が良い。そもそもの話だが、レイナードを対象に立てられていた計画では、サークマイトと彼を接触させて魔力暴走を誘導する。そこで捕えられたレイナードを調査する名目で近付いたミルチミットが彼に魔力取り出しの呪詛を発動させて、全ての計画の動力源にするというものだった。」


 淡々と語ったラスファーン王子ですが、一切悪びれる風もないのが逆に会議室内の皆さんの反感を呼んでいるように感じます。


 コルステアくんなどは隠しもせずに嫌な顔になっています。


「ということは、そのサークマイトは魔力暴走の為に必要だったということですよね? その後も増殖させ続けてその魔力を使い続ける予定だったのですか?」


「まあそうだが、魔力暴走で一緒に始末される可能性が高いだろうと見立てた上で、もしも生き残ったら状況によっては魔力増殖させて呪詛を使って取り出す為に使うか、都合が悪くなれば始末する予定だった。」


 これは思ったより嫌な展開ですね。


「サークマイトと穏便に契約を切ることは、当然想定されていませんよね? 見たところ、ケインズさんに契約の跡はなさそうなので、魔法契約はメルちゃんの方だけに刻まれていますよね? これは書き換え出来るものですか?」


 例えば、契約者を見直したり魔力の受け渡しを止めたり、出来るならそれで手を打つのが一番良さそうに感じます。


「命あるものに直接刻まれた魔法契約を書き換えるのはかなり難しいと言われている。特に進行中の魔法は、レイカ殿でも難しいのではないか?」


 レイカでもというより、レイカだからこそ難しいの間違いでもありますね。


「・・・そう、ですよね。以前ウチの魔人にもそういえば無理だろうって言われてましたね。」


「ああ。だから、一番安全な方法は、契約を発動させたサークマイトを始末することだろうな。彼への影響を考えて、魔力の送り込みを遮断する魔道具か何かを彼に付けさせた上で。」


 これまた淡々と語るラスファーン王子には悪意はないのに、気分が悪くなります。


「切り離す、以外の方法は、ケインズさんへのリスクが高過ぎますよね?」


 ポツリと呟くと、タイナーさんの溜息が聞こえて来ました。


「サークマイトを極力殺したくないんだろうが、ケインズに常に魔法暴走の危険を背負わせるのは、いくら何でも可哀想だろう?」


「はい。そうですよね。でも、メルちゃんに刻まれた魔法契約の内容を見てから、本当に手がなければにしても構いませんか?」


 最終決定権を持っている筈のシルヴェイン王子に向けて問い掛けると、難しい顔のシルヴェイン王子に見詰め返されました。


「ラスファーン王子、そのサークマイトの研究に関わっていた者は特定出来るのか?」


 こちらの問いには答えず、シルヴェイン王子はラスファーン王子に問い掛けています。


「責任者だった者は分かるが、現在所在不明だ。カダルシウスに潜伏している可能性もあるが、探し出すのは至難の業ではないか? それよりも、カダルシウスのミルチミットやジオラスが何か知っているかもしれないが。」


「分かった。ミルチミットとジオラスには直ぐに確認を取らせよう。」


 シルヴェイン王子が言って、現在も牢に繋がれている筈のミルチミット達への聞き取り調査をしてくれそうです。


「ラスファーン王子、その責任者の名前を教えて下さい。」


 言いながら、伝紙鳥の紙を用意してペンを手に持ちます。


「え?構いませんが。誰かに探させるおつもりですか?」


 問い返されて頷き返します。


「ええ。ちょっと試してみようと思いまして。奥の手として考えていた私の構想に加えられるのかどうか。」


 “親愛なる翼竜の主人殿。如何お過ごしでしょうか? 貴方の下準備が順調に進んでいることを見越して、貴方の未来の主人より一つお願いです。次の人物が王都に潜伏している可能性があります。王都内に潜んでいるかどうかを確認して下さい。”


 そう書き記したところで、ラスファーン王子に改めて目を向けました。


「まさか、あのリッセンに探させるおつもりですか?」


「まあ。わたくしに仕えたいというのなら、そのくらい手土産にして欲しいですって伝えて試してみようかなと。」


 ここは強気で締めくくると、ラスファーン王子の顔が少しだけ引きつりました。


「・・・レイカ殿は、本当に彼とやりあうつもりでおられるのか。兄上でさえ、無難に据えておいただけだったのだと判明したのに。」


「やっぱりエダンミールでもトップクラスの災厄級の魔法使いなんですね?あの人。」


 嫌な事実が分かって更に気持ちが落ち込みそうです。


「まあ、そうだと思う。我々王族ですら、“揺籠”の実態は把握出来ていなかったからな。ただ言えるのは、これからのエダンミールに彼は心惹かれなかったということだろう。」


「これからのカダルシウスがどうだと思ってるんでしょうね? エダンミールに比べたら赤子みたいな魔法技術かないのに。迷惑だなぁ本当に。大人しくエダンミールに帰ってくれないかな。何なら王太子にのし付けてお返しするのに。」


 ブツブツと文句口調で垂れ流すと、ラスファーン王子がふっと柔らかく笑った。


「兄上が送りつけて来た手紙の意味が漸く分かった。兄上としては、エダンミールから流れて来た魔法使い達を扱いあぐねたレイカ殿が助けを求めたら、レイカ殿ごと喜んで引き受けようと持っていくつもりのようだ。だからエダンミールからカダルシウスに流れた魔法使い達を敢えて止めなかったと。」


 これまた嫌な話を聞きましたね。


「それはもう。頑張って掌握するの一手しかないじゃないですか。ホント嫌いですマーズリード王太子。」


 涙目で溢していると、コルステアくんの咳払いが聞こえました。


「おねー様、僕も全力で手伝うからね!」


 可愛い弟の力の込もった申し出にはうんうん頷き返しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ