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「失礼します。ケインズです。」
入って行った会議室には、トイトニー隊長とタイナーさん、クイズナー隊長が待っていた。
何となくそんな気はしていたので、このメンバーを疑問に思うことはなかったが、タイナーさんは王城魔法使いの塔に行かなくても良かったんだろうか。
「ケインズ、こっちに来て座りなさい。」
トイトニー隊長に言われて礼をしてから会議テーブルを囲む椅子の一つに腰掛ける。
「訓練のことは気にしなくて良い。どうやらそれより大事な話になりそうだ。」
そう言われて懸念が一つ消えたが、大事な話の中身に身構えてしまう。
「はい。あの、どのような件でしょうか?」
タイナーさんとクイズナー隊長の観察するような視線に居心地の悪さを感じつつ、トイトニー隊長に促すような問いを投げてしまった。
「ケインズ、最近魔法を使う時に魔力のことで気になったことはないか?」
早朝訓練で考えていたことをズバリと聞かれて、驚きが素直に顔に出た。
「それが、訓練で強化系魔法を使おうとした時に、上手く魔力制御出来ていないような気がして。」
困惑気味に口にすると、3人が顔を見合わせていた。
「それに気付いたのは?」
「昨日の訓練でも上手くいかなくて。今日先輩に魔力制御の問題かもしれないと言われて。魔法訓練の時にでも隊長に相談しようと思っていました。」
正直にそう答えると、トイトニー隊長には難しい顔で頷き返された。
「間違いないな。」
そう口にしたのはタイナーさんだった。
「どうやらそのようですが。」
少し苦い顔のトイトニー隊長。
「済みません。旅の間は気が付きませんでした。」
これはクイズナー隊長だ。
何のことかと居心地悪く目を瞬かせていると、トイトニー隊長がこちらを向いた。
「ケインズ、実はお前の魔力がおかしいかもしれないと大魔法使いタイナーに指摘されたのだが。お前自身が自覚したのは昨日今日のことなのか? それ以前にはそんなことは?」
え?と目を見開いてしまった。
「いえ。普段からさほど魔法は使いませんから。」
「一番最近、本格的に魔法を使ったのは?」
その問いにはしばらく考えてから、多分と頭に付けながら答える。
「エールに引っ張られた乗り物から降りる時に風魔法を使ったのが直近だと思います。」
「あの時は、危なげなく降りていたよね?」
クイズナー隊長の問いにしっかり頷き返す。
「あの時は特に違和感はありませんでした。」
「となると、いつが始まりで何がキッカケかだな。」
タイナーさんの言葉にドキリとしてしまった。
いつかコルステアくんの言っていたことを思い出した。
「あの。クイズナー隊長は魔力が見えるんですよね? 俺がレイカ殿下に命を救われる前と後で、魔力が違って見えたりしませんでしたか?」
思い切って訊いてみると、クイズナー隊長に視線が集まって、少し苦いような躊躇うような視線が返って来た。
「誰かに指摘されたんですか?」
問い返して来るクイズナー隊長は、慎重になっているようだ。
「コルステアくんが、メルを引き取った後様子見に来てくれた時に、そのようなことをチラッと言っていました。」
それにクイズナー隊長は目を細めて考え込んだようだ。
「・・・地色に変化はないのですけどね。艶というか光沢が増したような状態になった気がしますが、気の所為かと思う程度なのですよ。」
クイズナー隊長が何処か苦い顔で打ち明けたその話に、トイトニー隊長とタイナーさんがそれぞれ難しい顔で考え込んでいる。
「王女様の弟の王城魔法使いか。あれは本物だからな。ソイツが言ったことなら間違いないだろうな。」
コルステアくんがそこまで凄い魔法使いだとは知らなかった。
確かに、カダルシウスの魔法使い達の最高峰が王城魔法使いで、そこに10代半ばで当たり前のように所属しているのだから、優秀なのは間違いないのだが、初対面のあの癖のある性格の所為でそこだけ抜け落ちていた。
「コルステアくんですか。あの子はレイナードの中に入れ替わりで入ったレイカ殿下のことを、いち早く確信を持って別人と言い当てたそうですからね。」
そうだったのかと驚きと共にクイズナー隊長を見返した。
「私もレイナードくんとの魔力の違いには気付いていたけど、別人と入れ替わっているとは流石に思わなくてね。どうやって何故変化したのか調べていたんだ。」
そう聞くだけでもコルステアくんが相当なのだと分かった。
「さて、それはともかく。ケインズの魔力変化には、王女殿下が関係あるのか、それとも死に掛けたことなのか、魔物の毒を制したことで手に入れた変化なのか。これのどれに該当するか特定してみる必要がありそうだな。」
トイトニー隊長の言葉に皆が一様に頷いたが、クイズナー隊長が直ぐに首を傾げてこちらを見た。
「だが、何故今になって魔力が不安定になったのか、それも同時進行で調査と対策を打たなければいけないな。」
確かに、もしかしたら今まともに魔法全般を使えなくなっているかもしれなくて、それはとても困る事態だ。
「ケインズくん、旅の途中の魔法制御訓練でやっていたコインサイズの水を生成する魔法を使ってみようか。」
クイズナー隊長が言って、タイナーさんが念の為防水の結界を張ってくれる。
言われた通り旅の途中で立ち寄った街の噴水の近くで修得した水球をイメージする。
「集まれ水球。」
呪文を唱えながら魔力を乗せていくと、ザブンッという音と共に、半身が浸かるような水球を生み出していた。
「あー、なるほどな。」
トイトニー隊長が何とも言えない顔で感想を述べてから、分散と移動の魔法で少しずつ窓の外に捨ててくれた。
「・・・もしかするとな、魔力量が大幅に増えた可能性がある。」
呆然としていると、タイナーさんがそんな解説をしてくれた。
「え? 以前お会いした時よりも、ですか?」
「そうなんだ。その上、魔力が身体に馴染んでないのか、身体の至るところからガス抜きするみたいに漏れ出してる。だから、お前の先生が把握してるのか聞きに来たんだ。」
そんなことがあるだろうか?
「私は魔力ははっきりとは見れませんからね。魔法訓練に立ち会っていたら流石におかしいことには気付いたでしょうが。」
トイトニー隊長がそう答えていて、確かに団長殿下やレイカさんが留守にしてからはコルちゃんの世話やらその他色々あって、しかもトイトニー隊長も不在だったりで、魔法訓練には参加出来ていなかった。
「あの、だからコルちゃんやメルが俺の魔力を吸い取ったり出来たってことでしょうか?」
「その可能性はあるね。もしくは逆に、例の実験体のサークマイト、あれの所為でケインズの魔力が乱れた可能性もある。」
これにも目を見張ってしまった。
「これはタイナー、レイカ殿下に見て貰うのはどうでしょう?」
「そうだな。ウチの弟子は秘密主義だが考察は鋭い。しかも、時々とんでもない見解をうっかり漏らすからな。見立てさせてみる意義はある。第一対象がケインズで困ってるとなったら、一も二もなく飛んで来るだろうからな。」
にやにやとそんな台詞で締め括ったタイナーさんには少しだけじっとりした目を向けておくことにした。




