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昼食後ラスファーン王子と向かった第二騎士団の魔法訓練場の側で、思い掛けずシルヴェイン王子と合流してしまいました。
あちらも驚いた顔になっているところを見ると、ラスファーン王子が来ると知って立ち会うつもりで来た訳ではないようです。
第二騎士団の兵舎に顔を出して付き合って貰うことになったカルシファー隊長も知らなかったようですね。
「クイズナーかトイトニーから何か聞いたのか?」
そんな問いを投げて来るシルヴェイン王子に首を傾げて返します。
「今日はラスファーン王子の本格的な魔力消費の為に来たんですけど、第二騎士団で何かある日だったんですか? 出直した方が良ければ引き返しますけど?」
ラスファーン王子に見せたくない何かだったら、遠慮すべきでしょうとそう返すと、少し躊躇うような顔になってからシルヴェイン王子は首を振りました。
「いや。かえって丁度良いのかもしれないな。付いて来て・・・」
シルヴェイン王子がそう返そうとしていたところで、訓練場の方から妙な圧迫感を感じて皆で言葉を止めてそちらに目を凝らしました。
「魔力、暴走?」
シルヴェイン王子が呟きと共に訓練場に向けて走り出します。
確かに膨張するように膨らんだ魔力ですが、これは見覚えのあるケインズさんの魔力ではないでしょうか?
こちらも焦ってシルヴェイン王子の後を追い掛けると、護衛の皆さんとラスファーン王子も追い掛けて来ます。
元々魔力量はそこまで多くない筈のケインズさんの魔力があそこまで膨らんで訓練場から溢れ返りそうになっているなど、余程の非常事態でしょう。
「ケインズさん!」
途中で立ち止まったシルヴェイン王子の傍を抜けて駆け込んだ先で、何処か呆然とした顔のケインズさんが立っていて、訓練場の壁際には小粒氷の立派な山が出来上がっています。
それを作ったのはケインズさんのようですが、その割にはケインズさんの身体の中を循環する魔力は普通で、激しく消耗した状態でもなさそうに見えます。
しかも、先程チラッと見えた魔力もケインズさんの魔力そのものというより、混ぜ物をして膨らませたような歪なものに見えました。
せっかく物凄く綺麗なケインズさんの魔力に混ぜ物をするとか、個人的には物凄く残念な気持ちになります。
「彼は、エダンミールで貴女に伝紙鳥を送っていただろう?」
ラスファーン王子の指摘には驚いてしまいましたが、ケインズさんの魔力は確かに中々見ないくらい特徴的で綺麗なので、魔力を見られる人には特定は難しくないのかもしれません。
そこから続くラスファーン王子のコルちゃんの世話係と知っていた発言から、自分の知らない内に王女宮でラスファーン王子に余り良くない形でケインズさんのことが耳に入っていそうな気配を感じました。
悪意ある噂話が流れているとは思いたくありませんが、表向きは婚約予定として宮に入っているラスファーン王子に、ケインズさんが毎日通って来てくれている話が当て擦りのように伝わっていたら申し訳ないと思ってしまいました。
そんなことを微妙な気分で考えていたところに来たラスファーン王子の“饗宴”の失敗作のサークマイトの実験体の話には、ギクリとしてしまいました。
「どういうことですか?」
思わずかなりキツイ口調で前のめりな詰問を返してしまいました。
それに、ラスファーン王子がさっと周りを見渡すような目を向けたので、こちらも居合わせたメンバーを素早く確認しました。
「リーベンさん以外は下がって。」
ウチの護衛さん以外はシルヴェイン王子と第二騎士団の隊長が3人です。
何を聞いても黙って飲み込んでくれるでしょう。
ウチの護衛さん達は、リーベンさんが訓練場入り口まで引き返して待機するように指示してくれました。
護衛さん達が信用出来ない訳ではありませんが、ここから先はラスファーン王子イコールサヴィスティン王子を理解して黙っていられる人以外には聞かせられません。
「レイカが王城魔法使いの塔から引き取ったサークマイトは、成功事例として王城魔法使いの塔に送り込んだ筈だったが、実際にはレイカの魔力に惹かれて側に潜り込むところまでは成功したが、そこから望まれた効果を発揮出来ないまま何故か聖獣化してしまった。とそのように報告されていたな。」
これには、シルヴェイン王子と隊長達がかなり険しい顔になっています。
「まさか、またレイナード魔力暴走を企んでたんですか?」
「うーん。魔力暴走の可能性もあったが、どちらかというとサークマイトを通して本人に扱えない程の魔力増幅を行い、本人の代わりにその魔力を活用するように持って行くのが目的だったようだ。」
そのカミングアウトには、一気に気分が悪くなります。
これは、レイナードさんのままだったら強制的に危険な魔王化は絶対に避けられない道が用意されていたってことですね。
今更ながら、本当に危なかったですが。
「ノワ」
ちょっと思い立ったことがあって、肩の上に呼び掛けます。
『ええ?今呼び出します?』
文句を言いつつも出て来たノワのことは半眼で睨んでおきました。
「ここから先は憶測だけど。コルちゃんの方が失敗作、実はメルちゃんの方が成功した個体だったんじゃないの? それで、賢いあの子達は王城魔法使いの塔に運び入れられる前に魔法使い達を欺いて入れ替わってたんじゃ?」
そう考えると色々と辻褄が合う気がします。
『さあ。入れ替わりまでは感知してませんが、聖獣化したサークマイトは魔力増殖して自己発動を止めて魔力を受け渡すような仕掛けは施されていませんでしたね。』
頭を抱えたくなってきました。
「では、メルが、危険な改造魔物だということですか?」
とここで、何処か思い詰めたようなケインズさんの言葉が聞こえてハッとしてそちらを振り返りました。
「そういうことなのだろうな。レイカの魔力で先程の暴走が起こっていなくて良かった。ところで確認したいのだが、サークマイトは2匹いるということなのか?」
そういえば、ラスファーン王子にはその辺りの事情を全く話していませんでした。
「私の聖獣って呼ばれてるコルちゃんが、市井で見付かった魔法研究所に囚われていたサークマイトを助けに来たそうで。そのままケインズさんに預かって貰っていたんです。」
「成程。これを見る限り、そのサークマイトは危ないな。早く殺処分するなりした方が良いと思うが。」
あっさりとそんなことを言い出したラスファーン王子の発言に、ケインズさんが青ざめて顔を強張らせています。
「それは、きちんと調べてから結論を出すことにして、もしかしてその資料があったりします?」
イルディさんとのアイコンタクトがもしかしたらと思ったのですが、これにラスファーン王子は何処か複雑そうに頷き返しました。
「イルディに、レイカに関わりがありそうなものから優先して確認させていて、そこに入っていたようだ。」
その気遣い?に瞬きしていると、ラスファーン王子が微妙に困ったように目を逸らしました。
「今回のように、過去の負の遺産でレイカに何か起こることは私の本意ではないから。」
何か言い訳のように言い募るラスファーン王子は、もしかして物凄くこちらのことを案じてくれているのかもしれません。
「えーっと。それはどうも? は、良いとして、その資料すぐに見せて下さい。きちんと確認してからメルちゃんとケインズさんのことも対策を立てようと思いますし。それまでケインズさんは済みませんがメルちゃんとは接触禁止で、魔力を練ったり魔法の使用をやめて下さい。クイズナー隊長、一緒に資料の確認して貰えますか?」
「カリアンとコルステアならば関わらせても構わないか?」
ここで口を挟んだシルヴェイン王子の真っ直ぐな視線を感じます。
「そうですね。メルちゃんのことも相談済みですし。ただ、ケインズさんにも第二騎士団の皆さんにもご迷惑をお掛けすると分かっていますけど、メルちゃんをいきなり処分するとかはちょっと待って下さい。」
シルヴェイン王子を真っ直ぐ見返してそう言うと、厳しい顔ながらも小さく頷き返された。
それからチラッと覗き見たケインズさんの顔も何処かホッとしているように見えて、こちらもホッとしてしまいました。




